第74話 ウザい後輩と横浜に遊びに来ました
──思えば、会話なんてものは作曲とそう変わらないものだと思う。
音階の選択に全曲の構成が左右されるように、新しい人間関係における最初のやり取りがその後の全てを招くようになるものだ。
1音1音がメロディを作っていくように、何気ない言葉やしぐさが『その場の流れ』を作る。
――なので、これは俺にも非があると言えるのだろう。
とはいえ、呟かざるをえない。
「どうしてこうなったんだっけ……?」
「せんぱ~い! 早く行きますよ~!」
横浜駅の西口で星乃が足取りの重い俺に向けて大きく手を振っている。
結局、俺は会ったばかりのこの天真爛漫な後輩に無理やり連れ出されて遊びに行くことになってしまっていた。
ていうか、何これ。なんでこんなにフレンドリーになったの?
フレンドリーになってくれる要素無かったよね?
怖い、フレンドリーの出どころが分からなくて怖い。陽キャ怖い。
「地元じゃないとはいえそんなに大声で俺を呼ぶなよ。見ろ、俺なんかがお前と歩いてるから周囲が凄い視線で見てるじゃねぇか」
「いいじゃないですか。私みたいな美少女と一緒に歩けて羨ましがられているんですよ? むしろ自慢するくらいの気持ちでいてくださいよ」
「いや、自慢どころじゃねぇよ……よく見て、みんな俺のこと刺しそうな表情で見てるから」
「先輩みたいな陰キャシスコン根暗ひねくれオタクが私と一緒に歩けたんですよ? 刺されるなら本望じゃないですか?」
「お前の自己評価の高さすげぇな……。というか、お前って誰にでも人当たりが良くて、謙虚で人の悪口なんて言わないって噂で聞いてたんだけど? 何一つ当てはまらないんだけど?」
悲しい答えが返ってくることを知りつつも俺は聞く。
「は? 先輩以外に悪口なんて言うわけないじゃないですか。ボッチで誰にも告げ口される心配がない先輩にだからこんな私を見せられるんですから。まぁ、もし告げ口されても先輩の狂言だと思われるだけですけどね」
「確かに……。で? どこに行くんだ? もうこれ以上周りの目に晒されたくないんだけど」
「安心してください!」
そう言うと、星乃は俺の腕を掴んで耳元で囁く。
「これから行く場所は二人っきりになれる個室ですよ! 恥ずかしいですけど私、大きな声出ちゃいますから……ちゃんと壁が厚いところだといいんですが……」
「……はい?」
「ふふふ、さぁ行きましょう!」
◇◇◇
そうして、俺は星乃の甘い誘惑に釣られてまんまとつれてこられて来てしまった。
――駅前のカラオケボックスに。
星乃はカバンを部屋の隅に投げ捨ててマイクを握る。
「さぁ! ストレス発散に思う存分歌いまくりますよ!」
「『二人っきりの個室』ってカラオケかよ……。いや、そんなことだろうと思ってたけど」
「あれれ~、先輩はなんだと思ってたんですか~」
星乃はニヤニヤとした表情で俺を煽る。
非常にウザい、顔が良いせいでそれですら可愛いのがさらに腹立つ。
「カラオケなんて久しぶりに来たな」
普段はスタジオで練習しているのでカラオケは新鮮だった。
なんていうか、部屋が狭い。熱がこもる。
何より最悪なのが――
『ドムチャンネルをご覧のみなさん、こんにちは。ペルソニアのボーカル、シオンです。今回リリースするアルバムは~』
カラオケのテレビで宣伝活動に勤しんでいる俺が映っていることだ。
何この羞恥プレイ。
新作の、
『山本君の青春リベンジ~学校でイジメられてた俺が努力して生まれ変わり、戻ってきてからクラスメート達の様子がおかしい件~』
を小説家になろうで投稿を始めました~。カクヨムのほうが進みが早いですが、小説家になろうの方で読みたい方はブックマークや評価を入れていただけますと幸いです!
引きつづき、よろしくお願いいたします…!<(_ _)>





