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第56話 彼女は不器用だ。俺ほどじゃないが【後編】

 

 袋が破れ、散乱したエロ本を前に全員言葉を失う。


「……こ、これってはすみんが持ってきたんだよね? な、なんでこんな物を……?」


 あかりんは動揺を隠せずに問いかけた。

 みほりんは耳まで真っ赤にして手で顔を覆い、指の隙間から落ちた本を見つめている。


「あ、あの……そ、それは……」


 蓮見は顔を真っ青にして震えだした。

 呼吸が荒く乱れて、今にも倒れてしまいそうだ。


(マズいな……)


 この空気は感じたことがある。

 蓮見にとっても俺にとってもトラウマとも言うべき、"冷え切った空気"だ。


 楽しい空間を自分が台無しにしてしまったという罪悪感。

 そして、自分が変な人間として見られて距離を置かれる。

 その視線は返しが付いた鋭い針となって心に突き刺さり、一生忘れることができずに人生を蝕むのだ。


 ――考える前に俺の口は動いていた。


「俺が……蓮見に持ってこさせたんだ」

「――えっ!?」


 俺の言葉にしおりんたちが驚きの目を向ける。

 まずはこれでいい。


 とにかく蓮見に奇怪な目が向けられないように守る。

 せっかく仲良くなれたのに、また自分の行動で避けられてしまうなんて蓮見が耐えられるはずがない。


 友達がいない蓮見が学校に来られているのだって本当にギリギリな精神状態なんだ。

 丁寧に説明しようにも、『学校にエロ本を持ってきた』という目が向けられるだけでご覧の有様だ。

 しおりんたちもやっぱりどこか蓮見と距離を置いてしまうだろう。


 だから誤魔化すために……必要だ、《明確な動機》が。

 蓮見の意思じゃない、"これは俺の指示した行動だ"という事にする。

 "蓮見は逆らえなかった"というハッキリとした証拠を突きつけて……。


 俺は渾身のゲス顔を作って笑ってみせた。


「あ~あ、周囲にバレないように命令するのが楽しかったのになぁ。これは丈夫な袋を用意しなかった蓮見のせいだぞ?」


 愉快そうに話す俺の様子にしおりんたちは戸惑いの表情を浮かべる。


「ど、どういうこと!? 説明して!」


 しおりんが頰に一筋の汗を伝わせながら質問した。

 その瞳にはすでに俺への敵意が感じられる。


 演技を続け、俺はあざ笑いながら答えた。


「蓮見は根暗でコミュ障で友達が俺しかいないからな、嫌われたくなくて何を言っても断らないんだ。しおりんたちもどうだ? こいつ、なんでも言うことを聞いてくれるぞ。アイドル活動で溜まったストレスのはけ口にでも――」


 ――パシンッ!


 しおりんが俺の頬をはたいた。

 頰に鋭い痛みが走り、眼鏡がズレる。


「最っ低! このクズ!」


 しおりんは瞳に涙を浮かべる。


「怖そうなお友達に、お酒だらけの冷蔵庫……。少し疑ってたけど本当に悪い奴だったんだね。はすみんに無理やりこんなことまでさせて」


 いつも笑顔を絶やさないあかりんがゴミを見るような目で俺を睨む。

 もう俺の事をファンとしては見ていないのだろう。

 だからこそできるような表情だった。


「蓮見さん、もう大丈夫だからね。大丈夫……呼吸を整えて、もう怖くないから」


 みほりんはそう言って、気が動転している蓮見を抱きしめる。

 俺に脅されて怖がっているとでも思っているみたいだ。


「あ……あ……」


 蓮見は口をパクパクと動かすが、言葉になっていなかった。

 頭が真っ白なままなんだろう。

 だが真実が語られない分、好都合でもあった。


「もうあのスタジオを使うのも怖いわ、何をされるか分かんない! シャワーとか使っちゃったのも気持ち悪い!」


 投げつけるようにしてしおりんは俺にスタジオのカードキーを突き返す。

 その瞳はあかりんと同じように犯罪者でも見るかのように冷たく、軽蔑の念が込められていた。


 きっと今までの練習などを通じて俺を信頼してくれていた分、今回の俺の裏切りとも呼べる行動が大きなショックだったのだと思う。


 しおりんたちは最後に俺を睨みつけると、蓮見の腕を摑んで連れて行ってしまった。

 ――ちょうどその時、悪びれた表情で琳加が校舎の裏に来た。


「すまん! 遅れた、もうみんな集まって――」

「琳加様、もうあんなクズに関わっちゃダメです! 行きましょう!」

「お、おい!? なんだ、どうしたんだ!?」


 遅れてきた琳加もしおりんたちに捕らえられて連れて行かれる。

 いや、こんなところ見られなくて助かったけど。


(これで……よかったんだ……)


 蓮見は俺のためを思って本を持ってきてくれた。

 不器用なりに、一途で真っ直ぐに頑張ったんだ。

 持ってきた本がなんであれ、そんな想いが新たなトラウマになんてなって欲しくない。

 動機の元は俺だし、こっそりと持ってきた本がしおりんたちの前に出てしまったのも俺のミスだ。

 蓮見が奇異の目に晒されず、完全なカバーをするにはこの手段しか無かった。


 俺は一人、エロ本をカバンに詰めて家に帰った。


いつか、誤解が解ける日を願って……。


ちなみに、青少年に対して有害図書を回覧させる行為は条例違反です。

学校がわに知られれば蓮見の処分や蓮見書店の営業停止の危機でもあったので凛月が泥を被った形です。

なにより、蓮見に恥をかかせたくないという気持ちで動いんだと思いますが…。


「凛月頑張れ!」と思ったら下の☆☆☆☆☆を★★★★★★★★★★(?)にしていただけると励まされます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんか急に流れ変わったw
[一言] これは妹ちゃんに癒して貰うしかないな!って事で妹ちゃんお願いしますw
[一言] いや エロ本は持って帰るんかーい
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