夢のお告げ 人さらいは追いはぎよりマシ?
人梨村。
一晩お世話になる。
夢の世界
お帰りなさいませ旦那様。
うむ。今日も暑いのう。
他の者は?
皆どこかに出かけております。
せっかく帰って来たと言うのに。
ご心配なさらずに。夏様はお庭に。
他の者はあえて二人の邪魔をしないよう気をきかせてくれたのでしょう。
さっそく庭園に。
広々とした巨大庭園。
今はバラとヒマワリが見ごろとのこと。
夏!
バラ園を抜ける。
ローズの匂いが心を落ち着かせる。
夏どこだい?
暑くて敵わない。
夕方だと言うのにまだ太陽が居座っている。
今夜も間違いなく熱帯夜。
夏風邪をひかないように注意せねば。
夏! 夏!
姿が見えた。
手を振る。
夏! 夏! 帰って来たぞ!
文豪? 文豪なの……
そうじゃ。ただいま帰ったぞ。
お帰りなさい。
夏!
文豪!
二人は抱き合った。
文豪痛い!
済まん済まん。強すぎたか?
ううん。違うの。
気をつけて。注意して。
何を言っている?
心配なの。文豪。あなたは間違っている!
儂が間違っている?
はっはは。冗談だろ。儂は文豪。間違いなどあるものか。
その思い上がりが命取りよ!
はっはは。夏よ。おかしいぞ。
私は忠告したわよ。
まあいい。それよりもどうした前よりもずいぶん太ってるではないか。
もう文豪! デリカシーが無いんだから。
済まん済まん。思ったことをすぐに口にしてしまうもんでな。
これは…… その……
どうした悩み事か。儂に言ってみよ。
文豪の馬鹿!
何を!
夏は逃げるように歩き出した。
待ってくれ夏! お前がいないと儂は困る。
ヒマワリ畑が近い。
一斉に太陽に向かってお辞儀をする花。
主従関係でもあるのだろうか?
綺麗でしょう文豪。
ああ。食い物以外に興味はないがな。
文豪なのに?
文豪だからじゃ!
文豪……
教えてくれ夏! いったい何が……
私のお腹のこと?
それともあなたのこと?
どっちも知りたいかな。はっはは。
じゃあいつものお願い。
いつもの? ああ望むのなら。
文豪だぞ! 話を聞け! 儂の話を聞け! 儂は文豪だぞ!
やっぱり愉快ね。
褒められたのか。貶されたのか。表情だけでは分からない。
実は私できちゃったの。
うむ。もう一つも頼む。
もう知らない!
夏は怒り出して距離を取った。
お願いだ夏。気になるではないか。
もう仕方がないわね。文豪あなた危険よ。すぐにそこを離れなさい!
離れるもなにも我が館。
それに夏お前を残してどこかに逃げるはずがない。
夏? 夏?
返事をしてくれ!
おい! 夏!
儂はどうすれば……
覚醒。
夢だったか。
夏はもう……
どうしました文豪さん?
いや。夢を見ていたようだ。
夢ですか。そう言えばうなされていたみたいでしたね。
悪い夢でも見たんですか?
いや。懐かしい夢であった。
そうですか。ならもう一度。おやすみなさい。
まだ暗い。
夜明けにはまだ遠い。
儂も寝るとするか。
待てよ。夏が何か言っていたような。
そうだ! ここからすぐに離れるように言ってたっけ。
おい! 出て行くぞ!
文豪さん。まだ夜中ですよ。
いいからここを離れるんだ!
叩き起こす。
出発!
夏の言葉を信じ行動に移す。
急いで他の者も起こす。
もう何なのよ文豪?
爺さんは朝が早いって聞いたけどいくら何でも早すぎるでしょう。
文句を言うな! 儂を信じろ!
話が見えてきませんね。
レイルはあの男をどう思う?
別に。親切なおじさん。
奴は人間でない!
嘘? オーレもそんな気がしてきた。
ちょっと文豪。どこに根拠が?
夢じゃよ。夏に言われたんじゃ!
パチン。
ドロップは容赦しない。
続いてレイルがひっぱたく。
おい本当じゃ。信じてくれ!
はいはい。
寝るわよ。
誰も信じてもらえない。
リーダーとしてもう後に引けない。
男のいる部屋へ。
コンコン
コンコン
やはり反応しない。いや反応できないのだろう。
ここには居ない。準備をしているに違いない。
証拠を集めて現状を分からせてやる必要がある。
髭面のおじさんは姿を見せない。
文豪を恐れてなのか。
何か事情があるのか。
よし思いっきって村を探してみるか。
まだ真っ暗。
誰かいませんか?
村はどうも廃村のようで人の気配が無い。
こんなところに髭面が一人で暮らしているのはおかしい。
これは何かあるに違いない。
これと言って手がかりはない。
仕方がないいったん戻るか。
夏が何を言わんとしていたのか分からないがとりあえず行動した。
儂は言われた通りにしたぞ。この後はどうしたらいい?
反応が無い。
そうか。また眠ればいいではないか。
詳しい話は夢の中で教えてくれればいい。
急いで戻る。
うん? 何か変だぞ?
物音がする。
それから何か割れるような音。
近づいてようやく分かる。
王子が捕まっている。
そしてドロップも降参。
キルルが最後まで抵抗するが王子の手前手荒なことはできない。
レイルも手に落ちた。
これで残すところキルル二人となった。
お前は何者だ?
俺は商売人さ。
うん。どういうことじゃ?
こういう事だよ!
武器を奪われた。
もう素手で戦うしかない。
正体を現せ化け物!
だから商売人だって言ってるだろ。お前らに恨みはない。
だがこっちも仕事でね。悪いな。
王子を人質にされ身動きが取れない。
せめて夜間でなければモンスターの力も弱く手の出しようもあるのだが。
正体を見せろ!
ふふふ。そう焦るな。俺様は人さらい。
人さらい?
若い奴であればあるほど価値がある。爺に興味はない。とっとと行っちまえ! それともお前も一緒に来るか?
今度の敵は人さらい。追いはぎと違って全てのものを盗んでいくわけではなく体ごと持っていかれてしまう。
もうどうにでもなれ。
抵抗虚しく敵の手に落ちる。
いいか大人しくしてろ! お前らに自由はない。
日の出までにはもう時間が無い。急ぐぞ!
言われるまま村を出る。
いいかこいつは人質だ。下手な真似するとどうなるかな。試してみるか。
ざわざわ
ざわざわ
どこに連れていかれるのやら。
なぜかモンスターは襲ってこない。奴らも仲間なのか。
急げ! 爺よ置いていくぞ!
へい。ただいま。
辺りは明るくなってきた。
もう間もなく着くのか? それとももっと遠いのか?
よし良いぞ。順調だ。もっと急ぐぞ!
髭面に余裕が見え始めている。
隙もできやすい。
今が逃げる絶好のチャンス。
王子ごめん!
逃走。
だが呆気なく捕まってしまう。
おい爺! お前は理解できないのか?
もはや人質はこの優男だけではない。
この女たちがどうなってもいいんだな?
やはり無謀だったか。
せめて協力者がいてくれたら。
そうか。虫! 虫はおらぬか!
ははは! あの爺はもうダメだな。
ティンが姿を見せた。
絶体絶命のピンチ。
小さな妖精でどうにかなるのか?
続く