第67話 なんでここに先生が!?
放課後の職員室──。
「おい、須田。これを生徒会室まで持って行ってくれ」
2年C組の担任であり、国語の教師でもある澄川先生に呼びだされた俺は書類の束を手渡されてそんな事を言われた。
少し跳ねたままの長い黒髪と着崩したスーツ、ごちゃごちゃに散らかった机が澄川先生のずぼらな性格をよく示している。
そんな怠惰な人間性のせいで彼氏もできず、見事にいき遅れているらしいという噂は陰キャの俺の耳にすら届くほどだ。
スタイルも良くて美人なんだからもう少しちゃんとすれば絶対に引く手数多なのに。
そんなおせっかいを考えつつ、流石に俺は文句を言った。
「先生、俺は使いっ走りでも生徒会のメンバーでもないんですけど。それに、何でわざわざ他クラスの俺に頼むんですか!」
「なに、タダでとは言わんさ。ふむ、そうだな。お礼に帰りは車で私の家まで送ってやろう。それでどうだ?」
「いや、せめて俺ん家に送ってくださいよ……。独身生活が寂しいからって生徒を家に連れ込もうとしないでください」
そう言うと、澄川先生は小動物のような潤んだ瞳を俺に向ける。
「頼む、須田。玄関で一言『お帰り』って言ってくれるだけでいいんだ……。誰もいないゴミ屋敷みたいな部屋に一人で帰るのはもう心が限界で──」
「おい! また部屋汚したのかよ! この前掃除してあげたばっかりじゃないですか!」
俺が小声で怒るも、澄川先生は得意げに腕を組む。
「須田よ、私を無礼るなよ? むしろ、あの後お前が帰ってからの方が寂しさを紛らわす為に酒を飲むようになったくらいだ。今朝も目を覚ましたら床中にチューハイの空き缶が転がってた」
「悪化してんじゃねぇか!」
もはや敬語を使う事すら馬鹿馬鹿しくなった俺は力一杯にツッコミを入れる。
この残念美人教師、澄川先生とこんな話をする関係になってしまったのは先日の土曜日。
俺がバンドの練習を終えて、一人で帰宅する時のことだった──。
◇◇◇
「お姉さん、こんなところで寝てたら危ないよ〜!」
「う〜ん……むにゃむにゃ……」
「全然起きない……。参ったなぁ〜」
夜、といってもまだ19時くらいだったと思う。
バンドの練習を終えて地元駅に帰ってくると、ホームの椅子で駅員さんに声をかけられながら、酔い潰れて寝ているお姉さんがいた。
せっかくの綺麗な長い黒髪は地面に垂れ、抜群のスタイルはだらしなく緩んだ口元やシワだらけの服で台無しになってしまっている。
多くの通行人が『ああいう人間にはなるまい……』だとか、『これが日本社会の現状か……』なんて視線を向けていた。
そんな中、俺はどちらかというと心配になってしまっていた。
やや肌寒いこの時期にあんな場所で寝ていると風邪をひいてしまいそうだ。
とはいえ、すでに駅員さんが対応しているみたいだから任せておけば大丈夫だろう。
一度は足を止めてしまったが、愛するあかねに一秒でも早く会いたいので俺も再び帰路につこうとする。
「……う〜ん、私だってその気になれば彼氏の一人くらい作れるんだぞ〜!!」
どこかで聞き覚えのある彼女の酔っ払った戯言に俺は思わずもう一度目を向ける。
(……あれ? 良く見ると国語教師の澄川先生じゃね……?)
私服を着ていたので分からなかったが、間違いなく日頃授業でお世話になっている先生だった。
そんな先生を取り囲んでいる駅員さんたちは頭を悩ます。
「ダメだ。泥酔して変な事しか言わない」
「仕方がない、警察を呼ぶか」
そう言ってスマホを取り出した。
このままじゃ警察のお世話になってしまうようだ。
地元の駅で高校の教師がそんなことになったら流石にマズいだろう。
放っておくわけにもいかず、俺は駅員さんたちに声をかけた。
「あのっ、すみません! この人、俺の知り合いです!」
それを聞くと、駅員の方達は表情を明るくする。
「おぉ、本当か! 助かった! ……念のため、彼女の名前を言ってもらってもいいか? そばに落ちていた財布に入っていた彼女の身分証と照会したい」
しかし、顔を眼鏡と髪で隠した怪しい風貌の俺の姿を見て少し警戒しているようだった。
澄川先生は近くでちゃんと見ればとても美人だし、酔っ払っているのをいいことに良からぬ人が寄って来た可能性もある。
当然の対応だった。
「はい、澄川さんです。後は酔いが覚めるまで付き添って、俺が家に送りますので、警察は呼ばないでもらえますか?」
「名前も合っているな。もちろんだ! 我々は仕事に戻るから、君たちもこれ以上暗くなる前に気をつけて帰るように」
どうにか信頼を勝ち取ることができたらしい。
駅員の皆さんも面倒ごとが無くなって露骨にニコニコしている。
俺は先生をちゃんと座らせると、羽織っていた上着を背中にかけてすぐそばの自販機で水を買い、背中をさする。
「あ~、気持ちいい……楽になる……。もっと身体を触ってくれ、人肌のぬくもりが恋しいんだ……」
「変なこと言わないでくださいよ……。はぁ〜、さっさとこの人を家に送って帰ろう」
適度に水を飲ませたりしながら、俺は澄川先生が回復するのを待った。
そんなこんなで30分後。
「先生、おウチの場所はどこですか?」
「う〜……あっち~……」
依然として意識が朦朧としていたが、何とか家の方向をゆび指せるくらいには酔いが覚めてきた。
そんな先生と肩を組み、支えながら歩く。
いつもは凛とした雰囲気が格好いい澄川先生だけど、酔い潰れた今そんな姿は見る陰もない。
小さな子どもの相手をしているみたいな感覚だ。
幸い、先生の自宅のマンションは駅の近くだった。
「着きましたよ。鍵は……自分じゃ取り出せませんよね?」
「うぅ~、私だって合鍵を持ったイケメン彼氏と一緒に住みたい~!!」
「うわっ、急に泣き出しちゃったよ……。仕方がない」
何か地雷を踏んでしまったらしい。
俺は先生のハンドバッグから鍵を見つけ出して部屋の扉を開いた──。
お久しぶりです!作者です!
えぇ本当にお久しぶりです、なんとか生きてます、、、
続きも早く投稿していけるように頑張りますので、
すみませんが引き続き応援よろしくお願いいたします…!
<(_ _)>ペコッ





