<完結> 文豪元の世界へ 文豪の冒険これにて一件落着 (最新情報もあるよ)
ホワイトロードを抜け元の世界に戻ってきた文豪。
夏……
ぐうう
ぐおお
鼾をかく。
ギシギシ
ギシギシ
歯ぎしりも挟む。
うごおお
ごおおお
たまに咳払い。
くっしゅん
しゅん
くしゃみを連発。
文豪は夢の中。
起きる気配が無い。
元の世界。
ざわざわ
ざわざわ
人の気配。
それも一人や二人ではない。
大勢が集まっている。
文豪に近づく人影。
眠る文豪を無理矢理起こそうとする。
うぐぐ
激しさを増す。
起きてください。 起きて!
お主は?
お爺ちゃん。そこ私たちの場所なんだけどな。
場所?
あなたが今横になっているシートは僕たちが用意したものだ!
真面目そうなメガネの男が女に良い格好を見せようと必死に吠える。
儂は…… 文豪じゃぞ……
はいはい。お爺ちゃん。別のところに移りましょうね。
意に介さない。
儂は……
これ以上居座るようでしたら……
メガネの男が真面目に文句を垂れる。
訳が分からない。いきなり言われても困ってしまう。
こちらをじっと見る男女。
立ち去れと言うことらしい。
まったく最近の若い者はまったく……
異世界を経験して余計に老け込んだか。
体が上手く動かない。
何とか立ち上がる。
女の子の手を借りてよろよろと歩き出す。
大丈夫お爺ちゃん?
いや済まんのう。
きゃあ! おじちゃんのエッチ!
ついつい余計なところまで触ってしまう。
こら爺!
まずい。急いで立ち去る。
本当にどうしようもない爺だなまったく!
捨て台詞を吐いたのでこちらも応戦。
儂は文豪だぞ!
儂の! 儂の話を聞け! この馬鹿者が!
追い駆けてくる前に人混みに紛れる。
サラサラ
サラサラ
何かが頭と顔に降ってくる。
うん? これは桜か?
花びらが散っている。
そう今はお花見シーズン。
どうやらかここは公園のようだ。多くの花見客でごった返している。
桜の花が満開。
もうすでに散り始めている頃。
先生!
聞き覚えのある懐かしき声。
先生!
先生!
声の主を探る。
先生!
後ろを振り返る。
叫びながらこちらに駆けてくる男。
それは間違いない。
私の担当のものだ。
はあはあ
はあはあ
息を切らし何かを喚いている。
聞き取りづらいので待つことに。
どうした?
やはり先生でしたか。
どうしたって? いきなり消えちゃうんですからまったくこっちがどうしたって言いたいですよ!
済まん。済まん。
なぜ? …… 何が起きたんですか?
それは後々ゆっくり話すとして。まずは花でも見て落ち着こうじゃないか。
ええそうですね。
君はあの時巻き込まれなかったのかい?
ええ。危機一髪のところでした。
私には何が何やら。
あの後毎日のようにここに様子を見に来ました。
そうか悪いことをしたね。あれからだいぶ経ったようだね。
呑気なこと言ってないで説明してください!
しかし信じてもらえるどうか……
文豪はハブ以降のことを語りだした。
はいはい。それでそれで。
一通り話したところで確認。
はい。大体分かりました。
先生は異世界で迫力満点の冒険を楽しんだとそういうことですね。
話してみるものだ。疑うこともなくすっと受け入れてくれる。
では今その冒険から帰ってきたわけですね。
ああ。心配かけたな。
いえ。これも仕事ですから。
まるで信用してない物言い。
おい! 本当に理解したのか?
ええ。先生の言うことですからもちろん信じます。
無表情のせいかよく分からない。
これ以上説明しても無駄なようだ。
桜で心を落ち着かせる。
それにしても毎日ここに通ってくれたのか?
いえ。先生が居なくなって一週間だけです。後は手が空いた時に見に行きましたかね。念のため若いのにも協力してもらったんですよ。
では今日はたまたま?
それは違います。朝のニュースを見てすっ飛んできたんです。
うん?
今まで忽然と消えた者が急に姿を見せたって大騒ぎ。
だから先生も現れるのではと思いここに来た次第です。
そうか。それは迷惑をかけたな。
いえ、いつものことです。
花びらが足元に絡みつく。
先生。もうこの桜も散り始めています。
ああ。もったいないのう。
今が見頃ですから目に焼き付けてください。
うん?
今晩から荒れるみたいです。
明日一杯強風が吹くためここの桜も今日が見納めらしいですよ。
そうかそれは残念だ。
ふうそれにしても疲れた。
そうですね。ではそろそろ参りましょうか。
どこに?
決まってるじゃないですか……
病院か。悪いな車で送ってくれるか。
違いますよ。オフィスですよ。先生のために用意した仕事場。
忘れたんですか?
何! こんな疲れている老人に鞭を打つ気か?
何言ってるんですか? 溜まった原稿をどうにかしていただかないと。
本気か?
もちろん本気ですよ。
疲れているぞ?
頑張ってください先生。
老人を……
まだお若いじゃないですか。
儂は文豪だぞ!
分かってます。
儂の! 儂の話を聞け!
はいはい。
適当に流される。
くそ!
何か言いましたか?
いやいい。もう好きにしてくれ。
では参りましょう先生。
文豪は元の世界の元の場所へ。
もう会うこともないだろう。夏……
この桜が散る頃には夏との思い出もきれいさっぱり消えるのだろう。
夏…… 済まない。さらばじゃ!
春は過ぎ夏へと変わる。
もうそんな季節だ。
今日も世界は平和だった。
<完>
後記
これにて文豪の冒険は一応の決着を見るがもちろんまだ続くよ。
この物語は第三期に当たる。
もし余裕があるならば第一期から改めて見ることをお勧めする。
もともと一期は適当に書き始めたわけでここまで考えていたわけではない。
その為一期は少々短めになっている。
三期は一期終了時点で構想されていた。逆に二期はまったく決まっていなかった。
だから二期は本当に自由に思いついたまま物語を紡いでいった。
私としては二期に一番思い入れがあるが……
まあただ文豪の暴走と言う意味では一期なのかなあ。
とにかくこれにて文豪の冒険は完結。
文豪たちの活躍が見られるのは<ファイナル>。
それまで少々お待ちください。
<予定>
外伝
魔王の里に送られてしまった哀れな男の冒険譚をお届け。
新たに転生してしまった顔の怖い男のお話。
もしかしたら主役を変えて新たな冒険を始動させるかもしれない。
今のところこのどれか。<未定>
気長にお待ちください。
ではまた。
五月二十日現在
二廻歩