第88話 飲んでる場合じゃないんです!
「ヤバいヤバい! 早く先輩を助けに行かないと……!」
星乃は息を切らして必死に走る。
凛月が言っていたカフェはカラオケ店からすぐそばにあった。
確かに、これなら交番に行ったりして警察を呼ぶよりもはるかに早い。
(先輩はここのマスターを呼んで来てくれって言ってたけど……)
星乃はなめふり構わずに扉を開いてカウンターにいる黒髪で眼鏡をかけたマスター風の男性に大声で助けを求めた。
爽やかな笑顔でコーヒーをカップに注いでいるが、その体つきは華奢だ。
とても頼りになるようには見えない。
(先輩の知り合いなんてこんなもんだろうし、仕方がない……!)
「あのっ! 先輩が悪い人たちに絡まれてピンチなんです! お願いします! 助けてください!」
突然現れて意味の分からないことを言う星乃に、その店員はとても驚いてコーヒーを自分の手首に注いでしまう。
「熱っ!? い、いきなり何ですか!? とにかく落ち着いてコーヒーでも──」
「飲んでる場合じゃないんですよ! とにかく早く一緒に助けに来てください! じゃないと先輩が殺されちゃいます!」
星乃は他のお客さんのことなど考えずに、胸ぐらを掴んで叫んだ。
(先輩はヒョロくて弱そうだし、しかも私を逃がすためにチンピラたちを相当怒らせてしまったはず……早く行かないと本当に──)
「――何やら緊急事態のようですね」
騒ぎを聞いて、店の奥の厨房からサングラスとエプロンを着けた筋骨隆々の男の人が現れた。
身長も高く、凄く優しそうな笑顔を向けているけれど、左目の横には大きな古傷の跡があって、正直少し怖い。
(もしかして、先輩が頼れって言ったのはこっちの――)
「マスター! すみません、この子が急に──」
「凛月さんのお友達ですね。それで、何か問題に巻き込まれていると──。お嬢さん、場所を教えてください。冴島君、少し出るのでお店をお願いします」
「えっ、行くんですか!? は、はいっ! マスター! お店はお任せください!」
「ありがとうございますっ! 私について来てください!」
マスターと呼ばれたその男性はエプロンを着けたままカウンターを飛び越えて、そのまま星乃についていく。
「向かいながらでいいです。状況を教えてください」
「はい! 私がぶつかっちゃったせいで、先輩が悪い人たちに絡まれてしまって──」
「なるほど、典型的な絡まれ方ですね。そんなことで目を付けるなら恐らく下っ端のチンピラか、ただの不良……相手は何人ですか?」
「三人です!」
そう言うと、喫茶店のマスターは急に走る速度を緩めた。
「なんだ、そうですか。あまり速く走ると危ないので、気をつけてください。またぶつかっちゃいますよ?」
「何を悠長な事言ってるんですか! 早く戻らないと先輩が──ギャフン!」
「ほらほら、またぶつかりました。すみません、急いでまして」
星乃は必死に凛月のもとへと走る。
どうか、まだあまり殴られていませんようにと祈りながら。
そうして、星乃が急いでさっきの路地裏に戻ると――
三人のチンピラたちは倒れていて、その真ん中で髪を後ろに束ねた見知らぬ美青年が立っていた。
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