第80話 俺にできること
俺の胸元にマイクを押し付けると、星乃はにっこりと笑う。
「大丈夫ですよ! 安心してください! 聞くに堪えない音痴でも笑ったりしませんから! 静かに、かつ速やかに演奏中止を押して、大きなため息を吐いた後に軽く舌打ちします!」
「待って、そんな湿度の高い嫌がらせするの!? 絶対に笑ってくれた方がマシだよね!?」
「冗談ですよ~。いいから歌ってみてくださいよ! ほらほら! なんだよ、俺のマイクが受け取れねぇのか~!」
「後輩の癖にパワハラすんな。分かった分かった。俺も一曲くらいは歌いたいと思ってたんだ」
マイクを受け取ると、デンモクで曲を入れる。
俺の──ペルソニアの曲だ。
「なんですかこの曲~。先輩、いくらペルソニアとはいえ、誰も知らないマイナー曲なんて入れられてもシラケるだけですよ~」
星乃はブーイングを飛ばす。
ペルソニアはデビューこそ華々しく飾ったものの、常に音楽業界のトップを走ってきたわけではない。
当然、他のバンドと同様にあまり有名にならなかった曲も数多くある。
俺が選んだのはそんな曲の中の一つだった。
「いいんだ、俺は今これが歌いたいんだから」
「あはは、流石は陰キャです。先輩って空気読めないんですね~」
「心配すんな、今は空気そのものになることに成功してる」
「過去にも周りを凍りつかせたりしたこととかありそうですね~」
「やめろ、その言葉は俺によく効く。うわ、思い出して心臓ドキドキしてきた」
「先輩……それが恋ですよ」
「最悪な吊橋効果やめろ」
「私にはいくらでも恋をしていいですからね~。私が先輩に恋をすることはありえませんが」
「安心しろ、微塵も期待しねぇよ」
正確には、歌いたい曲ではなく星乃に『聞かせたい曲』だ。
俺だって歌手だ、たった一人の相手を前にマイクを渡されたらそんな欲は沸く。
ましてやそれが、顔だけ楽しそうに笑って、心に昔の俺と同じような悩みを抱えているような奴だったら。
俺には歌うことしかできないけれど、
――どうにかしてやりたいって思ったんだ。
すみません、昨日は体調を崩して『山本君の青春リベンジ』もこちらも投稿できませんでした……。
その分、今日はもう一回投稿できるように頑張ります!
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初めてのコミックなので、なんとか売れて陰キャボーカルを続けていきたいです……!





