第70話 陽キャの後輩が俺にだけウザい
「それで、俺を呼び出した要件はなんでしたっけ?」
ひとしきり先生を憐れむと、俺は話を元に戻した。
「私が『この資料を生徒会室に持って行って欲しい』と言ったら、君が快く引き受けてくれたところまで話が進んでいたな」
「いやいや、断りましたよね!? 勝手に捏造しないでください!」
どこまでも強引な澄川先生に俺はため息を吐く。
「……じゃあ分かりました! 先生のお使いは引き受けますから。その代わり帰ったらちゃんと自分で家の掃除をしてください! それが条件です!」
「須田……。君はちょっとチョロすぎて先生心配になってきちゃったよ」
「お、俺は甘くないですよっ? ちゃんと後日、掃除した部屋の写真を見せてもらいますからね! それで確認しますから!」
俺なりの厳しい条件をつけたつもりなのだが、澄川先生にはさらに呆れたような表情をされてしまった。
「そうだ! じゃあ、RINEのアドレスを交換しよう。そうすれば掃除が終わった瞬間に綺麗になった部屋を撮影して画像を送ればいいだけだろう?」
「えぇ!? そ、それはそうですが……」
「ほら、携帯を出せ。あぁ、今はスマホって呼ぶのか」
澄川先生に気圧され、そのままRINEのアドレスを交換してしまった。
成り行きでこんなに美人な大人の女性の連絡先を手に入れてしまい、内心ドキドキした俺だったが直後に送られてきたシオンのRINEスタンプですぐにげんなりとしてしまった。
「じゃあ、書類の方は頼んだぞ。貼ってある付箋のとおりに仕分けをして、生徒会室の棚に入れるんだ」
そんなことを言いつつ澄川先生は少し重いくらいの書類の束を俺に手渡した。
「思ったよりも量が多いですね……しかも持っていくだけじゃないんですか!? なんか、作業が追加されてるっ!?」
「なに、須田なら一人でもすぐに終わらせられるはずさ。心配するな」
「そ、そうなんですかね……少し大変そうですが……」
そう呟きながら、それ以上の困難があることに気が付いた。
「というか、あんな陽キャだらけの生徒会室に入るなんて陰キャの俺にはハードルが高いですね」
「大丈夫だ、今日の生徒会は休みだからな。ほら、生徒会室の鍵だ」
「あっ、誰もいないんですね! それなら緊張せずに済みます」
「あぁ、あそこなら誰もいないし、今日は誰も来ないさ」
そんな言葉と共に、何やら妖しく微笑んだように見えた澄川先生を後にして俺は生徒会室に向かった……。
◇◇◇
生徒会室の前に着いた俺は書類を左腕で抱えて右手でその扉に手をかける。
鍵が閉まっていることの確認作業でもあったのだが、扉はガラガラと音を立てて抵抗なく横にスライドしてしまった。
(おっ? 何だ。鍵開いてるじゃねーか)
扉を開くと――室内の机に一人で突っ伏していた女の子が顔を上げ、俺と目が合った。
彼女はその状態のまま瞳を丸くしてこちらを見ている。
「す、すまんっ! ノックもせずに……驚かせたよな。誰もいないと思って!」
意図せず女の子の油断していた姿を見てしまい、俺は慌てて彼女に謝る。
肩まで伸びた綺麗な黒髪に、中で星でも輝いていそうなキラキラとした瞳。
文句なしに美少女と言える彼女はこの白星高校の有名人だ。
星乃陽菜
なんと、一年生にして生徒会の書記を務めている。
彼女は陰キャの俺とは完全に対極にいる存在──つまり"スーパー陽キャ"である。
新入生代表の挨拶を務めていたのも彼女だったし『才色兼備の優等生』として早くも学園中に認知されている。
ちなみに入学試験を主席合格して新入生代表を依頼されていたのはもともとマイエンジェルのあかねだったが、「目立ちたくない」と断ったので代わりに彼女が新入生代表になったらしい。
可愛らしい容姿と、明るく誰にでも優しい性格の良さが相まって全校男子の注目の的である。
なんと言っても特徴的なのは、星乃が男子生徒に向けて話すときの甘ったる〜い声だ。
いつも優しい言葉で、聞けばどんな男でも彼女の虜になってしまうような――
「はぁ~、せっかく一人になりたかったのに気分最悪……。出てってくれます?」
「……え?」
星乃は俺の姿をジロリと見ると、吐き捨てるようにそう言った。
いつも読んでいただき誠にありがとうございます。
まだコロナの余波で色々と大変ですが、続きも頑張ります…!





