第115話
頭領に羽交い絞めにされている幼稚園児は、頭領と健の言い争いが長いせいか、飽きがきていた。それで、身体が自由にならないので、バタバタ動こうとしていた。
頭領が「健!どうするんだ?子供が苦しがって暴れているぞ!どうなってもいいのか?殺してやろうか?」と健に攻撃的だった。
健は「子供が人質にとられている!」と叫んだ。続けて「デビルグリード!卑怯だぞ!人質の子供を解放しろ!そんなに殺したかったら、その子供の代わりに、僕を殺せー!」と健は、叫んだ。
健は、エコーズ結成以来、初めて、ヒーローらしいコメントをした。
このコメントに対して、いつもの戦闘員が「えっ!?頭領!子供の身代わりに僕を殺せって言ってますよ!聞いて驚け!見て驚け!ですよね?あれ、売り上げ追求バカの本物の健でしょうか?信じられないですね!」
頭領は「いいぞ!いいぞ!ハハハハハ!とにかく面白くなってきたぞ!もっといじめてやろう!」
デビルグリードのバイト戦闘員たちも、この後、どういう展開になるのかと手に汗握る様子だった。
阿蘭は「健!かっこいいぞ!まるで、暴走族のようだ!」
阿蘭は、昔、所属していた暴走族をヒーローのくせに、崇拝していた。
楓梨は「健さん、死んじゃダメよー!子供と一緒に、助かってー!」
健は、心にもないシナリオ通りのような、くさいセリフを叫んだが、それなりに、自分の演技が緊迫感があって、その雰囲気に酔っていた。たまには、こんな演出をすると、エコーズのメンバーにもウケるかと思って、試みた。思ったより、ウケたので、うれしかった。
千鶴は無言だった。
頭領は「もがけ!もがけ!苦しめ!健!」
頭領のセリフを聞いた健は、悩んだような顔つきをして、次に、頭領に決断するように叫んだ。
健は「子供の命が、かかっているんだ!そのためには、僕の命をお前にくれてやる!」
健は、先ほどのウケが忘れられず、もう1度、ヒーローらしくセリフを再び言った。
頭領は「お!健!再び、いいぞ!一段とヒーローらしくなってきたぞ!こっちも、いじめ甲斐があるぞ!もっと苦しめてやる!」続けて「よし!死ね!」と叫んだ。
頭領の言葉に幼稚園児は、反応した。よし!死ね=よし、つね と聞き違えた。
戦国ドラマの源 義経と勘違いした幼稚園児は、頭領が被っている洋風の兜が戦国時代の兜だと間違えた。
幼稚園児は、あろうことか、頭領に「おじいちゃん、引っ付きごっこはやめて、チャンバラごっこをやろう!」と誘った。
幼稚園児は、頭領に羽交い絞めにされているのも、引っ付きごっこで、遊んでいるのだと勘違いしていた。
頭領は幼稚園児に「ええっ!?このワシと?マジで?」と尋ねた。
幼稚園児は「だって、おじいちゃん、大好きなんだもん!」と友好的だった。
これには、エコーズたちは、もちろん、戦闘員たちも、拍子抜けだった。