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終末的都市 10区  作者: 西野星
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第1区 2日目-3『ターミナル・2』

日記の形式を無視していこうと思います。

一人称視点で行きます。

 『ターミナル』は数百にも連なる階層で出来ている。その各階には人が何人も住んでおり、『ターミナル』に搭載されている自己発電機関から支給されるエネルギーを頼りに生活を続けている。

 自己発電と言っても、自身の機関の維持とターミナルの防衛システムに大半のエネルギーを持っていかれ、更には長年部品などの交換を行っていないのもあり、ターミナル全体に共有されるエネルギーは微々たるものである。昔はこの第10区全てにエネルギーを行き渡らせる事も出来たというのだが、残酷な話である。いずれこの『ターミナル』のエネルギーも力尽きる時がやってくる。それが分かっているのか、この施設内で暮らしている人々の顔には悲壮感が漂っていて空気は重い。先程の店主ような人間の方が珍しいのだ。皆ターミナルの外から出ることなく、普段コンクリートの中で眠っている『鮫』の様にひっそりと動かずにいた。内部にはたくさんの人がいるにもかかわらず、私の歩く足音がやけに響く。


 私が『ターミナル』に来る理由は何個かある。一つは店主の店から道具を調達する事。そしてもう一つは……


「おや、今回は随分と早いな。何か異常が発生したか?」


 地下層にて情報の共有をする為である。

 この『ターミナル』は地下にも施設が続いていて、こちらも負けじとかなりの深さを誇る。この場所にてまだ生きることに失望していない人々や『ターミナル』に住んでいない人間、『集落』の代表などは此処で情報共有を行い危険に備えている。

 私が向かったいつもの場所にいた杖を持ち座り込んでいる老人は、この情報共有の地のスペシャリストであり、私は便宜上『情報屋』と呼んでいる。

 情報屋は私専属で耳寄りな情報を集めて、私に伝えてくれる便利な存在である。

 私は新たに『虎』が現れたことを伝える。


「ほほう、新しい『虎』が……またしても荒れそうじゃのう?」


 私の言葉に情報屋は眉を顰めて、立派な髭を撫でる。そして数回なでると、私に向かい合う。


「それではこっちからも……第2区近くの集落が遂に滅んだようじゃ。代表者以外は全員餓死して『鮫』に食われたらしいわい。あそこは第2区との交流に丁度良かったんじゃが、残念な限りじゃ」


 その情報は私にとっては特に意味のないものに思えた。その集落字体存在は知っていたが特に訪れたこともなく、縁がある訳でもない。しかし、彼が提示してきたという事は何か自分には関係がある、もしくは出来るのだろう。

 彼の情報は不思議な事にかなりの確率で活かされる事がある。このことも覚えておいて損はない。


「儂からお前さんに言えることはこれだけじゃ。帰り道も気をつけろよ?」


 そう言って情報屋は重い腰をのっそりと上げて、何度か腰を叩くとゆっくり歩きだした。私は何秒か彼の後ろ姿と彼が座っていた何もない場所を見つめ続けた後、その場を去った。


 気をつけろ、とは一体どこまでの事を言っているのだろうか。この世界で気をつけなくてもいい場所など存在しない。常に気配に過敏であり、繊細であり、怯えていなければならない。寝ている時すら(いびき)や寝返りによる摩擦音に気を使い、真に休めたと言えた時は一体あの時(・・・)以来いつだろう。ひょっとしたら無いかもしれない。そんな事を分かって情報屋は私にその言葉を呼び掛けたのだろうか。意味深なのかボケなのか何なのか、どれだとしても私には関係ない事だが。


 私はターミナルの一階層に戻っていた。ターミナルの通路の側には人々が屈んでこちらを見ていた。歩いているのは基本的に私一人なので物珍しさがあるのだろうが、世間物のような扱いを受けている様でこの空間はやはり慣れない。


「…………裏切り者が……」


 横からそんな声が聞こえてきた。それに反応することなく私は歩き続ける。一々聞いていては限が無いからだ。


「おい、あいつが来たぞ」

「悪魔が……」

「あいつを追ってった奴が皆喰われてったらしいぞ」

「食料を独占してるんだ……そうじゃなきゃ外で生きていける訳がない」

「誰かヤツを捕まえろ……」

「無理だ。お前がやれ」

「出来る訳ないだろう……」

「落ち着けおまえら……」


 聞こえてくるのはそんな事ばかりだ。早くこの場を去らなければ私まで同じような事になってしまいそうだ。だからここに来るのは嫌になる。


「おい!お前!!」


 出口に近づいてもう少しで『ターミナル』を抜けようとしたその時だった。甲高い声が聞こえてきた。その方に顔を向けると、そこには身の丈に合わない巨大なリュックを背負った少年がいた。鼻には煤の跡があり頬はコケていた。全身は所々に薄汚れた錆や油の跡が染みつき、綺麗とは言い難い服装だが通路に伏せている人々と比べれば健康的な肌色をしていた。


「お前、外で暮らしているんだろ!おれを連れていけ!」


 ……何やら一波乱おきそうである。

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