飛望の独り言
――神の言葉は真実を語り、その真実が形を成して世界が生まれた
今から200年前、この世界「天麗」の起源について、「始言の華白」はこう人々に語ったと言われている。
この考えは「世界の起源とは神の手で作られながら、全ての原初である神の一部でなければならない。そして、完全たる神の存在を損なうものであってはならない」という当時の賢者太安の定義に合致するものとして、多くの民衆の支持を得た。
そして彼はその事を証明するかのように現在、言業と呼ばれる「神の言葉のまがいもの」を作り出し、「真実の剣」と呼ばれる一振りの剣を生み出したという。
そして現在、華白の弟子達は、彼の頃より遥かに優れた多種多様な言業を生み出すことに成功はしたが、未だ新世界を創造する「神言」とやらには辿り着いていない。
俺はまだ子供の頃、じいさんからこのおとぎ話を耳にたこができるくらいに聞かされた。その頃の俺には神だとか、世界だとかよくわからなかったが、言葉によって大きな力を操れるというその話は、当時体が人一倍小さかった俺にとってすごく魅力的に聞こえたのを覚えている。
あれから10年くらいか。今この天麗は大きな動乱の時期を迎えている。
元々この天麗は東に瑛、西に燐、南に犀、北に香の4つの国の勢力が拮抗することで平和が保たれていた。しかし、3年前に東の瑛国が突然、北の香国への進攻を開始する。そしてそれに呼応するように南の犀国は西の燐へと軍を進めた。ここに瑛・犀国対燐・香国というこの天麗創造以来の大戦争が勃発することになったのだ。この戦争の裏には言業師達が関わっているという噂がいろんなところで流れている。だが誰もその真偽を知らないし、一隣国の青年である俺が知れる筈も無い。
ところで紹介が遅れたが、俺の名は飛望。西の国隣国の首都慶安で、鍛冶屋の見習いとして、ほとんど毎日休まずに金槌を振るっている。だが明日は1か月前に生まれたという隣国の王子の「命名式」。戦時に何を呑気なと言う者もいるようだが、こういう息抜きもたまには必要だろう。何にせよ久しぶりのお休みというやつだ。