第62話 その仮面を剥ぎ取れ
「――誰かステージに出てきたぞ!?」
「おい! ふざけんな! 早く――」
俺たちの姿を見て観客の怒号がピタリと止む。
そんな様子など意にも介さずに俺たちはそれぞれの持ち場で楽器を手にした。
会場が静まり返る。
「お、おい……あれって"ペルソニア"か?」
「いやいや、こんなアイドルのライブに居る訳ないだろ……伝説のバンドだぞ?」
「な、なんだ……仮装してるだけか。そんなんで俺たちは誤魔化されないぞ! 早くシンクロにシティを出せ!」
俺たちの登場に一度はざわめきへと変わった怒号も再び顔を出し始めた。
それぞれが軽く音を出してチューニングを始める。
一番最初にハンドサインでオーケーを出したのは、
タンクトップに紙袋を被った筋骨隆々のピアニスト『ゼノン』
次に、
ジャック・オ・ランタンの被り物を被り、マントを羽織った少女のドラマー『シーナ』
そして、
背広を着て、馬の被り物を被ったギターの『ザイレム』
直後に、
パーティドレスを着て、狐のお面を被ったベース『セレナ』
――そしてワイシャツに黒のジャケット衣装を着た俺、ボーカルの『シオン』はそれを確認してシーナに合図を出した。
『始めてくれ』と。
「ワン、ツー。ワン、ツー、スリー」
シーナがスティックを叩き、リズムを作りだすとザイレムのエレキギターが力強く鳴り響く。
その後を追うようにゼノンの繊細なピアノの旋律が、セレナの重低音のベースの音色が調和し、音楽を作っていく。
さすがだ。
リハーサルも何もしていないけど、何百回と繰り返した練習と経験は裏切らない。
俺たちの"本気の音"を聞いて、観客たちも徐々にどよめきが大きくなってきた。
あり得ない、ペルソニアがこんな場所に居るなんてあり得ない。
そんな観客たちの常識という仮面を俺は歌声でぶち壊す。
誰にも真似できない。
シオンだけが出せる声と言われているハイトーンボイスで歌い出す。
唯一無二の力強く繊細な歌声。
これが、俺が俺である何よりの証明。
観客たちの期待が確信に変わった瞬間だった。
大歓声が上がり、人々は両腕を上げて俺の名を呼ぶ。
「「シ・オ・ン! シ・オ・ン!」」
怒りなど忘れて、誰もかもが素顔になった。
人は面白い。
誰もかもが仮面を被って生活している。
重たい仮面を着けて。
でも、俺たちの音楽を聞くとみんな思い出すんだ。
誰かのための表面的ではない。
本当の自分の喜びを。
沢山の温かい感想をいただきありがとうございます……!
書籍ではこの演奏シーンも圧巻のイラストになってます!
では、このままアイドル編のフィナーレまで!一緒に駆け抜けましょう!
よろしくお願いします!





