手術中に死んだ依頼者 2
「で? 俺の膵臓は見つかるんですか?」彼は、ニョキッと体を起こした。
「まだなんも‥‥‥」
「で? 俺の膵臓は見つかるんですか?」彼は、ニョキッと体を起こした。
「まだなんとも……」ジョンは目のやり場に困った。「彼女とはどんな関係だったんですか?」
「恋仲ですよ! 僕は彼女のことを信用してたんです」
「その辺を詳しく……」
「探偵ってもんは洞察力とかに優れているんじゃありませんか? どうか披露してくださいよ」
「と、言ってもね」ジョンは困った。
だって彼の装いからは何も得るものはなかったのだ。
その男は病院服を身にまとい、腕には点滴の針がぶら下がっている、そして左手には杖のように点滴がぶら下がっている点滴棒を常備身に離さず持っているだけだったからだ。
顔もまるで死人。いや、ただの死人だ。何も得るところはない。
ジョンの顔入りは曇った。もっと探偵という遊びは楽だったはず……。
彼は言葉を絞り出した。
「なんか、その人の情報をくれませんかね……。ほら! 死因とか!」
「彼女は、手首を切って自殺ですよ! なんて言っても、左手首は皮一枚でぶら下がっているだけなんです。あれはほとんどペットですよ。名前までつけているんですから! チッチとか言っていましたっけ」
ジョンは思った。余程の根性がある女だと……。手首が取れそうなまで、自分を痛みつけるなんて……。
「情報を集めます。とりあえず今日はお引き取りを。明日、昼前に来てください」
ハラワタはそれを聞くと、覇気なしに病人のように出て行った。もともと持っていないが。
ジョンは呆然と椅子の中で座っていた。彼の目の前に小男が来た。
「自己紹介が、まだでしたね。私は、探偵の助手を努めて、早……時は忘れました……なんせ日付感覚はないもんでね。私の名前は、トーマスです。前任の探偵は殺されて現実世に戻っていきましたよ」
トーマスは相手を試すように見た。
「どうです? あなたの推理をやってくれませんか。この窓から見える人々を」
ジョンは焦った。死人をどう観察したら良いのかわからない。
彼は窓辺に立った。まるで外の景色はゾンビだった! 汚い生き物が歩いている! しかしけれども、彼らは、意気揚々としていた……そして思った。まるで人間だ……子供の。そして現実世界の景色を思い出した。これは嫌な記憶だった。人々は、ゾンビのようにノロノロと歩いている。まるで、人間から貰える、愛情、友情、信頼、献身、束縛、性、食、睡眠、それを求めさがし歩いているようだった。
彼は頭を振ってそんな考えを払い除けた。
彼の目に、時々生身の人間が見えた。景色は現実となんにも変わらなかった。そうだった……ここは天国だけれど、生きていくのは現実の景色の中だった。
「あの、数人だけ、死人に見えない人がいるんですけど……」ジョンは呟くように言った。
トーマスは、窓を覗くようにして、
「ああ、あれは、人間だ。しかし死んでいない。霊感があるって奴らだな。力が強すぎて、こっちが見えてしまうこともあるんだ」そして続けて言った。「それに、時々、ワシらも人間に見つかる時があるんだ! お化けだお化けって! 同じ世界に住んでいたら、何かの影響でそんなこともある」
と、彼は、この説明を小慣れたように話した。それからジョンのほうに急に振り返った。
「で? 君の探偵力ってものは、いかなものかな」