第65話 実は大人気バンドのボーカルな件
このライブは日本中の話題になった。
新聞やテレビ局各社が今回の件をとりあげ、ニュースにする。
〈ペルソニア、新人アイドルグループ、シンクロにシティのライブでまさかの"前座"を担当!?〉
一部では、プライベートで来ていたペルソニアが異変を感じ取り、急場をしのぐために急遽演奏を始めたとの噂もあり、ファンたちの間では憶測が飛び交っている。
真相は分からないにせよ、ペルソニアが前座を務めた事実は変わらない。
その結果、アイドル『シンクロにシティ』は一躍時の人となった。
しおりんたちにはテレビ番組の出演依頼やCM、ドラマのオファーまでもが舞い込む事態となったが、しおりんたちはすでに事務所、カルデアミュージックを脱退。
今は個人で仕事を受け付けている。
ちなみに、カルデアミュージックはチケットの払い戻しにも対応したが、手を挙げた者はいなかったという。
それどころか、使用済みの半券すらプレミアが付いてオークションサイトでは高値で売られているのが現状だ。
◇ ◇ ◇
「みんな~、おはよ~!」
「――しおりんたちだ!」
「シオンと話したって本当!?」
「それどころかライブで一緒に歌ったんでしょ!?」
「YuTubeに上がってるライブ動画、もう1000万回再生越えてるよ!」
月曜日の朝、朝宮さんたちはそんな質問攻めのクラスメートたちに満点の笑顔で挨拶をする。
いつも通り、俺はそんな朝宮さんの笑顔を盗み見していた。
この笑顔を守れてよかった……
あの後、俺たちペルソニアは別会場でのリハーサルの為にすぐに姿を消した。
一応、リハーサルにも間に合いました。
しおりんたちはもう事務所に所属していないからイジメられたりすることもないだろう。
これからは彼女たちらしく、元気に自由にアイドル活動ができるはずだ。
◇ ◇ ◇
お昼の孤独のグルメを終えた俺は仕事の内容を鈴木と電話をするために人目につかない階段下へと向かう。
また無茶なお願いに協力してくれたメンバーにもお礼をしないとな……何がいいかな……。
そんな事を考えながら廊下の角を曲がると――
「はぁ~、本当にシオン様素敵だったなぁ~。私、何度思い出してもとろけちゃいそう……」
「私も夢に見ちゃった。ピンチに颯爽と駆けつけて、何事もないかのように行ってしまって、小さい頃に絵本で読んだ王子様みたい……」
「私たちもいつかシオン様にお礼と、恩返しをさせてもらわないと! 私の悩みを格好良く見抜いてくださった琳加様より素敵かも……」
思考に完全に意識を奪われていた俺は曲がり角で何やら盛り上がっている3人とぶつかった。
倒れそうになる彼女の1人を支えて、俺は安堵のため息を吐く。
「わ、悪い! 考え事をしてた。怪我はない――」
「――ひぃ!?」
3人組は俺のよく知る推しのアイドルだった。
「お、おお、犯さないでください!」
俺の腕に収まったみほりんが恐怖で泣き出す。
「この変態、さっさと手を離しなさいよ!」
あかりんは俺を突き飛ばして睨んだ。
そして、最後にしおりんが倒れている俺に囁く。
「……あのね、私たちの練習に協力してくれた事は感謝しているわ。最初から私たちに何かしようという下心で手を貸していて、『私たちの為』っていうのは全部ウソだったとしても。そのおかげで歌も踊りも上手くなったのは事実だし」
ニッコリと笑顔を作って俺に微笑んだ。
「――でもはすみんにしたことは許していないわ。もうこれ以上女の子を悲しませないで、この変態」
そして、いつも笑顔を絶やさないしおりんですらゴミを見るような目で尻もちをついた俺の事を見下す。
(ありがとうございます……)
推しのアイドルに冷たい目を向けられ、心の奥底では何故か感謝が出てきた。
脳がバグったんだと思う。そう信じたい。
俺は逃げるようにその場を離れて、階段下に向かった……。
鈴木との電話を終えて、教室に戻ろうとすると上の階から階段を下りながら誰かの話し声が聞こえてきた。
「琳加さん、シンクロにシティのライブの時に最前列にいたってマジですか!?」
「あぁ、朝宮たちはトラブルで遅刻してたみたいでな。プライベートで見に来ていたペルソニアのメンバーが急遽演奏をしてその場を救った感じだったな」
「マジっすか!? ペルソニア、マジでカッケーっすね! じゃ、じゃあ琳加さんの目の前にシオンも!?」
「あぁ、シオンは本当にカッコよかったな~。――っていかんいかん。私にはもう心に決めた相手がいるんだ。シオンなんかに目移りするな」
そう言って琳加はバシバシと自分の頬を両手で叩く。
「そうっスよね! 琳加さん、早く藤宮くんを落としちゃいましょう!」
「……藤宮?」
そんな話をしている番長と取り巻きを俺は階段の裏に隠れてやり過ごす。
(哀れ藤宮……)
すでに琳加の記憶から消え去っていた彼に俺は勝手に少し同情した。
◇ ◇ ◇
「それでは、今週の音楽ランキングの発表です!」
やけにテンション高くアナウンサーが毎朝恒例の音楽ヒットチャートの順位を発表する。
「――そしてっ、今朝も1位はこの曲! ペルソニアの『Secret-days』です!」
そんなテレビの画面を俺は妹のあかねと2人で食パンにかじりつきながら見ていた。
「よし、あかね! "この後"だぞ、注目して見てろよ!」
「はいはい」
興奮する俺の様子を冷めた目で見つつ、あかねは返事をした。
「続いて2位はペルソニアとも共演した、今をときめく期待のアイドルグループ! シンクロにシティの『コネクト!』です!」
推しのアイドルグループの曲がランキングに入ったので俺はガッツポーズをして喜んだ。
「くそー、ペルソニアさえいなければ1位だったのに……!」
「いや、お兄ちゃんのせいじゃん」
あかねは今朝、いつもより1割増しで俺に冷たい。
昨日、俺が学校から帰ってきた後、なんやかんやあって思わず俺の胸に飛び込んで顔を埋めてしまったのが相当に恥ずかしいのだろう。
そんなところも愛らしい我が妹が朝食を食べ終えると俺は声をかける。
「俺が洗うよ」
「いいから、お兄ちゃんは先に学校に向かって。兄妹で登校するのも目立っちゃうでしょ」
「そ、そうか、悪いな」
カバンを背負うと、玄関へと続く廊下への扉を開く。
そうして、家を出て行こうとした時、ふと言い忘れていたことを思い出した。
「あかね――」
誰にもバレないようにする。
平穏な日常、愛すべき妹や家族の為に。
この先どんな面倒事に巻き込まれようとも俺は仮面をかぶり、上手く隠し続ける。
「今日も気をつけてな」
――クラスで陰キャの俺が実は大人気バンドのボーカルな件を。
【駆け出しアイドルの下剋上編】
~fin~
続きます
まだ続きます!(重要)
【書籍発売のお知らせ】
本作の書籍はついに、明日発売です!
出版社は"主婦と生活社 PASH!"です!
書籍版は加筆修正が施されていて、あかねの出番とかも増えていたりします!
twitterで公開していた、イラストレーターのみすみ先生の発売前、カウントダウンイラストを公開します!
・琳加
・蓮見
・椎名
書籍版だと、さらに可愛いヒロインたちの色んな表情や女装した凛月(めっちゃ可愛いです!笑)も見れます!
そして!
書籍限定の書き下ろしストーリーも収録!
タイトルは、
『メガネを外して、髪整えて街に出たらすごいことになった件』です!
凄くニヤニヤできて、かなり面白く書けました!
ぜひともみんなに読んで欲しいです!
書店に置いてなかったら、店員さんに取り寄せをお願いしていただくか、通販サイトをご利用ください!
店頭で見かけたらすかさず確保してください!
無かったら諦めてAmazonやセブンネットなどの通販サイトをご利用いただいた方が早いと思います!
売上が大切なので、早めに買っていただけると本作の継続に大変助かります…!
そして、最後に!
「新章が楽しみ!」
「続きが読みたい!」
「頑張って!」
と思ってくださいましたら下の☆☆☆☆☆を★★★★★にしていただけると嬉しいです!
では、皆様! これからも『陰キャボーカル』(公式の略称)をお願いします!





