第63話 オープニングアクト
まずは1曲。
俺たちの代表曲『persona』を歌い終えると会場は1000人の観客の歓声と鳴り止まぬ拍手に包まれる。
最前列の仕切られた招待客の席では琳加と蓮見が口をあんぐりと開いて俺の事を見ていた。
俺がマイクを摑んで再び口元に近づけると観客たちの歓声はピタリと止まった。
みんな注目しているんだ、俺たちがどうして、"何者として"この場所で演奏をしているのか。
俺はメンバーに目配せをして、全員が頷くと、大きく息を吸った。
「みなさん、こんにちは! 今回、『シンクロにシティ』のオープニングを務めさせていただきます! ペルソニアと申します!」
改めてバンド名を名乗った事で会場はまた湧き上がる。
人々はスマホを取り出して俺たちの録画を始めた。
俺が言った"オープニング"とは"オープニングアクト"の事だ。
つまり、前座。
俺は続けて観客に声を上げた。
「本日の"主役"、シンクロにシティが来るまでどうかお付き合いください!」
そんな俺の言葉を合図にシーナが次の曲の始まりを告げるシンバルを叩く。
――こうして、ペルソニアのプレミアムライブが始まった。
◇◇◇
「――シオン!」
俺たちの4曲目が終わる頃、舞台袖から聞こえた鈴木の声に俺は目を向ける。
すると、信じられないようなものを見るような目でアイドル衣装のしおりん、あかりん、みほりんが俺を見つめていた。
よかった、なんとか間に合った……
鈴木にはあらかじめ伝えていた。
外にアイドルが来たら連れてきて欲しいと画像付きで。
随分遅くなったが、盛り上がりは最高潮。
ラストを飾ってくれれば、なんとかライブとしての形にはなるだろう。
俺はマイクをスタンドに収めると、舞台袖にはける。
戸惑いながら顔を真っ赤にしている3人のもとに近づく。
そして、シオンの声で声をかけた。
「しおりん、あかりん、みほりん。ファンがお待ちかねだ、俺たちじゃない、"君たち"を待ってる。行けるか?」
「は、はは、はい!」
狼狽えながらも、力強く返事をしてくれたので俺は胸を撫で下ろした。
大丈夫だ、しおりんたちはいっぱい練習した。
ファンの為なら緊張なんて吹き飛ばしてしまう。
「1曲しか時間はない、メンバーが演奏できるのはシンクロにシティの代表曲、『コネクト!』だ。この1曲に今までの練習の成果を全て出しきっちまえ」
「ペ、ペルソニアが私たちの曲の演奏を!?」
「覚えたばかりだから、下手でも許してやってくれ」
そう言って、俺は笑いながらマイクをもう2本渡して3人の背中を押す。
しおりんたちはそのまま舞台へ。
俺たちの演奏で完全にヒートアップしている観客たちは、シンクロにシティの登場でさらに盛り上がった。
どんなに有名なアーティストが演奏しようが、ここにいるのは『シンクロにシティ』のファンだ。
全員がずっと待ち望んでいた。
しおりんたちの登場を。
しおりん、あかりん、みほりんはステージの上で頷き合う。
そしてマイクを取ると、3人が横並びで頭を下げた。
「みなさん、お待たせしてしまい申し訳ございませんでした……!」
遅れてしまったのは花見の卑劣な罠に嵌められていたからだ。
それでもしおりんたちは誠心誠意深々と頭を下げた。
それが、アイドルの務めだから。
「しっおっりん! あっかっりん! みっほっりん!」
しおりんの謝罪にファンたちは大声でコールを始める。
待たされていた怒りはどこへやら。
早くシンクロにシティの踊りを、元気な笑顔を見せてくれとでも言うようだった。
しおりんたちは楽器を手にしているペルソニアのメンバーに軽くおじぎをすると、それぞれの立ち位置についた。
「――では、ペルソニアの皆さんと共演させていただきます! 聞いてください、『コネクト!』」
~~♪
ファンたちが待ち焦がれていたその歌と踊りと音楽が、ライブ会場を揺らした――。
本作の発売まであと3日です!
前回、『このままフィナーレまで』と書いてしまったので「この作品終わるの!?」と心配されてしまいましたが、アイドル編が終わるだけで続きますのでご安心ください!笑
ですが、そもそも続けていくことができるのかどうかは本作を読んでくださっている皆様一人一人の応援がとても大きいので、皆様、何卒どうかよろしくお願いいたします……!