第68話 俺のせいかもしれません……
先生を肩で支えながら部屋の扉を開く。
廊下の電灯でほのかに照らされた玄関の電灯のスイッチを押すと――。
室内は握りつぶされた大量のお酒の空き缶と衣服が散乱していた。
(……嘘だろ。いや、嫌な予感はしてたけどっ!)
玄関で先生の靴をぬがせてベッドまで運び、布団をかぶせる。
そして俺は今一度地獄のような汚部屋を見回した。
よく見ると空き缶以外のゴミはそんなに多くないし、ちゃんとゴミ袋に捨てられている。
単に片付けられないだけのようだ。
アウターや部屋着がそのまま床に脱ぎ捨てられていて、大人気イケメン俳優である佐藤圭介のグッズが散乱していた。
それと、色とりどりのサイリウムやどこかで見たような他のグッズも。
そう、どこかで見たような……。
(どうみてもシオンのグッズです。本当にありがとうございます)
ここに散らばっているグッズの俳優、佐藤が主演するドラマの主題歌を二本ほど請け負ったことがある。
そんな繋がりから、佐藤と俺の親交が深いことは世間的にもかなり有名だ。
というか、佐藤がいつも勝手に絡んできては各テレビ番組で一方的なラブラブアピールをするせいだ。
悪い奴ではないが、流石にウザったくなってきたので最近は塩対応を続けている。
それでも佐藤は構わず俺のライブには欠かさず来るし、SNSでは俺に向けているらしい謎のポエムすらよく上げている。
正直少し怖い。
そんな『甘々対応の佐藤に塩対応を続けるシオン』の二人の関係性を含めてファンになる人も多いらしい。
というか、今目の前にいるのが恐らくそうだ。
(もしかして……澄川先生がこんなに美人なのに独身だし、生活力がないのはこの推し活のせいなんじゃ……。なんか、責任を感じるな……)
床に散乱した自分のグッズを見て、しばらく考える……。
そしてため息を吐き、俺はとある決心をする。
スマホで愛する妹、あかねにメッセージを打った。
《悪い、今日はバンドの練習が長引いてこのままスタジオに泊まることになった》
あかねに嘘を吐く罪悪感をヒシヒシと感じながら送信ボタンを押した。
邪魔な前髪をかき上げるとヘアピンで止め、常備しているヘアゴムで髪を後ろで短く縛って気合を入れる。
「よし、やるか……!」
◇◇◇
早朝――。
窓の外から小鳥のさえずりが聞こえ、朝日が室内に差し込む。
「……終わった」
生まれ変わった部屋を見て俺はようやく一息つく。
たまに具合が悪そうにうめき声を上げる澄川先生の様子も見つつ、変に部屋を捜索しすぎないようにしながら音を立てないよう掃除していたので予想外に時間がかかってしまった。
とりあえず、これで足の踏み場はあるし、テーブルも広く使える。
お次は……。
俺は冷蔵庫の中を調べる。
(チューハイとビール缶とつまみだけしかない……いや、料理なんてしなさそうだと思ってたけど)
俺は近くの24時間営業のスーパーに向かった。
一通り食材を買い終えて部屋に戻ると、使える状態まで綺麗にしたキッチンでエプロンの紐を締める。
小さな鍋に味噌を溶かして、パックのご飯を温めながら細ネギを切っていった。
完成したしじみの味噌汁と梅のおむすびをそれぞれ器に盛ってお盆に乗せる。
漬物の盛り合わせも小皿に出してデザートにうさぎの形に切った梨も作った。
家では料理はあかねと当番制なのでこれくらいならお手の物だ。
それらをテーブルに並べていくと、ちょうど澄川先生が目を覚ます。
「う〜ん……なんだ……? 何だかいい匂いが」
「澄川先生、朝ですよ。簡単ですが朝ごはんを用意しました」
水蒸気で曇ってしまうため料理前にメガネを外し、エプロンを着けたままの状態で俺は澄川先生に呆れつつも笑顔を向けた。
澄川先生はムクリと起き上がると、そんな俺を見て顎に手を当てて考え出す。
そして、何やら手を打った。
「……そうか、きっと私は酔い潰れて駅のホームから転落して死んだんだな。良かった、イケメン天使がいる天国に来れたみたいで」
「はいはい、いいから食べて早く元気になってください」
どうやら、まだ酷く酔っているらしい。
戯言を抜かす澄川先生に再び呆れながら俺はコップに麦茶を注いだ。
前回の投稿で非常に多くの励ましの感想をいただき、ありがとうございました!
本当に涙が出るくらい嬉しかったです…!
続きもできるだけ早く投稿しますので、未熟な作者ですが応援よろしくお願いします!
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