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ミーティアライト  作者: てしこ
5/17

宇宙の穴!?

 屋敷に帰り着いたのは夕日が落ちる頃だった。

 10日ぶりだ。

 僕は久しぶりに開放感を味わっていた。ただ一つを除いては・・・。

「クラシス、そろそろ魔法を解きましょうか?」とヘラが聞いてきたので、僕は待ったを掛けた。

「どうして?」

 ヘラが首を傾げる。

 僕は上空を見上げた。ヘラもつられて見上げた。

 かすかに残る夕暮れの薄明かりの中に、見たこともない小さなプロペラの付いた黒い影が浮かんでいた。

「あれは何?」ヘラが目を細めながら空飛ぶ物体を見た。

「たぶん、あれは偵察機だと思う」

「偵察機?」

「この国では見かけないから、人族の使っている物だろう。あれにカメラが付いていて僕たちを監視しているんだ」

「どうして?」

「わからない、だから魔法は家に入ってから解いた方が良いと思う」

 偵察機と思われる物体は城を出たときからずっとついてきていた。

 僕はトール伯爵の屋敷で見た人族の機械を思い出した。あれにカメラが付いていたらハイドも映るのかもしれない、目立つことは極力避けたほうがいいと考えた。

 僕はヘラを促して急いで家の中に入った。

 監視されているとなると外に出るのが不便になる。

 僕は変装用のカツラが必要になると思いヘラに頼んだ。

「ヘラ、この髪と同じカツラを作って貰える?」

「どうしたのクラシス。まさか女装に芽生えたのではないでしょうね」

 ヘラが驚いた様子で尋ねた。

「違うよ、監視されていると言うことは、外に出るときはこの女の子の姿でないと変に思われるだろう」

「そう言われれば、そうね」

 ヘラは素直に納得した。

「じゃあさ、この際だから女の子の部屋も用意しちゃいましょう」

 唐突にヘラが提案する。

「どうして?」

 今度は僕の尋ねる番だ。

「監視されているんでしょう。だったら家の中に入ってこないとも限らないじゃない。女の子らしい部屋がなかったらおかしいわ」

 家の中まであの偵察機が入ってくるとは思わないが・・・、いやあのサイズだと入ってくることも可能かもしれない。万が一と言うこともある。僕はヘラの言う通りに女の子の部屋を作る事に同意した。

 まず部屋を決めることから始めた。

 この屋敷には使ってない部屋はたくさん有るが、貧乏貴族のため使用人が一人もいない現状では、大きな物を動かす人手がない。それで、ヘラの母親、僕のお婆さまの部屋を利用することにした。

 少し古びているが調度品もそろっている。大きな物はそのまま動かさず、椅子のカバーや飾り物に彩りを添えて少女の部屋らしく見せた。ドレスはお城で貰った物を持って帰っていたのでそれを使うことにした。

 作業は夜中近くまで続いた。

「うまく出来たわね」

 部屋を見回してヘラが満足げに頷いた。

 ヘラはもともと女の子が欲しかったみたいで、僕が男の子と知っていながら、可愛い物を買い集めていた。その品々が使われるときが来たのがよほど嬉しかったのだろう。嬉々としていろいろ持ち出してきては飾り立てた。

「なんだか、クラシスが本当に女の子になったみたい」

 夢見る少女の様に部屋を眺めている。

「よしてくれよ」

 僕はヘラの喜びの分だけ落ち込んだ。

「あー嬉しくなったら、お腹空いてきた」

 ヘラと同じく僕も空腹を覚えた。城のお茶会で少し食べただけで、帰って来てから部屋作りに取りかかったので何も口にしていない。

「お城から貰ってきた料理を食べましょう」

 ヘラの提案に賛成して、食堂で遅い夕食を取った。

 夕食の後、ヘラは自室に戻ったが、僕は二階の部屋でなく地下室に降りた。

『あそこに行くのか?』

 ハイドが姿を現した。

「ああ、あそこならあのカメラも入ってこないと思う」

『そうだな』

 もっともこの屋敷にはお爺さまの結界魔法がかかっているので、不審者が入ってくることは出来ないようになっているのだが、用心に越したことはない。

 地下室はどこの屋敷にもあるような穀物や薪などの日々の生活に必要な物の貯蔵や普段使わない物を置くために作られていたが、あいにくヴォルテハイム家の地下室はガラガラで少しの薪以外は何も入ってなかった。

 しかし、何の変哲も無い地下室の奥に魔法で隠された見えない扉が存在した。

 扉を開けると下に降りる階段が地下深くに続いていた。階段を下まで降りたところに少し広い空間が有る。照明もないのにほのかに明るい。この地下空間の存在は代々ヴォルテハイム家当主にのみに伝えられていた。

 お爺さまが亡くなったとき僕は幼少だったため神魔であるハイドに伝えられた。ヘラにこの場所の存在は知らされていない。ハイドと僕だけが知っていた。

 地下空間の奥にもうひとつ魔法で隠された見えない扉が有る。僕はその扉を開けたことがないので先がどうなっているのかは知らなかった。ハイドはとても大切な場所だと言ったが、今はまだ僕の知るときではないと教えてくれなかった。

「ヒルハミにヨルハミ出ておいで」

 僕は地下空間の中央に立ち二頭を呼び出した。

 身体の中から神獣と魔獣がモヤの様に出てきた。二頭のモヤは徐々に獣の形を取り、大きな犬の姿になった。

「しばらくはここにいて」と僕は二頭に言った。

 二頭は鼻をヒクヒクさせて空間の空気を嗅いだ。

「懐かしい空気だ」

 魔獣が呟いた。

「ハイド様ここは?」

 神獣がハイドに問いかけた。

「俺も詳しくは知らないが、神魔宮殿に関係する所だと亡きヴォルテハイム侯爵が言っていた」

「ここの空気は心が落ち着きます」

 神獣が言った。

「そうだろう、俺は記憶がないが、この空気は知っている」

「ハイド様は記憶を失われているのですね」

 ハイドは頷いた。

「250年前に助けられた時の事をぼんやりと覚えているだけだ」

「それでは500年前の天降祭の出来事は覚えていらっしゃらないのですね」

「なにも思い出せない」

 ハイドの言葉にヒルハミは少し気落ちしたように見えた。

「そうですか」と言って黙り込んだ。

 二頭の様子を見ていたが、特に異常は感じられなかったので僕はハイドに声を掛けた。

「僕は疲れたので先に上がるよ。ハイドはどうする?」

「俺はもう少しこの者達の話しを聞こうと思う」

「わかった。あの偵察機の事もあるので、明日の朝迎えに来るまでここにいて。それでいい?」

「うむ、仕方ないな。それでいい」

 ハイドは偵察機の話しに少し不機嫌になったが、僕が迎えに来るまで地下にいることを了承した。

「たぶんあの偵察機は、ヒルハミとヨルハミをあのお方が捜しているのかも知れない。あの姿が映るカメラを搭載していたら困ったことになる。不便だけどしばらくここに隠れていてね」

 僕は二頭にそう言った。

「ありがとうございます。クラシス様はあのお方と同じように私たちが見えているのに、私たちを支配しようとはなさらないのですね」

 神獣が少し首を傾げて僕を見た。

「なぜ君たちを支配しなければならないの?」

 不思議な顔で問いかける僕に、神獣は少し驚いた。

「こいつはお前達を使役したりしない」

 ハイドが横から声を掛けた。

「ハイド様」

 二頭がハイドに目を向けた。

「クラシス、俺が話しを聞いておくので早く寝ろよ。今日は朝から大変な1日だっただろう。充分に休まないと明日の朝は目の下に隈が出来るぞ」

 ハイドは僕に早く寝ろと言って地下空間から追い出した。


 翌朝、僕はハイドを迎えに行った。

 ヒルハミとヨルハミはしばらくここに留まることを僕に詫びたが、自由に出歩けるまで隠れないといけない事の方が申し訳ないと言ったらいたく感動された。

 僕たちは二頭を残して地下空間を出た。

 地下室に戻る階段を上りながら、ハイドにヒルハミとヨルハミからどんな話しを聞いたのか尋ねた。

 ハイドは彼らから500年前の天降祭の時に自分が行方不明になったこと、100年前の神の国と人族の国ガルボ帝国の戦争について聞いたと言った。

 地下室に着いたので話しの続きは後日聞くことにして、ハイドは僕の中に入り二階の自分の部屋に戻った。

 僕は棚から父のノートを一冊取って、昨夜作った女の子の部屋に行った。

 僕がクローゼットを開けてカツラを着けてドレスに着替えたのでハイドが驚いた。

『その姿で過ごすのか?』

「いくら引きこもりでも、部屋の窓やカーテンが開かないのはおかしいだろう?だからあの奇妙な飛行物体がいなくなるまではこの生活を送らないといけないんだ。一番困っているのは僕だからね。こんな状況だと研究室にもいけない」

 着替えが終わると厚手のカーテンを開けた。長いこと使っていなかったせいかカーテンから埃が舞った。僕は少し咳き込んで、レースのカーテンはそのままにして窓を少し開けた。

 上空に飛行物体が見えた。今日は一台増えて二台になっていた。

「うっとうしいな」思わず声が漏れる。

 レースのカーテン越しでも部屋の中は充分明るかった。

 外から見えないように、窓から少し離れたお婆さまの天蓋付きのベッドの端に座った。

 外側をブックカバーで隠した父イリアスのノートを開いた。

 ヘラから借りたノートは全部で5冊あった。

 ヘラは読めない文字と言っていたが、不思議なことに僕はその文字が読めた。4冊は考古学や歴史学に関するノートだった。残りの1冊の表紙には『息子へ』と書かれていた。父が僕のために残してくれた物のようだ。

 僕は僕のために書かれたノートを初めに読むことにした。


『息子へ』


 このノートはヘラの父ヴォルテハイム殿の提案で書くことにした。

 現在私は65歳だ。人族の寿命を考えるとあと何年生きていられるだろう。

 君が生まれる時には、父である私はもう存在していないのだ。

 君の母ヘラは魔族の出だが魔法が使えなかった。本来なら魔法が使えない魔族は人族の私と同じ寿命なのだが、ハイドと契約することでヘラは魔法が使えるようになった。魔法が使えることでヘラの寿命が延びて、君は私のいない未来で生を受けることになった。

 未来に生まれてくる私の息子に少しでも父である私のことを知ってもらいたいと思いこのノートを残す。

 ハイドとの契約を含め真実を書くにあたり、他人にこのノートを見られないように、私の息子であるクラシス・ハイド・ヴォルテハイム以外の者が読むことが出来ないように、ヘラのお父さんにお願いしてノートに魔法を掛けて貰った。


 私の名はイリアス・トルケーノ。髪は金髪で蒼い目をしている。私の生まれた地方ではごく標準的な容姿だ。

 君はどんな姿をしているのだろう。私のように金髪だろうかそれともヘラのように赤い髪だろうか。ヘラのお父さんは銀髪なので、銀色かもしれないね。私の想像力は君をいろんな姿に見せてくれる。

 君に直接会えないのは残念だけれど、それは私とヘラが決めたことだから後悔はしていない。君がどんな時代に生まれても、わたしはヘラの次に君を愛しているよ。だからいつでも私は君の側にいると思っていて欲しい。


 私が生まれたのはアステリア王国という今はもう存在しない国だ。

 私が生まれたアルテナ歴1712年はアステリア王国は隣国のガルボ帝国と紛争を繰り返していた。

 ガルボ帝国は自国の領土を広げるために近隣の国を襲い、無謀な戦争を繰り返しながら強大化していた。

 その戦争は私の生まれたアステリア王国にまで及び、アステリア王国の人々は戦火から子供を守る為、木樽の中に子供を入れて川に流し隣国の神の国に逃がしていた。私もその中の一人だった。

 私は神の国トルカ港の近くのトルケーノで木樽の中にいるところを保護された。

 そこで保護されたほとんどの子供には名札が付けられていて、子供の名前と親の名前が書いてあった。戦争が終わったときに捜しやすいために付けられていたのだ。

 でも、私は「イリアス」という名前が走り書きされた粗末な産着を着た、生まれて間もない赤ん坊だったらしい。戦火の中で出産してそのまま木樽に入れて流されたらしい。保護されてすぐに孤児院に預けられたと聞いている。

 アステリア王国は滅び、ガルボ帝国に吸収された。

 西大陸のほとんどを占領したガルボ帝国は、神の国と和平協定を結んだ。

 神の国は神族が支配する国で神族は人族とは違い神力という特殊な能力を持っていたので攻め込めなかったというのが本音と思われる。

 私にはヘマという白いモヤのような友達がいた。いつからいたのか思い出せないが、ヘマが私を木樽から救ってくれたと聞いたので、たぶん拾われてからずっと側にいてくれたのだと思う。

 ヘマは自分は神魔だと教えてくれた。神の国の神族とは違う存在らしい。神魔の姿や声は常人には見えないし聞こえないらしい。神族の中でも数名にしか聞こえない声が、人族である私に聞こえるのは不思議な事らしかった。

 孤児院時代の私は、他の人にヘマの声が聞こえないという意味が分らなかったので、いつも独り言を話している変な子供と思われていたらしい。

 孤児院を出て、学校の寄宿舎に入ると仲の良い友人ができた。その友人からみんなが私を変人と思っていると聞いて私は驚いた。それからは誰もいないときにヘマと話しをするようになった。ヘマもそれを望んでいた。

 神の国の学校は寄宿制で6歳で入学して15歳で卒業するまで、春や夏の休み以外は家に帰れない規則になっていた。家を持たない私には最適な場所だった。

 ヘマは人を捜していると言った。赤毛の女の人だそうだ。「どうして?」と聞いても教えてくれなかった。

 私が12歳になる頃、捜している人が見つかったとヘマが言った。

 捜していた人には小さな子供がいて、その子供はヘマの姿がきちんと人型に見えて普通に会話も出来ると言っていた。ヘマはまだ小さなその子にいろいろ教えるために仲間のところに戻らなければいけなくなった。だから私とはもう会えないと言った。

 私はヘマと別れるのが寂しかった。生まれたときからずっと側にいてくれたヘマは、私の父であり母であり友達だった。ヘマと別れることは心が引き裂かれるほど辛かった。私が我が儘を言えば、優しいヘマは無理をしてでも会いに来てくれるとわかっていた。でも私はそんなヘマの優しさを利用してヘマを困らせることはできなかった。私は何も聞かずにヘマと別れることを受け入れた。

 ヘマは別れるときに自分の事は他人に絶対話さないようにと口止めをした。私が神魔と話せることがわかったら良くないことが起こると心配したのだ。

 その頃には、私は神魔がどういう存在であるのかを知っていた。

 神魔は神族より強力な力を持つ者で、その力は世界を動かすことが出来ると聞いていた。時の権力者はその力を欲しがっていた。

 神魔と話せると吹聴した者は帝国に連れて行かれ誰も帰ってこなかった。私はそのことを知っていたのでヘマの忠告を守った。

 学校に私の噂を聞いて帝国の軍人が訪ねて来たこともあったが、私は空想好きなので考えたことが口に出てしまうらしい、だから独り言が多いので変人と思われていると言って誤魔化した。

 そんな事もあって、私は神魔や神族の事が知りたくて歴史学者になる事を決意した。

 ヘマと別れて3年間は勉強一筋で過ごした。

 15歳で学校を卒業すると歴史学の勉強をするために大学に行きたいと思った。

 神の国を出てガルボ帝国で働きお金を貯めた。15歳の何も持たない若者にとってガルボ帝国は優しくなかった。底辺の仕事しか与えられなかった。それでも歯を食いしばって働いてお金を貯めた。

 5年後ガルボ帝国で働いた僅かなお金を持って船に乗り、遠く海を越えたシートラス国を目指した。

 シートラス国は民主運動が盛んで、市民により王政が倒されて、市民が選挙で代表を決めていた。そして選ばれた代表者達が国を動かしていた。

 ガルボ帝国の階級に縛られた世界とは違い、シートラス国は自由だった。人々も活気に溢れていた。

 1年後、私はシートラス国の大学に入学した。

 働きながら念願の歴史学を学んだ。

 毎日が楽しかった。

 そんな頃にヘラと出会った。

 ヘラを初めて見たときは、燃えるような真っ赤な髪に目が釘付けになった。

 ヘマがいつも赤毛の女と言っていたこともあって、私はヘラに興味を持った。

 でも次にヘラを見たときの髪の色は薄茶色になっていた。

 ヘラは魔族の出だけれど、魔法が使えないので15歳になると人族にならないといけない決まりだから、家から追い出される前に家出してきたと言っていた。

 家出して二年になるけれど父は私を自由にはしてくれそうもないと笑っていた。親が監視しているから誰も私に声を掛けてくれないと少し怒ってもいた。

 確かに友人から、ヘラに声を掛けようと思って近づいただけでひどい目に遭わされたと言う話しを聞いた。だからヘラに興味を持ってもかまうなとみんなから忠告された。

 神魔と神族の研究をしていた私は、魔族の出と聞いてますますヘラに興味を持った。

 ヘラから魔族の話しを聞いているうちに私たちはお互いを意識するようになった。

 しばらくして、私はヘラに交際を申し込み付き合い始めた。みんなが言っていたようなひどい目に遭うことはなかった。

 私は初めてヘラを見たときの髪の色が真っ赤に見えたとヘラに話したら、ここでは薄茶色の髪に見えるけれど、本当の髪は赤だと教えてくれた。赤い髪だと目立ちすぎるので薄茶色に見える魔法を父親が掛けたのだと言った。

 ヘラは赤い髪に見えたという私の話を父親に話したら、父親がとても驚いていたと笑った。

 ヘラの父親はその話しに興味を持ったのか、時々私に会いに来た。私も魔族の事を知りたかったのでヘラの父親と話すのは楽しかった。

 1年後私たちは結婚した。

 私はまだ学生だったので生活は苦しかったが、私たちは幸せだった。

 ある日、大学の友人で考古学専攻のハイマンと天文学専攻のヤーコブが訪ねて来た。

 ハイマンとヤーコブは共同で500年に一度行われるという神族の祭り天降祭について研究していた。天降祭のたびにセゾンは天変地異に見舞われている。天降祭と天変地異の関係を調べるために神の国にある神魔の宮殿跡地を調査したいと考えていた。そこで調査するために私の協力が必要だと言った。

 私が神魔と神族の歴史を研究しているのを知っている二人は、私も興味を持つだろうと思って誘ったそうだ。それに私の出身が神の国の学校と聞いていた二人は、宮殿跡地を調査する許可を取るために私の協力が欲しかったらしい。

 私は神魔宮殿の跡地を調査したい旨の手紙を寄宿学校の学校長宛に送った。

 3ヶ月後、学校長から王宮の許可を貰ったとの返事が届いた。

 ヘラに留守を頼み、私たちは神の国に出掛けることにした。

 シートラス国から神の国までは船の旅だ。

 1ヶ月後、船は神の国トルカの港に着いた。

 私にとっては8年ぶりの神の国だった。

 着いたその足で寄宿学校に挨拶に行った。

 学校長は私が学生時代の夢を諦めず歴史学を学ぶために大学に行っていることをとても喜んでくれた。そして友人のハイマンとヤーコブも快く迎えてくれた。

 一通りの挨拶が終わり応接室の椅子に落ち着くと、学校長はあらたまった口調で遠くから来て貰ったのに申し訳ない事になったと私たちに言った。

 神魔宮殿跡に行くための許可を貰ったので連絡をしたけれど、一週間前に王宮より、最終的に許可するか否かは直接私たちに会ってから決めると言って来たらしい。

 恐縮する学校長に私たちは、学校長の尽力にとても感謝している旨を伝え、王宮に出向いても差し支えない日を王宮に問い合わせて頂けないかとお願いをした。学校長は私たちの願いを引き受けてくれた。

 王宮からの返事を待つ間、滞在するホテルを捜すため、明日もう一度訪れることを約束して学校を後にした。

 学校は神の国の中心地よりかなり離れたトルカの港に近い高台に建っていた。

 王宮の近くのホテルが良いだろうと、王宮のある中心地まで3時間かけて歩いた。午後も遅くなった頃、城壁に囲まれた王宮の街に着いた。街の入り口を入ったところにホテルを見つけたのでそこに泊まることにした。

 私たちはホテルに荷物を置き街に出掛けた。

 神の国の街は、街の入り口の門から真っ直ぐに伸びる道があり、街の中心に噴水の広場があった。噴水の広場を中心に放射線状に六つの道に別れていて、入り口から通ってきた道と同じ線上に続く道の先に王宮が見えた。六つの道の通り沿いにはいろいろな店が並んでいた。

 シートラス国のザワザワした活気に満ちた人々といつも接していた私たちの目には、神の国は街も人も整然として見えた。

 私たちはレストランに入り早い夕食をとって、早々にホテルに戻った。

 翌日、約束した時間に学校に行くと、学校長と一緒に王宮からの使者が迎えてくれた。

 私たちは使者と一緒に馬車に乗り王宮に行くことになった。

 王宮に着くと、小さな部屋に案内された。

 しばらく待っていると、壮年の男性と二人の若い人物が現れた。壮年の男性は自分は王だと名乗った。他の二人は宰相のへーガルと第二王子アセラスと名乗った。

 私たちはそれぞれの名前を言ったあと、ハイマンが代表して神魔宮殿跡を調べる研究について話し、調査の許可をお願いした。

 王様は学業の研究のために跡地に入ことを快く許可してくれた。

 ハイマンは跡地に貴重と思える物があった場合持ち出しは可能かを確認したところ、それは王家の学者が見て考えようと言った。

 ハイマンがなぜそんな質問をしたのか私は分らなかったが、小さな欠片が大きな発見になることもあるから先に聞いておいた方が得策なんだと後から教えてくれた。

 王宮を出た私たちはホテルに戻った。

 翌朝、大きなリュックにテントや寝袋、食料を詰めて、まるで山登りのような支度をして王宮に行った。

 私は寄宿学校時代に神魔宮殿跡地について調べたことがあった。神魔宮殿の跡地がとても険しい道のりの先の断崖の上にあるとその時初めて知った。だから神魔宮殿に行く時はそれなりの装備が必要だと考えていた。ハイマンもその辺は大学の研究室で調べていたらしい。そんな事もあって私たちは充分に準備をして神の国に来たのだ。

 調査には王家の学者が二人付いてきた。彼らもテントと食料を用意していた。

 跡地の入り口は鎖と鍵で閉じられていた。鍵を開けて海に突き出た崖に向かって細長い階段を上った。その先には階段と同じくらい細長い吊り橋が架かっていた。吊り橋の両側は右に極点を望む海と左はガルボ帝国に面した海があった。吊り橋の下はかなり深く、遙か下では海水が渦巻いているのが見えた。吊り橋の先は地殻変動のために両側が削れ半島の様に隆起した細長い断崖絶壁の岩の上に道が続いていた。

 海風に吹きさらされた細い道に杭が打たれ鎖が付いていた。風による落下防止のための手すりだった。

 海から吹き上げる風に身体を攫われそうになりながら岩だらけの長く続く道を黙々と歩いた。

 海に夕日が落ちる頃少し開けた場所に出た。

 そこには城壁の跡らしき壁と石柱と鉄製の柵の門があった。鉄製の柵の先は海だった。

 王家の学者がこの場所が神魔宮殿の跡地と説明してくれたが、そこはとても宮殿と呼べる場所ではなかった。

 私たちはここで野宿することにした。日が落ちて夕闇がせまる中でテントをはった。幸いなことに風がそれほど吹いていなかったので助かった。

 テントの次は食事を取ることにした。途中の道では休めるような場所は無く、簡単に口に出来る物で空腹を和らげることしか出来なかったので、夕食は明日に備えて充分に栄養を取ることにした。

 テントに三人は狭かった。ハイマンとヤーコブにテントを譲り、私は転がって海に落ちないように鉄の柵に寝袋を結びつけて寝ることにした。

 横になると星が綺麗に見えた。

 私たちが調査に出掛けた時期は、太陽アスラはアルテナの後方にあった。アルテナが昇るとその横にアスラが見えた。アルテナが沈むとアスラも沈んだ。そのため朝と夜の区別がハッキリしていたので夜は暗く星がよく見えた。

 波の音と星の瞬きの中で私は眠りに誘われていた。

「・・・」

 波の音に混ざって何か聞こえた気がした。

 誰かに呼ばれたかと思いテントに目を向けたが、誰も起きてくる気配はなかった。耳を澄ましても波の音以外は聞こえなかった。

 気のせいだと思い目を閉じたら、また何か聞こえたような気がした。私は寝袋から起き上がり周囲を見回したが何も見えなかった。

 私は寝袋に戻り再び目を閉じた。

「・・・」

 かすかに声が聞こえた。私は顔の横を見た。

 鉄製の柵の奥の崖に沿ったわずかな土の部分に瓦礫が見えた。その瓦礫の下で黒いモヤが動くのが見えた。

 私は寝袋から手だけ出して瓦礫をのけてモヤを掴んだ。モヤがなぜ掴めたのか、考えたらおかしいのだが、掴めたので顔の前に持って来て見たが、それが声を出すことはなかった。私はそれを後で調べるために寝袋の内ポケットに入れた。

 しばらく星を見ながら耳を澄ませていたが、声はもう聞こえなかったのでそのまま眠ってしまった。

 翌朝目が覚めたら、ハイマンとヤーコブはもう調査を開始していた。王家の学者も二人についていた。

 私は慌てて寝袋をたたみ、彼らと一緒に調査をすることにした。

 私は城壁を調べながら、過去に何が起きたのだろうと空想にふけっていた。

 昨夜見た鉄柵の先の瓦礫を拾った。そこには同じような瓦礫の破片が落ちていた。その破片のいくつかに黒いモヤモヤした物が付いているように見えた。昨日のモヤのことを思い出し私はモヤの付いた破片を拾いズボンのポケットに入れた。

 ハイマンが私のところに来た。私が破片を拾っているのが見えたらしい。咄嗟に私は、近くに落ちていた少し大きめの瓦礫の破片と破片をくっつけて、「なんだか文字が書かれているように見えないか?」と言った。

 その破片は変わった模様をしていたので、ハイマンは興味を持った。王家の学者を呼んで「ここの破片を持ち帰って復元してみたい」と言った。王家の学者は破片を見て「これを復元するのは時間がかかるぞ」と言ったが、ハイマンは「もしかしたら歴史的に重要な物かもしれない。復元できたらそのまま返すので許可が欲しい」と半ば強引に言った。学者は王様の許可が出ればとハイマンの要求を受け入れた。

 私たちはその場所に落ちていた瓦礫の破片を拾うことにした。ここは風の影響が少なかったようで破片は思ったより沢山集まった。

 充分に拾い集めた様に思えたので、帰りに回収することにして破片の袋をその場所に残し、先に進む事にした。

 城壁が崩れ残っている細い道が続いていた。3キロくらい歩いた所で道が無くなった。というよりごっそり海に落ちてしまった様な感じだった。

 私たちは神魔宮殿の鉄柵門の前まで戻った。

 そして、前日と同じ場所で野宿することにした。

 昨夜と同じ場所に寝袋を鉄柵にくくりつけていたら、ヤーコブが寝袋を持って来た。

 食事の時に、昨夜は星がとても綺麗に見えたと話をしたら、自分も見るんだと言って私の横に寝袋を並べた。

 星を見ながらヤーコブが天降祭について自分の考えを話してくれた。

「神族や魔族の寿命が長いのはなぜか?僕の考えでは天降祭における何らかの役割が彼らにあるからだと思うんだ。彼らは人族には何も教えてくれないけれど、天降祭は隕石がこのセゾンに向かって降ってくる日なんだ。星の動きを見ていれば分るけれど、500年周期でアルテナは宇宙の穴の近くを通過する。その時宇宙の穴から多くの隕石が降ってくる。1000年前の天降祭の年は第1惑星と第4惑星と第5惑星が犠牲になった。そしてアルテナは第1惑星が飛んできたことで自転の向きが変わった。その影響でセゾンの公転の向きも変わった。第4惑星と第5惑星は合体して太陽アスラになった。ここまでは分っているんだけど、その時の神族と魔族の役割がいまいちハッキリしないんだ。それに神魔という存在・・・」

 話しながらヤーコブは寝ていた。

 私はヤーコブが寝たのを確認して、昼間拾って隠し持っていた欠片をズボンのポケットから出してモヤを取り、昨夜と同じようにモヤを寝袋のポケットに入れた。欠片を用意していた袋に入れているとハイマンがやってきた。

「こら、勝手に欠片を持って帰ったら怒られるぞ」

 私は拾ってズボンのポケットに入れていたのを忘れていて、寝ようと横になったらポケットに入れていたのを思い出したのだと言った。

 次の朝、昨夜のハイマンと私の話を王家の学者が聞いていたらしく、私は身体検査をされた。欠片は全部袋に入れていたので、私のポケットからは何も出てこなかった。寝袋のポケットも調べられたが、モヤは彼らには見えてなく、触れる事もできないようだった。私はモヤの入った寝袋をたたみリュックに入れた。

 この日は王宮に帰るために1日目に通った細い険しい道を半日かけて戻った。

 王宮に着くと、先日案内された部屋と同じような部屋に案内された。

 拾った欠片を全部王家の学者に渡した。念のために再び荷物やポケットを全て調べられたが何も出てこなかった。あのモヤは今度も見つかることは無かった。

 王家の学者が欠片の入った袋を持って部屋を出て行った。

 しばらく待っていると、王の許可が出たと学者が欠片の入った袋を持って戻って来た。

 私たちはお互い安堵した。とくにハイマンは私とヤーコブ以上に喜んだ。

 私たちは王家の学者と別れ部屋を出た。

 部屋を出たところで、私は走ってきた子供とぶつかって転んだ。

 子供は謝りもせずに走り去った。その子供の後を声が追いかけていった。私は驚いて子供の走り去った方向を見た。赤毛の男の子と三つの白いモヤが去って行くのが見えた。

 私がぼんやりしていると、第二王子が現れて弟の無作法を詫びに来た。第二王子の弟と言うことは、あの子供は第三王子だと思われた。

 私はハイマンの手を借りて立ち上がった。

 第二王子の後ろに白いモヤが見えたような気がしたが黙っていた。

 私たちは第二王子に挨拶をして王宮を後にした。

 王宮を出ると外はもう夜だった。

 ホテルに戻り、部屋に入ると、ハイマンは欠片を床に広げた。そして同じような色や材質の物をそれぞれ小分けにした。そして小分けにした二袋をヤーコブと私のノルマだといって一つずつ渡してくれた。どうやらこの欠片の復元を手伝わなければならないみたいだった。

 ハイマンは残った欠片を手に、早速パズルあわせを始めた。

 私は欠片を部屋の隅に広げたが、ハイマンの様にすぐ何かをするという気分ではなかった。

 ヤーコブはうんざりした顔で袋を貰うとベッドに横になり寝てしまった。

 私は第二王子の後ろのモヤについて考えていた。あのモヤはヘマの様な気がしたからだ。だとしたらあの第三王子がヘマ達が捜していた人の子供なのかもしれないと思った。

 私はモヤモヤした気持ちのまま寝てしまった。

 翌日は昼の船で帰ることになっていたので、私は学校長にお世話になったお礼を言うために寄宿学校に出掛けた。ヤーコブに声を掛けたが、神の国を少し見て歩きたいと一人で出ていった。ハイマンは欠片と格闘をしていたので声を掛けなかった。

 また1ヶ月の船旅が始まった。

 私たちはすることがないので、欠片のパズル合わせをしながら長い船旅の日々を過ごした。

 パズルが三分の一くらい進んだ頃にシートラスの港に着いた。

 私は真っ直ぐヘラの待つ家に帰った。

 久しぶりに自由を感じた。私はシートラスに住んで良かったと心から思った。

 大学に戻り、毎日が普段の生活に戻った。

 欠片パズルは余暇の仕事になった。

 神の国から戻って1ヶ月ほど経った頃、休みに家で欠片パズルをしていると、神の国の話しを聞きたいとヘラの父親が訪ねて来た。

 私は神魔宮殿の跡地の話しをした。ヘラの父親は宮殿の跡地が地殻変動でひどいことになっていると聞いて驚いていた。

 ヘラが旅行用の寝袋を洗っても良いかと持って来たので、私はモヤの事を思い出した。

 私はヘラから寝袋を受け取ると内側のポケットを探った。黒いモヤはまだ入っていた。

 ヘラの父がモヤを見て「これは!」と驚いたので、ヘラの父親もモヤが見えるのだと知った。それでモヤを拾った夜の話しをした。

 ヘラの父親はますます驚いて、今度はモヤに話しかけた「そこに居るのはどのたですか?」するとモヤが「俺の名前はハイドだ」と返事をしたので私は驚いた。

「ハイド様はなぜそのようなお姿に・・・」ヘラの父親が続ける。

「覚えていない」

「私に何かできる事はございますか?」

「私は場所が欲しい」

「場所とは・・・?」

「そこの娘の子供の中で眠らせて欲しい」

「娘の子供?」

「ああ、その娘のお腹に小さな男の子がいる。俺のこの身体を預けるのにちょうど良い大きさだ」

 ハイドと名乗ったモヤの話しに、私とヘラの父親は驚きを隠せなかった。

「ヘラのお腹に子供がいると言うのですか?」

「そうだ、俺はその子供の中で250年ほど眠れば身体を元に戻すことが出来る」

「250年!ヘラは250年も生きられません!」と私が言うと、ハイドは「その娘は魔族だろう、まだ生まれて20年くらいに見える。250年は大丈夫だろう」となんでもないことのように言った。

「ハイド様、ヘラは魔法が使えません。魔法が使えない魔族は人族と同じ寿命しか生きることが出来ません」ヘラの父親が説明した。

「なら、魔法が使えるようになれば問題ないんだな」

「それはそうですが・・・」

「俺が使えるようにしてやろう。どんな魔法が使いたい?」

 私とヘラの父親は顔を見合わせてからヘラを見た。

 ヘラはハイドの声が聞こえていないので、私たちが見えない何かと話しをしているのを見て不思議な顔をしていた。

 私がハイドから聞いた話を伝えると、「魔法が使えるようになるのなら、眠る場所を貸してあげてもいいわ」と簡単に答えた。

「魔法は美容に関する魔法が良いわ。自分もそうだけど人の身体を変化させて若返らせたり出来る魔法があれば、そんな魔法を使えるようになりたい」とハイドに言ったら、ハイドは簡単なことだと言った。ヘラはそれを聞いて喜んだ。

「じゃあ契約は成立だな」ハイドはそう言うと、フワリと浮かんでヘラのお腹のあたりで消えた。

 私たちは狐につままれたように立っていた。

 ヘラが父親に「お父様、私魔法が使えるようになったのかしら?」と聞いた。

 父親は「お前に魔力を感じるから、たぶん使えるのだろう。そこの枯れかけた花で試してみたらどうだ」とテーブルの花を指さした。

 ヘラは枯れかけた花に「蕾に戻れ」と言った。

 すると花は勢いを取り戻しそして蕾になった。それを見てヘラは喜んだ。

 私はヘラが魔法が使えるようになったら魔法の国に帰るのではないかと不安になった。

 ヘラに「魔法が使えるようになったから国に帰るのか?」と聞いたら、私の寿命が尽きるまでは一緒にいると言ってくれた。私がいなくなったら魔法の国に帰ると言った。

 ヘラの父親もそれでいいと言ったので私は安心した。

 以上の様な訳で君の誕生は250年先になってしまった。

 ヘラは魔法で容姿を変えること無く、私と一緒に年を取ってくれている。ヘラの父親を見ていると、年を取った姿が魔法で作っているのかもしれないが、私にとってヘラは最高の妻だ。彼女と夫婦になれて良かったと思っている。

 ハイドと君はヘマと私がそうであったように、信頼できる関係になっているだろうか?そうであることを祈っている。


 さて、その頃私はハイマンの欠片パズルを作成していた。このパズルが完成したとき私たちは一躍有名人になった。

 私が現在考古学者となっているのもこのパズルがあったからだ。

 神魔宮殿跡で拾った欠片をつなぎ合わせると、天降祭に関する預言が記された古代文字が現れた。

 欠片は一枚のレリーフで、そこに記されていたのは、1800年前の予言者による預言の書だった。その預言の書には、750年前の太陽アスラの誕生と250年前の月コームの誕生が書かれていた。そして次の天降祭の予言も書かれていたがその部分は欠けていた。かろうじて残っていた文字は「2000年の天降祭は過去2回よりも大きな衝撃が襲うだろう」だった。

 神の国の王宮はこのレリーフが人族の手によって解明される事を望んでいたのだろうか。

 私たちは欠片を復元したら神の国に返すと約束していたが、大学は世紀の発見と言ってレリーフを返すのを拒んだ。発見したのは私たちなのに、私たちの意見は通らなかった。

 私は学校長を通じて神の国の王様にお詫びの手紙を書いたが、神の国から返事は帰ってこなかった。

 ヤーコブは、神の国は内容を知っていたんだろうと言った。人族がその内容を知ることで次の天降祭に注意を向けるのを望んだと思うとも言った。

 そういえばあの時ヤーコブは神族と魔族の寿命と天降祭の役割の話しをしていた。

 予言の書には次の天降祭は今まで以上に大変な事が起きると書かれていた。その大部分は欠けていたが・・・。

 私はヤーコブに神族と魔族の天降祭における役割について聞いてみた。

 ヤーコブは誰にも内緒だよと言って秘密を話してくれた。

 ヤーコブのお父さんはもと神族だったらしい。ただ生まれたときから神力が無かったので15歳で学校を卒業すると人族の世界に出されたそうだ。

 戦争ばかりしていたガルボ帝国に子供を送るのはかわいそうだと考えた両親は彼をシートラス国の学校に入れた。シートラス国で大学を出て結婚をしてヤーコブが生まれた。

 ヤーコブが星に興味を持ち天文学を勉強したいと言った時、お父さんは、このセゾンには500年毎に天降祭という隕石が降る日があると教えてくれたそうだ。250年前の天降祭ではヤーコブの父親のお爺さんを含め多くの人が亡くなったらしい。大変な地震が起きたけれど最悪の事態は避けられたそうだ。それは神魔と神族・魔族が力を合わせて隕石を回避したからだと聞いた。どうして回避出来たのか詳しいことは知らないが、とても沢山の犠牲者が出たとヤーコブにお父さんは話してくれたそうだ。

 その話しを聞いて、ヤーコブは天降祭について調べ始めた。そして星の動きから500年毎にセゾンが宇宙の穴の近くを通る事に気が付いた。ヤーコブは宇宙の穴を通るときに穴から隕石が降ってくるのではないかと仮説を立てていた。

 神の国で一人別行動を取ったとき、ヤーコブは父の父であるお爺さんに話しを聞いてみたいと思い、父から聞いた住所を頼りに行ってみたけれど、その区画へは行けなかったそうだ。街がヤーコブを拒んでいるように感じたと言った。

 今はまだ仮説を裏付ける物は見つかっていないが、日々の科学の発展を見ていれば近い将来解明する日が来ると思うとヤーコブは教えてくれた。

 私はこの話をヘラの父親にしたが、父親は天降祭の頃はまだ小さかったので何も覚えていないし知らないと言った。

 魔族の人々はどのように思っているのかとも聞いたが、自分はそういう話しを聞ける立場ではないので分らないと言われた。

 ヘラも名前は立派だが、つまらない魔法使いだと父親のことを言っていたので、それほど重要な役職では無いのだろう、だから聞いていないのだろうと私は思った。


 僕はノートを置いて一息ついた。

 ヤーコブの話しに出てきた“宇宙の穴”という言葉が気になった。


 コン・コン

 ドアをノックして少し怒った顔のヘラが入ってきた。

「何度呼んでも返事をしないから寝てるかと思った」

「ごめん、これを見ていたから」

 僕はブックカバーで隠したノートを見せた。

「あら」とヘラが僕からノートを取って開いたので、僕は慌てて取り上げた。

「!」

 ヘラは怒ったが、怒りたいのは僕だ。ヘラが触った途端ノートの文字は消えてしまった。魔法が発動したのだ。

「何も書いてないじゃない」

 ヘラが不思議な顔をしたので、僕は何をこのノートに書こうとしたのか考えていたんだと言った。

「変なクラシス。それよりジルベールが来てるわよ」

「ジルベールが?何の用で・・・?」

「知らないわよ。とにかく下に待たせているので行きなさい」

「わかった」

 僕は文字の消えたノートを持って部屋を出た。


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