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ミーティアライト  作者: てしこ
15/17

皇帝ディモニー!

 頭が重い・・・。

 薬を嗅がされたせいだろうか。とても頭が重い。

 誰かの話す声が聞こえた。学長の声ではないようだ。

「おい、立つんだ」

 突然背中を小突かれた。

 僕は慌てて重い目を開いた。

 目の前に兵士が数人立っている。その側に学長も立っていた。

 まだ飛行艇の中のようだ。

 ぼんやりと見ていると、

「おい、寝ぼけていないで立つんだ」

 兵士から今度は脇腹を小突かれた。

「痛い!」

 思わず声に出てしまった。

「ラシク、大丈夫か?」

 僕の声に反応したのだろう、ジルベールの気遣う声が聞こえた。

「僕は大丈夫」

 兵士に促されて立ち上がろうとして、まだ手が拘束されているのに気が付いた。

 兵士は起き上がるのを手伝ってはくれなかった。僕は何とかして起き上がった。

 周りに兵士で気付かなかったけれど、立ち上がると目の前に、両脇を兵士に挟まれたジルベールの姿が見えた。手には妙な枷が付けられている。枷にも驚いたけれど、ジルベールの姿を見てもっと驚いた。ジルベールの全身は傷だらけだった。彼のシャツは破けてところどころ血が滲んでいる。

「ジルベール様!」と思わず叫んで近づこうとして止められた。

「お前も面倒を掛けるとこういう姿になる」

 兵士の一人が僕を小突きながら言った。

 僕たちは促されるまま、飛行艇を降りた。

 気を失っている間にガージナルに着いたらしい。

 学長が「それじゃあ、さよなら」と飛行艇に乗ったまま手を振った。

 これからアカデミーに戻るのだろう。一言文句を言ってやりたいけれど、学長も命令に従えないのだと思うと言えなかった。

 僕たちが降りたところには大きな円盤のような建物があった。同じような建物が広い敷地に等間隔に並んでいた。

 シートラスの建物が垂直に上に延びているのに対して、ガージナルの建物は大きな円盤のような形をしているのだろうと思った。

 僕たちはその建物の一つに連れて行かれた。

 建物から長い階段が延びていた。

 自動で動く階段を昇り、窓も扉も照明も無いのに何故か明るい長い回廊を数十分歩かされた。

「ここだ」と兵士が示した所に扉は無くただの壁だった。黙って見ていると、壁が自動的に開いた。魔法を使っているようには見えなかったから、これは神の国の力なのかもしれないと思った。

 僕たちが案内されたのは大きな広間だった。

 部屋は楕円形で、ここもまた窓も照明も無いのに明るかった。

 僕たちが入ったところを楕円の長い部分だとすると、まっすぐ行った正面に一段高い場所があった。まるで王様の台座の様だった。

 僕たちは台座の前につれて行かれ、そこで突き倒された。

「跪いて、待つのだ」と兵士は言ったが、手を縛られたままどうやって跪くのだと思ったら腹が立ってきた。

 兵士達は広間に僕らを置いて出て行った。

 ジルベールは大丈夫だろうか?

 歩いているときに時々苦しそうな呼吸が聞こえていた。

「ジルベール様、大丈夫ですか」

 何とか上体を起こしてジルベールを見た。

「大丈夫だ」

 ジルベールは膝をついて座っていた。傷口が痛々しく苦しそうに見えた。

 ジルベールの手には相変わらず変な枷が付いていた。

「ジルベール様、その枷は何ですか?」

「これは魔法封じの枷だ」

「魔法封じ」

 確かにジルベール程の魔力があれば、こんなに簡単に拘束されるはず無いと思っていた。この変な枷が魔法を封じていたと聞いて納得した。

「ラシク、下手に動くなよ。様子を見よう」と小声でジルベールは忠告した。僕は無言で頷いた。

 しばらく待っていると、台座の奥にある壁が音もなく開いた。

 壁の向こう側から、赤い髪に髪の色と同じ色のマントを羽織った青年が現れた。少しハンスに似ている感じがした。

「ハンス・・・?」と僕は思わず呟いていた。

 その声が聞こえたのだろう、

「ふん、ハンスだと。母親が姉妹だから似ているらしいが、あれと一緒にするな」

 聞いても無いのに母親が姉妹って、この人ハンスの従兄なのか。

「昔も今も、あれに似ていると言われると虫唾が走る。あれが俺に似ているのだ」

 なんか妙なところで怒っているみたいだ。

「ごめんなさい・・・」

 僕はとにかく謝ることにした。

「あれはただの反逆者だ。俺はガージナル連邦国家の皇帝ディモニーだ。覚えておけ!」

 ハハーッと敬えばいいのだろうか。

 どうやらハンスとは逆の立場らしい、とりあえず黙っていることにした。

 この赤毛の人がガージナルの皇帝ディモニーとしたら、もしかしたら、父イリアスが神の国で会った第三王子の可能性がある。

 僕は改めて皇帝を見た。すると皇帝の両側に神魔と思われる者が四人見えた。

 皇帝は立って僕たちを見下ろしていた。どうやら僕たちを観察しているらしい。

 しばらくして皇帝ディモニーは椅子に座った。そしてジルベールに向かって聞いた。

「お前が魔法の国の次期国王か」

「いかにも私が魔法の国の次期国王だ」

 ディモニーと同じくらい偉そうにジルベールが答えた。

 それを聞いた皇帝ディモニーは、クククと喉を鳴らして笑った。

「この時期に王様か?」

「何がおかしい?」

 ジルベールの声にすごみが増している。僕たちの方が絶対不利なのに、なぜ強がっているのか僕には理解できなかった。

「おかしいだろう。こんなギリギリになって王になるなんて、ククク、魔法の国は何を考えているのだ」

「ギリギリ?」

「なんだ、知らないのか?シートラスでハンスと会ったのだろう。そして穴の存在とセゾンの最後を教えてもらたのではないか?」

 皇帝は面白がっているようだ。

 僕は思わず皇帝を睨んだ。

 僕の目と皇帝の目が合った。慌ててそらしたけれどしっかり見られていた。

「隣に転がっているのはお前の従者か?」と皇帝は尋ねた。

「そうだ」

「ふん、お前の従者にしては魔力が弱いみたいだ」

「私は魔力で従者を選んでいるわけでは無い」

 皇帝に対抗しているのか、ジルベールはますます強気な物言いをしているように感じる。皇帝から睨まれるのではないかと僕はビクビクしていた。

「顔か?・・・よく見ればお前の婚約者に少しにている気がする。なるほど、お前はこの手の顔が好きなのか。ふーん、そういうことか」

 何がそういうことなのか分らなかったが、皇帝は僕を見てニヤリと笑った。そして、空中に手を掲げると何も無いところからするすると一本の金色の細い鎖を取り出した。それを側にいる神魔の一人が受け取り僕に近づいた。僕はあえてそれを目で追うことはしなかった。僕は神魔に気付いていない振りをした。ずっと皇帝を睨んでいたら、神魔はそっと近づいて僕の頭に金色の鎖を掛けた。

 瞬間少しだけ頭がモヤモヤした。

 僕の変化に気付いたのだろう。

 皇帝は満足そうな顔をして、ジルベールに告げた。

「お前の従者に鎖を付けた。お前が何かするとこの者の頭が壊れるようになっている。余計なことを考えない方がいい」

 この鎖はヒルハミや学長を拘束していたのと同じ物のようだ。頭がモヤモヤしたのはこれのせいだろう。たぶん僕には効かないと思うけれど、わざと驚いた振りをした。

「さて、本題に戻ろう。お前はもう知ってしまったのだろう。この星はもうすぐ滅ぶ。魔法の国では天降祭は来年と言われているらしいが、それよりも早くなる、一年はかからないだろう」

 右横の壁に大きなスクリーンが現れた。

「見るがいい」

 広間が暗くなり、スクリーンに映像が現れた。

 先日ハンスに見せて貰った穴の映像と同じものだった。

「早くも穴は開いてしまっている。今はまだ小さく開いているだけだ。しかし、この穴の先に見える物がやっかいなのだ」

 穴の奥に見えている光が拡大された。

「この星は、アルテナと同じ太陽だ。穴の拡大と共に徐々に近づいている。本当の大きさはまだ分らないが、たぶんアルテナと同程度かそれよりも大きいと予想されている」

「お前が予言に出てくる者ならば、どうしてセゾンを救う手立てを考えないのだ」

 ジルベールが叫んだ。

「セゾンを救う?アハハハハ」皇帝は声を出して笑った。

「この星を救えるわけがない。神の国の予見の者はこの先を見ることが出来なかった。ずいぶん昔の話しだ、俺の国の予見の者が、魔法の国の新しい予見の者は自分より多くの未来を見たらしいと教えてくれた。俺は魔法の国の予見の者と話しをした。しかし、魔法の国の予見の者は私に未来を教えてはくれなかった。何度頼んでも教えてくれなかった。だから俺はその女を殺した。その後を継いだ者はあの女ほどの能力は無かった」

「予見の者を殺した?では、お婆さまを殺したのはお前か?」

「お婆さま?ああ、そうだったな。お前の母親はその者の娘だったな。お前の母は少しは見えるらしいが、この先ことは見えていない」

「母は継承者ではなかったからだ」

「そうだな。俺はずっと捜していたのだが、お前の婆さんほど見える者はいなかった」

「では、何故殺したのだ」

「あの女は、私を予言の者ではないと言ったのだ」

「予言の者ではない?どういうことだ?」

「あの女は、王と本当の予言の者はもうすぐ生まれると言った。俺は爺さんの影響が強すぎて、予言の者には向かないと言われたのだ」

「お前の爺さん?」

「そうだ、俺の爺さんはガルボ帝国の帝王だった。その好戦的な血が災いになると女は言った」

「私はあの女にもうすぐ生まれる王について聞いた。そしたらあの女は、あなたは予言の者ではないから教えられないと言ったんだ。俺はもうすぐ生まれることが分ればその子どもを捜せばいいと思った。だから俺を予言の者ではないと言った女を殺すことにした」

「それだけの事で殺したのか」

「それだけの事?俺は生まれたときから予言の者として育てられたんだ。それが違うと言われたことが、それだけの事であるはずがないだろう」

 皇帝は吐き捨てるように言った。

「しかし、あの女の言うとおりだったよ。爺さんは俺を可愛がったから、俺は爺さんの影響をかなり受けた。爺さんは俺の能力を高く評価していたから、神の国の王子である俺が神の国を継ぐことを疑わなかった。だが、神の国の国王は魔法の国の予見者を俺が殺したことを知り、俺を避けるようになった。俺は時期を待って神の国を乗っ取った。あの女の言ったとおり俺は好戦的だった。その後も戦いを重ね今の国を築いた」

「結局、お前は予言の者ではなかったと言うことか」

 ジルベールの声がガッカリしたように響いた。

「そうだな、神魔が見えて話が出来ても、天降祭に起こる出来事については対処できない。そういう意味では、俺は予言の者ではなかったのだろう。俺にとっては今更王が現れようがどうでも良いことだ。俺の国の予見の者はもういい加減年寄りで予見もあやふやになっている。それに、お前の国の王女も監視しているが予見の力は未だに発動されていない。もう一人の娘はお前の父親によって何処かに匿われてしまったようだが、予見の者でなかったのだろう」

 皇帝はそれは大したことではないと言った。

「私は悟ったのだ。この星は救えないが、我々はこの星から脱出する事が出きる。これはわが国だけの計画ではない。シートラスも同じように考えていると聞いている」

「どうするのだ?」

「決まった事、船団を組んで穴の隙間から外宇宙に出るのさ」

「穴の隙間から外宇宙に出る?」

「文明が進んでいない魔法の国では考えられないだろうな。あの太陽が近づく前に穴を通ってこの星から脱出するのだ」

 皇帝はスクリーンを切り替えて、脱出のシュミレーションを見せた。

 セゾンから飛び立った百数隻の船団が穴に向かい、穴の横を通り穴の裏側に回る。通り抜けた穴の裏側に穴は無く別の宇宙になっているらしい。

「これは賭けの様なものだ。あの太陽に近づきすぎてもいけない。タイミングが重要になる。我々は間もなく出発する予定だ」

 そう決意を話す皇帝に、ジルベールが尋ねた。

「セゾンに残された人々はどうするんだ」

「お前も知っているだろう。アルテナと穴から出て来た太陽が衝突したら大爆発する。それがどのくらい破壊力を持つのか誰も分らない。分るのはセゾンが宇宙のチリになってしまうってことだ」

「予言には“我らが太陽アルテナ 我らが星セゾン 永遠なれ”となっていたが、そうではないのか?」

「さあね。王と予言の者が現れない限り、永遠になくなると言うことだと我等は解釈した。今更、昔みたいに神の国と魔法の国が力を合わせて何をやってもどうにもならないことなんだよ」

 皇帝はニヤリと笑った。

「お前が次期王様に選ばれても何も教えて貰えなかったのは、魔法の国が何も知らなかったからだよ。世界は劇的に変化していたのに、それを気付かないまま過ごしてきた自分たちの国を恨むがいい」

 皇帝はジルベールを面白そうに見ていた。


 その時、僕たちが入ってきた壁が開いて黒い軍服の男が現れた。

 黒い軍服の男は僕とジルベールの横を通り、皇帝の近くまで行くと跪いた。

「皇帝陛下、会議の時間です」

「分った。この者達を牢に入れておけ」

 皇帝は椅子から立ち上がると、神魔を引き連れて入って来た壁の扉から出て行った。

 皇帝が出て行くと、軍服の男も出て行った。そして、その後に兵士が広間に入ってきた。

 僕たちは、また長い回廊と長い階段を下りて、牢まで歩かされた。

「さあ、ここに入れ」

 牢の中に突き飛ばされるように入れられた。

 痛たたた、手を後ろで縛られていたので、上手く態勢が取れず顔から転んでしまった。

 僕の後ろで、ドサッという音と共にジルベールの唸る声が聞こえた。

 慌てて痛い顔を持ち上げて後ろを見ると、傷だらけのジルベールの顔が歪むのが見えた。かなり痛いのだろう、額に汗が浮かんでいる。目を瞑ったまま動けないようだった。

 僕がジルベールに気を取られている間に、兵士達は牢に鍵を掛けて帰って行った。

 僕の手は相変わらず後ろで縛られて自由にならなかったので、傷になるべく触らないように、頭でジルベールを揺すった。

「ジルベール、ジルベール大丈夫」

 何度か揺すっていると、ジルベールの閉じた赤い目が開き僕を見た。

「ラシク!」

 ジルベールが急に起き上がろうとして呻いた。そして自分の両手に付いた枷に目をやった。

「魔法封じの枷・・・」とジルベールが呟く。

「僕は紐と鎖らしい・・・」

「お前の魔法は脅威に値しないからだろう」

 確かにそうだけど・・・、僕は少し傷ついた。

 二人でそんな話していると、隣の牢で人の動く気配がした。

 僕たち以外も牢に誰かいるようだ。

「おや、新入りさんかい」としわがれた声が聞こえた。

 声はすぐ近くから聞こえた。

 よく見ると隣の牢に、結構なお年と思われるお婆さんがジルベールと同じような枷を付けてこっちを見ていた。

 僕はこんな老人を牢に閉じ込めるなんて!と驚いたが、お婆さんは別に気にしていないようだった。

「私はね、皇帝の意に沿わないから、もう何年も閉じ込められているのさ」

「意に沿わない?」

「おや、皇帝が話してなかったかい?いい加減年寄りで予見もあやふやになった者がいるとかなんとか」

「ああ、そういえば、皇帝が俺の国の予見の者はいい加減年寄りで・・・とか言っていたような」

 と正直に答えると、お婆さんは面白そうに笑った。

「おや、隣の人は怪我をしているね」

「ええ、僕は何もされていないのに、ジルベールは体中傷だらけになっています」

 僕は少し沈んだ気分になった。

「ジルベールとやら、治してやるからちょっとこっちにおいで」

 枷を付けたお婆さんから言われて、ジルベールが驚いた。

「魔力封じの枷を付けているのに、治せるのですか?」

「こんな枷はいつでも外せるのさ。見られているから外さないけどね。お前さんもそうだろう?」と言いながら視線を上に向けた。

 僕も驚いて上を見るとカメラがあった。

「なるほど、ではすみません。治療をお願いします」

 お婆さんとジルベールは檻を挟んで手を合わせた。

 お婆さんの手から不思議な力が流れて、ジルベールの中に入って行くのが見えた。

「おや、お前さんは見えるんだね」とお婆さんが僕を見て面白そうに笑った。

 見ているとジルベールの傷がどんどん綺麗になっていく。

 ジルベールは傷が良くなっている間寝てしまったようだ。目を閉じてぜんぜん動かない。

「はい、治ったよ」とお婆さんが言った後も目を閉じたままだった。

 僕は慌ててジルベールの代わりにお礼を言った。

「すみません、まだ疲れているようです」

「そのようだね。私も久しぶりに力を使ったら疲れてしまった。少し休むとするよ」

 お婆さんは牢の隅に敷いてある毛布を身体に巻くとそのまま眠ってしまったようだ。

 僕はジルベールの目覚めるまで待つことにした。


 ジルベールは手を合わせた瞬間から、お婆さんから不思議な力が流れてくるのを感じていた。

 浮遊するような妙な感覚だった。

 そのうちお婆さんの声が頭の中に聞こえて来た。

「やっと間に合ったようだね」

「間に合うとは?」ジルベールが頭の中で問いかける。

「私の寿命がもうすぐ切れる。その前に会えて良かった」

「寿命が切れるって?」

「私は神の国の予見の者だよ。サラの友達だ」

「お婆さまの友達?」

「ああ、あなたが来るのをずっと待っていた」

「どうして?」

「あなたが王様だから。サラが言ってたのよ。王様はずっと後に生まれるかも知れないって」

「僕が王様?」

「私とサラは能力に目覚めたときから意思が通じ合ったの。それまでの予見の者は、神の国と魔法の国で別れていたのに、何故かサラとは同期していたわ」

「それと王様が何の意味をもつの?」

「予言は知っているわね」

「知ってる」

「赤い髪の女が産みし子が誰かも知ってるわね」

「知ってる。だから守ってる」

「サラが言ってたわ。王様とその子は同じ時間に存在しなければならないと」

「どうして?」

「分らないわ。サラと同期していたけれど、サラに見えて私に見えなかった物が有ったの。そのせいでサラは殺されてしまったわ」

「皇帝に?」

「そう、私がうっかり魔法の国の予見の者は私より未来が見えていると言ったせいなの。サラには殺されることが分っていたのね。死んだ後に私の前に現れて、私のせいではないわ。そういう運命になっていたのよと教えてくれたわ。そして、本当の王に会えるまで生きて欲しいと頼まれたの。私が余計なことを言わなければ、サラは死なずに、あなたはもっと早くに真実に近づけていたと思うと、悔やんでも悔やみきれない。私が許されることはないと思ったわ。だからどういう形であれ、あなたと出会うまで死ねないと思っていたの。それがサラとの約束だったから。私の寿命が切れかけたこの時にあなたに会うこと出来て良かった。ずっと牢に入ったままで死んだらサラとの約束を果たせないと思っていたわ。サラはきっとこの未来も見えていたのね。さあ、私の中にある全てをあなたに移したわ。これで神の国と魔法の国が一つになった。目覚めなさい王様。これから先は王様がセゾンを守るのよ」

 ジルベールの身体の中で何かが光り、それが全身を包んでいった。


 僕はジルベールの身体の変化に気付かなかった。

 ただ、牢の空気が急に神聖なものに変わった感じがした。

 まるで、ヴォルテハイムの屋敷の地下室のような空気が流れた。

 僕はジルベールを見た。姿形は変わらないけれど何かが変わった感じがした。

 ジルベールから神魔と同じような不思議な気配を感じた。

 ジルベールの目がゆっくり開いた。

「ジルベール、目が覚めた?」

 ジルベールの赤い目が僕を見てる。

「心配掛けてごめん」

 そう声を掛けてくれたジルベールは、いつも通りの様な気もする。僕は慌てて目をそらすと、

「僕は大丈夫だけれど、隣のお婆さんにお礼を言った方がいいよ」と隣の牢を見た。

 ジルベールは枷の付いた手で身体の確認したあと、

「ありがとうございました。おかげさまで気分は良好です」

 隣の牢のお婆さんは毛布にくるまったまま、手だけ出してヒラヒラと振った。疲れているのだろう、顔を出す気はないようだった。

「私に力を使って疲れたのかも知れないね」

 傷が治って元気になったジルベールは、やはり以前と違う感じがした。何だろう?何か吹っ切れたかのようにスッキリしている。

「ジルベールの言うように、お婆さんは疲れたのかも知れない。だってジルベールの傷はすごかったもの。どうしてそんな傷が付いたの?」

 ジルベールは苦笑いをして、少し遠くを見る目をした。

「私は魔力が強いから、どんな暗示にも掛らない。それに、薬も一度経験すると耐性ができて効かなかった。となると力による攻撃が一番だと思ったんだろう。私の意識を奪うのに相当殴られたからね。死ななくてホッとしてるよ」

「僕は薬ですぐ眠ってしまってごめんなさい」

「お前が謝ることはないよ。怪我がなくて良かった」

 ジルベールはそう言って笑った。

 お互いの無事を確かめ合っていると、隣の牢のお婆さんを兵士が連れに来た。

 お婆さんはモソモソと立ち上がると、僕たちを見て小さく頭を下げた。

「ちょっと待って!」

 ジルベールが兵士を呼び止めた。

「お婆さんに怪我を治してくれたお礼がしたいのです」

 兵士達はジルベールを怪訝そうに見て無視しようとした。

 その時不思議な魔力を感じた。

 思わずジルベールを見ると、目が赤く光っている。

 兵士達は暗示が掛った様にお婆さんをジルベールの前に押し出した。

 ジルベールはお婆さんの手を取った。

「お婆さんありがとうございます」

 ジルベールがそう言った瞬間、一瞬お婆さんは驚いた顔をした。

「いいのですか?」とお婆さんは小さく呟いた。

 ジルベールが大きく頷くと、お婆さんは「ありがとう、貴方たちも無事でいてね」と言って手を離した。

 その後、暗示が解けたのか兵士達がお婆さんを取り囲み、連れて出て行った。

「これから僕たちはどうなるのだろう?」

 僕は不安しかなかった。

「なるようにしかならないさ。考えるだけ無駄だよ」

 ジルベールから意外な答えが返ってきた。本当に人が変わってしまった様に落ち着いていた。

 隣のお婆さんは連れて行かれたっきり戻ってこなかった。

 僕たちはその後牢で六日間過ごすことになった。


 六日目の朝、兵士が来て、僕たちは牢を出た。

 またまた長い回廊と階段を通って、大広間に連れて行かれた。

 大広間に着くとすぐに兵士達はいなくなった。

 兵士達がいなくなった後に、皇帝が台座の扉から出て来た。

 両側には先日と同じように四人の神魔がいた。

 神魔は広間に入ってくるなり、僕らを見て驚いた。

 その様子に気付いたのか、皇帝が少し怪訝そうな顔で神魔達を見た。神魔は皇帝に何かを囁いた。皇帝はそれを聞いて軽く「そうか」と言うのが聞こえた。大したことでは無かったのだろう。皇帝の様子に大した変化は見られなかった。

「久しぶりだな」

「呼び出した用事はなんだ」

 皇帝はしばらくジルベールを見ていた。

「お前覚醒したそうだな?」

 面白そうに皇帝はジルベールを見た。

「覚醒?」

「そうだ、俺の横の神魔が見えるだろう。神魔が言ったのだよ。王様がいるとね」

「そうか・・・」

「今更王様が現れても俺には関係ない。俺の考えた行動に移すまでだ。お前達をここに呼んだのは、この星を発つ前にもう一度会っておこうと思ったからだよ。王様」

 皇帝は王様をとってつけたように言って、ニヤリと笑った。

「発つ?まさかもう発つのか?」

「そうだよ。穴を抜けるタイミングが重要だと言っただろう」

「外宇宙に出る不安はないのか?」

「それなんだけどな、わが国の予見の者が最後にいい働きをしてくれたのよ」

「ガージナルの予見の者?」

「そうだ、お前達の牢の隣にいた婆さんだよ」

「あのお婆さんが予見者だったと?」

 僕は驚いた。あのお婆さんが神の国の予見の者だったのだ。

「お前は知っていたのだろう、王様。だから覚醒出来た。あの者は王が覚醒したことに安心したのだろう、俺に最後の予見をしてくれた」

「最後の予見?」

「そうだ、予見の後で死んだ」

「死んだ?」

「死んだと言うより、殺した」

「殺したのか!」

「そうだよ、あの婆さんは私と話しているときに、穴を抜けた先の光景が見えたと言った。俺はそれを聞いた後、婆さんを殺した」

「何故?」

「それをシートラスにいる誰かに知らせようとしたからだ」

「先の世界の事は我々だけが知っていれば良いことなのに、余計なことをしたからだ」

「先の世界の事?」

「穴を抜けた先の世界だ。お前は王様だから先の世界も見えているのだろう。我々は別の太陽のある宇宙に出るらしい。その太陽の第3惑星が、水や空気のある蒼い星で、セゾンと似た環境の星だと予見の者は言った。我々は宇宙を流浪せずに済むのだ。セゾンを捨てるが、新しい星を手に入れることが出来るのだ。シートラスがいなければ我々だけの星が出来るのだ。素晴らしい事だと思わないか?あいにく、シートラスも同じ情報を手に入れたようだ。シートラスの船団が先ほど出発したとの情報が入った。だから俺たちも出発する」

「そうか、それで旅立つのか」

「そうだ、シートラスに遅れを取るわけにはいかない」

 ジルベールは何も言わなかった。

「王様、この星の事はお前に任せることにしたよ。ただし生きていたら、だがな」

「何をするつもりだ」

「お前達は“王の伝説”を知っているか?」

「“王の伝説”?」

「そうだろうな。この話は神の国に伝わる話しだから、魔法の国のお前達が知るわけがない。だがお前は王様になった。伝説が本当なら絶対神の王様だ。まだ覚醒したばかりで、それほど強力な能力も使えないだろう。だから予定通りお前には死んで貰うことにした」

 なんて自分勝手な考えなのだろう。絶対神の王様ってなんだ?僕たちに何が出来ると言うのだろう。このまま天降祭が来ても充分危ないのに。

 皇帝が合図をすると、兵士が入ってきた。

「そのもの達を例のところに連れて行け」

 僕たちは兵士に囲まれて大広間から連れ出された。

 長い回廊を歩いて、牢に戻されるのかと思ったら、建物の外に連れ出された。

 目隠しをされて車に乗せられた。

 僕たちは何処かへ連れて行かれ殺されるのかも知れないと思った。


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