第81話 これは自分(星乃)の為の歌
今入れたこの曲、『pretender』は人気こそ出なかったものの、別に他の曲に比べて劣っているというわけじゃない。
ただ、『みんなの好みに合わなかった』それだけの曲だ。
当たり前だった、俺がそんなのを気にせずに今の星乃と同じ気持ちを吐き出したくて作った曲なんだから。
散々茶化していた星乃だったが、前奏が始まると座って静かにカラオケの画面を見つめていた。
俺が緊張しないように気遣いつつ見守ってくれているのだろう。
こいつのこういうところに素の性格の良さが露呈して笑いそうになってしまう。
自由奔放に見えるここまでの横暴な振る舞いも、俺との距離を縮めるための気遣いだと同族である俺には分かってしまうからだ。
――そして、曲が始まり俺は出だしを歌う。
俺の声を聞いた瞬間、星乃が驚いた表情で俺を見たが、俺は歌に集中した。
声は変えているんだ、シオンだとバレることはない。
本気で歌ってもいいだろう。
この声、『須田凛月』として人前で歌うのはあかねの前以外では多分初めてだ。
その後は画面を、そこに表示される歌詞を食い入るように見つめる星乃へと向けて俺は歌い続ける。
――伝えたい気持ちを込めて。
◇◇◇
俺がこの曲、『pretender』を書いたのはペルソニアの曲が音楽ランキングを席巻し、東京ドームでのライブを大成功に終わらせた高一の夏のことだ。
ファンのみんなは『シオン』を褒めたたえて、熱狂していた。
──そんな時、俺は人に好かれる為に曲を作り、人気者のフリをしている自分が不意に嫌になった。
本当の自分はそんな人間ではないのに、自分の上辺であるシオンは世間に好かれていた。
なんだか騙しているようで……気が引けた。
多分、星乃はあの頃の俺と同じ気持ちになっている。
未遂とはいえ、藤宮に告白しようとしてフラれた。
その時に、それが藤宮を好きな純粋な気持ちではなく自分を世間に良く見せるための手段としていたことに気が付いたんだろう。
そして、そのことを懺悔するかのように生徒会室で俺にぶちまけた。
今はワザと俺にこんな態度を取っているが、星乃は結局優しい奴だと思う。
何だかんだ仕事を手伝ったり、カラオケを楽しませようとシオンが嫌いなのにわざわざ俺でも知っているだろうペルソニアの曲を選んで歌ってくれていたしな。
そんな彼女だから、罪悪感で自分が嫌いになっている。
他者基準な自分の生き方の指針に疑問を持って、一人で机に突っ伏していたのかもしれない。
まさに、あの頃の俺と同じように。
この曲はそんな俺が自分自身を救う為に歌った曲だ。
人の評価のためじゃない。
『好かれる為の演者』としての自分ではなく、本当の自分も愛してやるということ。
そんな想いをこの曲に詰め込んだ。
俺はどんなに周りに引かれようとシスコンだし、どうしようもなくドルオタだ。
そんな“陰キャの須田凜月”であることでシオンでもいられる。
世間にとっては重要ではなくても俺にとって大切なコトだ、これは手放さない。
それが心の支えになっていることを星乃にも気がつかせたい。
本当の自分を嫌うのではなく、呆れつつもうんざりしつつも、愛して欲しい。
でないと、人生の手綱を他人に握らせることになってしまうから。
俺の歌なんかで星乃の悩みが解決するだなんて思っていない。
でも、せめてこの曲が星乃にとっての良い理解者となってくれるはずだ。
――そう信じて俺は歌い上げた。
明日も頑張ります!
コミックは小説版と結構内容も変わっていますので、ぜひどちらも楽しんでいただきたいです!
よろしくお願いいたします!





