第55話 彼女は不器用だ。俺ほどじゃないが【前編】
ついに、明日がシンクロにシティ初の単独ライブ『シンクロ!』の本番だ。
学校が終わった放課後。
今日はしおりんたちと合流してスタジオで完成したダンスを見せてもらう約束だ。
光栄な事に最終調整に立ち会って欲しいのだという。
琳加はまだ来ておらず、しおりんは他のメンバーを呼びに行ってくれている。
だから、校舎の裏で蓮見と二人で待っていた。
凄く……落ち着きます。
まぁ、こいつの素顔を見るとドギマギさせられるんですけどね。
「琳加は取り巻きをまく必要があるだろうし、少し遅れるかもな~」
俺の言葉に、蓮見は頷いた。
「そうだね……じ、実はみんなが来る前に凛月に渡しておきたい物があるんだ」
そう言うと、蓮見はもじもじしながらカバンから紙袋を取り出した。
「い、以前……しおりんたちが私の渡した本を読んでくれたのを見て、私やっぱり人が本当に必要としてる本を渡して読んでもらうのが嬉しいんだって確信したの」
「蓮見……」
「だ、だから……凛月が欲しがっていると思う本を持ってきたんだ。受け取ってくれるかな……?」
素敵過ぎる蓮見の行動に俺は心の中で感動し、つい紙袋ごと蓮見の手を握る。
すると、蓮見は安心したように口元を緩めた。
「ありがとう! 蓮見が俺に合うと思ってくれた本なんて楽しみだ! 俺もボロボロになるくらい読み込んでやるからな!」
「そ、そう……? そうだと嬉しいな……凛月が以前欲しがって探してたから」
何やらどんどんと顔を真っ赤にする蓮見から本が入った紙袋を受け取った。
俺が以前欲しがってた本……?
心当たりがありすぎて分からん……。
そして紙袋は結構大きい。
「1冊じゃなくて何冊も入っているのか?」
「う、うん……その……好みに合うかも分からないから」
「なるほど……どういうジャンルなのかは気になるな」
「り、凛月はいつも優しいから! 逆に少し非日常的な刺激を求めてるかと思って! そういう感じのを選んだんだ! ごめんね、私その分野には詳しくないから凛月が気に入ってくれるかは分からないんだけど」
刺激が強い……ホラー小説とかかな?
血とかがいっぱい出るやつは苦手なんだが……。
――だがしかし!
「蓮見が、俺の事を思って一生懸命悩んで選んでくれた本なんだろ? 俺も一生懸命楽しむさ!」
そう言うと、蓮見は何やら恥ずかしそうにカバンで顔を隠す。
「うん、一生懸命選んだ……あっ、でも他の誰かが来る前に早くしまって! 家に帰ってから1人で――」
「お待たせー!」
俺と蓮見が本の受け渡しをしている最中にしおりんたちがやってきた。
そして、何にでも興味津々なあかりんが俺の持つ紙袋を指差す。
「あっ! な~に、その紙袋!」
そんなあかりんに俺は自慢げに紙袋を掲げた。
「蓮見が俺の欲しがっている本を持って来てくれたんだ」
「えぇ~、いいなぁ! どんな本なんだろ~?」
「り、凛月! 早くカバンにしまって! それは家に帰ってから1人でゆっくりと読んで!」
何やらもの凄く慌てだす蓮見。
蓮見は本当に俺以外には凄い恥ずかしがり屋なんだよな。
そんな事を改めて認識しつつ、俺は紙袋をカバンにしまおうとする。
――ビリッ!
そんな、嫌な音が聞こえた瞬間。
紙袋が破けて中の本がしおりんたちの目の前に散乱してしまった。
「あっ、破れちゃったね! 拾ってあげ――ヒッ!?」
拾ってくれようとしたしおりんは本を摑むと、顔を青ざめさせて飛び退いた。
俺は散乱した本をよく見る。
『地味っ子、目隠れ美女子特集。自己肯定感の弱い女は押せばヤれる!』
『あの子の弱みを握れ! クラスの地味な子を脅してヤりたい放題!』
『地味なあの子を無理やり襲ったら実は両思いで……? 特殊シチュ、イチャラブ特集!』
「…………」
朝宮さんたちの前に落ちたのはエロ本だった。
しかも、なかなかにバイオレンスな内容が多い。
思わず、全員で固まる。
コレが、蓮見が思う俺の求めている本……?
た、確かに前に1度、蓮見に書店でエロ本を探したって言った気が……。
蓮見は表情を青ざめさせた。
大変お待たせいたしました!
頑張って、今日からできる限り毎日投稿します!





