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手術中に死んだ依頼者

 彼の名前はジョン。

この世界に転生されたのは、さっきだった。

しかし、彼の脳内には、もうすでにこの世のルールが刻み込まれていた。


 それは、死んだら終わり。この夢遊病者のようになれる世界から現実へと戻されなければならない。ここはまるで、天国だった。

 ここの住民の姿といえば、皆、その時の死んだ形で生きている。


 車に轢かれて、薄くなっている者。

 飛び降りて、スライムのようになっている者。

 喉を切って、タバコを吸えば、線のように開いている喉から煙が出る物。

 手術中に死んで、内臓が丸見えになっている者。


 彼が今回の依頼者だ。


 彼は酸素マスクを外して口を開いた。

「僕はね。詐欺にあったんですよ!」


 探偵のジョンは、左右にある積まれている書類の間から相槌をうった。

「それで? けど、待ってください。あなたの身分証明書は?」


「そうでした! 忘れてましたよ!」と言って持っていた書類をジョンに手渡した。


 その書類はいたって、普通の履歴書と変わらなかった。


 ジョンは口に出して読み始めた。彼の隣に立っている背の小さくて小柄な男は、老眼鏡をつけて覗いた。


「ええ。名前は、ハラワタ。年齢四五歳。死因、執刀医のミスによって気が付いたら天国。最後にピーって音は聞こえた……か」


 彼の履歴書はほとんどが空欄だった。それはそうだ。この世界では働かなくても生きていける。この世に生きている者達は、自殺したのだ。辛い思いをしてきた人間だ。しかし、死んだら元の世界に戻って、やり直さなければならない! 今ある記憶は、簡単に消える。元の人間になるのだ。


 彼らにある、現実の記憶といえば死んだ瞬間しかないのだ。家族、友人、恋人、お気に入りのアイドル、心を焦がして観た娯楽、そんなものの記憶は残っていない。


彼らにあるのは、上司から虐められ、旦那、妻、子供らに軽蔑され疎外された嫌な記憶しかない。


彼らは、この世界で不死鳥となって生きることを決めていた。しかし! 殺害はあるのだ。殺害されたら彼らは現実に戻ってしまう。


 ジョンはこの世の探偵の一人だ。彼は転生されながら、首からロープがアクセサリーの様に垂れ下がっている老婆から、説明を受けた。


「君は趣味で探偵をしてたんだから、この世でも存分に探偵を楽しんでもらうよ」


 そしてたどり着いたのが、この書類だらけの席だった。


 ハラワタは焦っていた。

「聴いてます? 俺の話!」


 ジョンは書類から顔を上げて、

「すまんすまん。ええ、なんでしたっけ?」


「だから! 膵臓を持っていかれたんですよ!」


 ジョンは、疑問を問いかける様に身体を乗り出した。


「彼女は、僕にこう言ったんです。『あなたの膵臓食べたら私の病気が治るわ‥‥』」彼は女の声を真似していた。「『だから、あなたの膵臓食べたいの。そうしたら、私たちはもっとずーっと一緒にいれるわ」』


 ジョンの隣にいた小柄な男が、吹き出した。それから言い訳する様に言った。

「だってこの世には病気なんてありはしないじゃないか」


「見てください! このポッカリ空いた、腹の中を! 俺はね、臓器をあげてまで、あの小娘と一緒にいたかったんですよ。けど、むしり取って差し出したら、これっきりもう終わりって顔して、どっか行っちまったんですよ! あれはまるで、男が、好きでもない女抱いた後に見せる表情でしたよ!」と彼は憤慨していた。「俺もそんな経験あるから分かったんです」


「でもあなたは別に膵臓をとられたからと言って死ぬわけではないじゃありませんか」とジョンは呆れて言った。


 隣にいた小男が咳払いした。

「それが、もし目的が殺人なら、彼は死にます」


 ジョンは唖然とした。


「そうなんです。それの膵臓を煮るなり、焼くなりして、目的の殺人を達成させるかも知れないんですよ!」ハラワタは興奮していた。「そして俺はまたビビって低い位置から飛び降りて、失敗したところから再生させられるんだ」

 

 彼はうなだれた。自分の臓器を覗くように。

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