第69話 だれかもらってあげて! この先生!
「辛いかもしれませんが、麦茶はしっかり飲んでくださいね。二日酔いを治すには水分を取らないといけませんから。それと、味噌汁の具に使っているしじみとデザートの梨も二日酔いに効果があるのでちゃんと食べてください」
ついついお兄ちゃんスキルの一つ、『世話焼き』が発動してしまう。
いや、もう今更だけど。
「うぅ、こんな温かみのある朝ご飯なんて実家に帰った時くらいにしか食べられん……身体に染みる……君が天使か……」
まだ酔っぱらっているらしい澄川先生が涙ぐみながらそんな戯言を言うので俺は正体を明かすことにした。
素顔を見られてしまったが、まぁ今更だろう。ここで変に隠す方が何か怪しまれてしまいそうだ。
「天使は俺の妹の方です。俺は須田ですよ。まぁ、先生も俺なんて陰キャは覚えていないんでしょうけど……」
「……須田? 2年B組、出席番号18番の須田か?」
「えっ、担任でもないのになんでそんなことまで覚えてるんですか? 学年が変わって、まだ数えるくらいしか授業してないですよね?」
「私は新学期が始まると、まず全員の名前と出席番号を頭に入れる。大切な生徒たちだからな。それに、須田はいつも熱心に私の授業を聞いてくれているから大好きだぞ」
そんな事を言われて、つい顔が熱くなる。
いや、好きってそういう意味じゃないだろ。
先生として教え甲斐があるって意味だけだ。
「酔い潰れて駅のホームで寝ていたり、部屋がゴミ屋敷でさえなければ凄く良いこと言ってるのに……」
「で? その須田がどうしたんだ?」
「だから、それが俺なんですって! まだ酔ってるんですか! あぁ、もうメガネかけて髪下ろした方が早いか!」
その後、俺の鬼太郎スタイルの姿を見た澄川先生は一言。
「なるほど、ガチで私の学校の生徒だったのか……やべぇな……」
そう言って心底困ったような表情で頭を抱えた。
しかし、何かを思いついたかのように手を叩いて妖しい笑みを浮かべる。
「須田、私は生徒を家に連れ込んで一泊させたなんて知られたら教師をクビになってしまう」
「分かってます。大丈夫です、言いませんよ。そもそも、別に連れ込んだ訳じゃないですし」
「いーや、私は弱みを握られたんだ。須田がどんな命令をしても私は従わざるを得ないだろう。さぁ、私に何かして欲しいことがあるんじゃないか!?」
そんなことを言って澄川先生は胸元のボタンを緩め始めた。
どうやらこの状況を逆手に取って俺をからかい始めたようだ。
しかし、残念ながらそんな酔っ払いのふざけた行動なんて俺には――効果てきめんだ。
熱い味噌汁をすすって赤くなっているであろう頬を誤魔化した。
そして、一息つく。
「じゃあ、これからはお酒を飲むときは気をつけてください。本当に心配したんですから」
そう言うと、澄川先生は驚いたように目を丸くした。
「……おい、須田。そんなに優しいことまで言われるとマジで本気にしてしまうぞ。責任は取ってくれるんだよな?」
どうやら、俺の心配性で過保護な性格を完全に利用するつもりらしい。
一度助けて部屋の掃除や料理を作っただけで責任を取れと言われてしまった。
いや、捨て犬を拾ってきたわけじゃないんだから……これからもお世話をするつもりなんてない。
せめて片付けぐらいちゃんと自分でできるようになってもらわないと。
「——それと、安心してくれ。昨夜の失態は私も人生で初めてだ。私の学生時代の後輩が先に結婚してな……つい独りで深酒をしてから店を出てしまったんだ」
「そ、それは……なんて声をかけていいか……」
「同情するなら結婚してくれ」
「同情で結婚してちゃダメですよ……。俺なんかじゃなくてもっと素敵な人を見つけてください、先生なら絶対に見つかりますから。それじゃあ、俺は帰りますからね! 食器くらいは自分で洗ってください」
「ま、待ってくれ須田! 頼む、もう少しだけ! そ、そうだ私と一時間話してくれたら一万円やるぞ! それ以上のことをしてくれたらもっとやる!」
「どんだけ寂しいんですか! 流石に引きます! 俺は一刻も早く妹に会って妹成分を補給しないと心身に異常をきたすので帰ります」
「いや……君の言っていることも大概だぞ? あ、鍵は返さなくていいからな」
「返しますよ! もう来ませんからね!」
◇◇◇
──そうして今に至る。
澄川先生はいかにも危険性が無く、掃除や料理をしてくれる俺をこれからも家政婦のようにこき使いたいらしい。
隙あらば家にお持ち帰りされそうになってしまう。
正直、こんな美人なお姉さんにお持ち帰りされるなら願ったり叶ったりなんだけれど……いや、ダメだ。絶対にまた掃除とかすることになってそれじゃあこの人が成長しない。
魚が捕れなくて困っている人には魚を与えるのではなく、魚を捕る努力をさせなければ。
「須田、何か欲しいものはないか? お金に困ってないか? お菓子をあげるからウチについてこないか?」
「先生、俺泣きそうです……」
ついに誘拐犯みたいなことまで口走りはじめた澄川先生が情けなくて、俺は職員室で涙を拭った。
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