おじいちゃんの話
『良いかい、ひであき。人に嘘をついてはいけませんよ。
嘘をつくと言う事は自分を否定したり他の人の努力を否定する事になる。他人がどれだけ努力したのかは上辺だけ見ても絶対に理解する事なんてできない。
でも、本当の自分は自分だけが知っているんだよ。
ひであきが良いことをしても悪いことをしてもそれを知ってるのは自分だけなんだ。周りでたまたま見た人がいたとしても、それは写真を眺めているのと一緒でそのひと場面を切り取ってしか見ていない。だから、簡単に誤解は生まれる。
ひであきの行動の一部を切り取った誰かの話とひであきの話が一致しなければ、ひであきが嘘をついた事になってしまうんだよ。
もう一度聞くよ、何でお友だちを叩いたんだい?』
おじいちゃんが僕に語りかけた。5歳の僕にはおじいちゃんが何を言ってるのか理解できなかった。
僕は泣きながら
『僕が嘘をついてないのに嘘つきって言ってきたんだ。嘘なんてついてないよ、本当だよ。』
『そうだね、してもいない事をしたと言われるのは厳しいよね。
いつもの行動がその人を形作るんだよ。そのお友達に嘘をついた事はなかったかな?』
『一回だけ嘘をついたよ。でも、一回だけだよ?』
『一回だけでも嘘をつかれた人からすれば心に傷を負う事もあるんだよ。
しっかりと謝っておかないと許してもらえないから嘘つきだと思われているんじゃないかな。
ひであきがしっかりと相手を大事にしないと相手からも大事にされない事を覚えといた方が良いね。
お友達に謝れそうかな?』
『うん。』
僕は強くうなづいた。
僕が子供の頃、おじいちゃんは僕の相談役だった。共働きの親の代わりに保育園に迎えに来てくれたのも親が帰ってくるまで一緒にいてくれたのもおじいちゃんだった。
難しい話も色々されたし意味がわからない事もいわれたけど、それでも僕はおじいちゃんが大好きだった。ひであきという名前もおじいちゃんがつけてくれたらしい。
そんなおじいちゃんが話してくれた逸話で面白いものがあったがそれが何かを今は思い出すことができない。おじいちゃんが病気で入院しているので今度お見舞いに行ったときに聞いてみようと思った。
それが出来なくなるとは思ってもいなかった。