俺のトマトってんだ
とある中学校の夕方。眼鏡をかけた青年がたった一人で教室にて問題を解いている。
彼の名はミチノリ。目が悪い事以外はいたって普通な男子中学生である。
「もう6時か…早いな。」
時計の針が180°になったのを見るやいなや、荷物を片付け帰る支度をする。
6時はこの中学校の最終下校時刻であり、オーバーすると先生から睨まれる。
「あれ?」
カバンを肩にかけ帰ろうとすると、教室のとある異変に気づく。
黒板にチョークの跡がこびりついたままだったのである。
そう!この中学校では日直が放課後黒板を綺麗に拭かなければいけないのだ!
そして自身が日直であることをうっかり忘れていたミチノリ!これが意味する答えは1つ!
最終下校時刻を超えるッ!
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「やっべー!ダッシュダッシュ!」
時刻が6時10分を告げる。ミチノリは額に汗を浮かばせながら廊下を走っていた。
先生は6時を過ぎると見回りを始める為、早く学校から出ねば説教が待っている。
しかし、そんなミチノリに立ちはだかるのは…
「…へ?」
トマト。廊下に1つのトマトが転がっている。形もツヤもつい見惚れてしまうような最高級の、トマトである。
「こんなところになんで…しかもなんか甘い匂いが…」
ミチノリが鼻に意識を少し集中するだけで、甘い香りが体全体を通り抜ける。
それは青い芝生に咲く一輪の花の如く、彼の心を鷲掴みにして離さなかった。
「じゅるり…なんで、こんなに涎が出るんだ…?ただのトマトなの…に…」
気づいたら彼にはもう汗は無く、焦る気持ちさえも消え失せ、代わりにある感情に頭を支配されていた。
『食べたい』と。脳内は既にトマトを食したいということしか考えられなくなってしまっていた。
なんで学校の廊下にトマトが落ちてるんだとか、汚いだろうなどの考えは一切しなかった。ただただ『食べたかった』のだ。
「…もう我慢できないッ!」
ミチノリの理性が遂に限界を迎え、トマトにかぶりつく。その姿はさながら獣である。
ジュルジュルと汚い音を出しながら貪るにつれ、彼の目に有った光が徐々に消えていく。
「お…♡」
その瞬間、トマトが彼の体を一瞬で支配した。
赤血球、白血球、動脈、静脈、リンパ球、全てがトマトへと置き換わっていく。
それに留まらずミチノリ自身の認識もトマトに染まっていく。
「ト…マト…」
そして体も赤く変色し、彼は何にも支配されない完璧なトマトに進化した。
その後学校がトマトに占拠されたのは言うまでもないだろう。
書いてて楽しかったです。