第84話 星乃の素顔
「あ~あ、先輩の歌聞いていたらまた歌いたくなってきました! 最後に一曲だけ! 時間はまだありますよね!」
星乃はそう言って、またデンモクで曲を入れる。
すると、ひと昔前に日曜の朝に聞こえてきていたアニメの陽気なテーマソングが流れてきた。
「先輩、知ってますか? 『プニキュア』シリーズ!」
「し、知ってるが、お前が歌うのは意外すぎるな……」
「私、好きなんですよプニキュア! 普段は普通の中学生なのに、本当の姿は光の戦士として世の中の人たちを笑顔にしてる……すっっごくカッコ良くないですか!? いつもは正体を隠して学校に通ってるんですよ!」
何となく境遇が似ていて、俺は心の中でギクリと冷や汗を流す。
「よ、陽キャの星乃がそんなに言うなんて……もしかして俺が知らないだけで、陽キャ内で流行ってるのか?」
「まさか、高校生の女の子で見てる人なんてほとんどいませんよ。これは私が好きなだけです! 先輩にも布教したかったので!」
「なるほどな。だが、残念ながら履修済みだ。最新のまでは見てないが」
俺が得意げに眼鏡をクイッと上げると星乃は瞳を輝かせる。
「流石先輩! 女児向けアニメを見てるなんてオタクですね! そう言えば、一度ペルソニアがオープニングを歌ってたことも──あっ、もう歌が始まりますね!」
そうして、星乃は今までで一番楽しそうに歌う。
俺も大好きな曲だったので手拍子をしておおいに盛り上がった。
「──昔はみんな見てたんですよ? プニキュア。でも、学年が上がるごとにどんどんその友達は少なくなっていったんです」
歌い終わると、星乃はマイクを元の場所に戻しながら独白するように語り出した。
「中学に上がった頃にはもう誰もプニキュアのことなんて忘れているみたいでした。それよりも恋愛や、勉強、アイドルや音楽アーティストの話ばっかり。私がプニキュアの話をし始めたら変な目で見られちゃって……あはは」
星乃はため息を吐きながら自分のカバンを手に取る。
「だからつい、私もその時周りに合わせて誤魔化すためにプニキュアに思ってもないことを言ってしまったんです。その瞬間から、私の生き方は決まったような気がしました。勉強に恋愛、自分が変に思われないように、周りに認められるように頑張ろうって」
俺も話を聞きながら自分のカバンを手に取った。
「でも、先輩のオタクっぽい歌を聴いたら思い出しました。私はプニキュアが大好きですし、周りにとってそれがどうだろうが別に気にする必要ないんですよね!」
帰り支度を終えると、星乃は扉に手をかける。
「だからまぁ、これからは一人でこっそりと楽しむことにします! やっぱり心の栄養が必要ですからね! 人に合わせてばかりだと疲れてしまいます!」
まるで胸のつかえが取れたような星乃の表情を見て、俺は安心してため息を吐いた。
「オタ活はいいぞ。俺だってプニキュアは(仕事の為に)見てたしな。結構好きだ。少しなら話し相手になれるかもしれん」
俺はついあかねにやるように星乃の頭を撫でそうになり、出してしまった手で自分の頭をかいて誤魔化した。
あぶねぇ……殺されるところだったな。
「そういえば星乃はどの回が好きとかあるのか? 帰ったら俺も見てみようかな」
「やっぱり水着回ですね! 特に『シャイニープニキュア!』の第47話なんて、みんなえっちで最高でした!」
「えぇ……」
鼻息を荒くする星乃に、「こいつ、ただのロリコンなのでは?」と思いつつ2人で店を出た。
星乃には椎名を絶対に会わせてはいけない。
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