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終末的都市 10区  作者: 西野星
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第1区 2日目ー4 『ターミナル・3』

「おい、少しは話を聞け!止まれよ少しは!」


 私の後ろを『少年』はずっと歩き続けている。『ターミナル』に出てから絶え間なく話しかけ続けている。私は応じていないにも関わらず彼の口は一向に止まない。歩き始めて十数分が経とうとしていた。やがてしびれを切らしてのか、少年はさらに大声を上げた。


「ちょっとはこっち見ろ!いい加減何とか言ったらどうなんだ!?」


 それに私はようやく彼の方を見た。そして彼の顔を見ると其処には憤怒が浮かんでいた。少年は足を踏み鳴らしてその大きな荷物を揺らす。


「やっとこっちを見たな!おい、なんでさっきから何も答えないんだよ?俺を一緒に連れて行けよ。なにもただって訳じゃない。オレがお前の生活を助けてやる!オレは機械に強ぇんだ!絶対に得するぜ!っととと!」


 少年は胸をどんと叩く。その衝撃が荷物を揺らし少年はよろけるが寸でで堪える。私がその様子を眺めていると、少年は体勢を立て直した後、こちらを見た。


「な、なんだよ!そんなにオレが滑稽か!?笑いたきゃ笑えよ!けどこれだけは言っとくぞ!オレは絶対にお前の後を追いまわしてやるからな!お前が俺を一緒に連れ出すまではずっと付いてってやる!覚悟しろよ!」


 その一方的な宣言に私は特に何の反応も示さず、後を去ろうと瓦礫の山を登り始める。それに少年が気付くと、荷物を背負いなおし、私の後を追い始める。


「ぜってーに認めさせてやるからな!逃げんな!」


 少年は勇まし気に私の後を必死に追い始める。今のご時世で中々に珍しいタイプの性格だ。『ターミナル』の人間は往々にして自堕落で、この世に絶望し、何かを求めるにしても周りの変化を望むしかない。そんな環境下にいながらこれだけ能動的な性格に育つのも珍しい。こんな逸材は地下に行くか、既に集落にいるはずなのだが……


 この様子では恐らく『圏外』に入った途端に『虎』に食われるだろう。


 『圏内』では『ターミナル』の防衛システムが作動しているのでこの声が『虎』に届くことは無いのでまだ大丈夫だが、これから『圏外』に到達する。その時彼の声がまだ止んでいなければその時点で自分も食われてしまう。そうなると非常にまずい。その結果、私は立ち止まり『少年』に振り返り、そのことを告げる。


「な、なんだよそれ!?早く言えっての!!」


 少年はそう言うと口を両手で塞ぐ。そこまでせずともいいのだが、特に気にせずに先を急ぐ。少し進めば態度も変わるだろうと思った結果である。


「む、むぐぐぐ……ぶはぁ!!……お、おい……いつまで口閉じてりゃいいんだよ……いい加減酸欠起こしそうだぞ!!」


 やがて不安定な足場を歩き続けながら口を押さえていた結果から、とうとう口を開いて荒く息をしながら少年が問う。その時間は彼が口を抑え始めて5分足らず。そろそろ『圏外』地点に差し掛かる。


「ま、また息止めなきゃいけねぇのかよ……」


 彼は絶望に打ちひしがれたような顔で肩を落とす。確かに『虎』は耳がいい。ほんの小さな瓦礫が山から一個転がり落ちる音が鳴ってもその音に過敏に反応する程度には敏感だ。しかし、『虎』は呼吸音には反応しない。それに反応一々していては群れの『虎』の呼吸音と混乱する為である。その為、『虎』は呼吸音と()()()()の音に聞き分けて()()()()がなった瞬間にそこに向かうといった習性があると考えている。なのでそこまでの保護は意味がないのだが……説明が面倒なので無視して先に進んでいく。


「んぐんぐんぐ!!」


 『圏外』に入り、私の現拠点に移動している最中、彼はずっと後を付いてきた。口に手を当て、荷物を上下に揺らし、舗装されていない凸凹の道を懸命に歩き続けていた。その際口は一切開かれず、もたつきながらもこちらに付いて来ていた。そして、ようやく我が家に辿り着いた時には少しばかり空が赤く成り始めていた。今日はいつもより少し時間が掛かったようだ。

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