夢と現実の間で
お父さんの話を聞いたら数日後、僕は白いもやの中にいた。
いつもの夢かと思ったが、最近は夢の続きから見る事が多かったが今は最初の頃のように白いもやの中にいる。
だんだんともやは晴れてきたが僕は地面の上ではなく空に浮いているようだ。人間の足が見えるという事はまた何かの動物になったわけでもなく僕のままで立っていることになる。
はるか下の方を見るとウミと岸の間に赤いものが落ちている。
何かと目を凝らすと赤いものは少しだが動いていた。
更に見ると赤いものがウサギの形をしている事に気づいた。
皮を剥がれた夢の中の【ボク】である。
痛みに耐えられずに目を覚まして次はその姿を上から見ているという不思議な感じだ。
「彼を可哀想と思うかい?」
僕は声をかけられて驚いて声のした方を見る。聞き覚えのある声の先には笑顔のおじいちゃんがいた。
「なんで?」
僕は死んでいるおじいちゃんが目の前にいる事に答えを得ようとしたがおじいちゃんは笑顔で
「これはひであきの夢だからね。
私が死んでいても私はひであきとお話しできるんだよ。」
「そうだね、これは僕の夢だもんね。僕が望めばこんな事もできるのかもしれないね。」
「面白い体験だね。これは稲葉の白兎の夢だね。」
「おじいちゃんがしてくれた昔話?」
「そうだね、でも昔話じゃなくて神話だね。
あの皮を剥がれた白兎はこれから騙されて更にひどい目にあう事になる。ほら見てごらん。」
ウサギのもとに数人が集まって何かを話している。
場所が遠く声も聞こえない。少しするとウサギはフラフラと歩き始めウミの中へと入った。
「あっ!あんな状態で水に浸かったら大変な事になるよ。」
怪我をしたところを洗ったりすると痛いのと同じであんな傷だらけの状態で水に浸かればとんでもない痛みがあるだろう。
「そうだね、あの白兎は通りかかったある人から傷を癒すためには水に浸かれば良いと言われたんだ。
その人は偉い人で、その人が嘘を言うわけがないとウサギも思ってしまい自分からウミへと入ったと言うわけなんだ。」
「なんでそんなひどい嘘をついたの?」
「嘘には人を助けるための嘘と人を傷つけるための嘘がある。
人を傷つける嘘を言うのが好きな人だったんだろう。
誰も偉い人が嘘をつくとは思っていないからウサギを助けようとしない。」
「それじゃあ、あのウサギはどうなるの?」
「嫌な事や辛い事があった時にはそれに輪をかけて酷いことをする人もいるけど助けてくれる人もいる。ひであきには助けて貰える人になって欲しい。大丈夫、彼を助ける人は現れるよ。
嘘ばかりついていた彼は後悔してあんな姿になったしそれを見て嘲笑うように酷いことをして来る人もいたけど素直に自分が嘘をついた事を話した事で彼は救いを得たんだよ。」
「救いって?」
「それは自分で見て聞いたらいいよ。」
おじいちゃんはそう言い残して消えてしまった。僕もそこまでで目を覚ました。