第54話 ペルソニアの練習
カルデアミュージックのイベントが成功に終わって、俺はニヤケ面のままペルソニアのバンド練習の為にスタジオ入りした。
先に来てドラムの練習をしていた椎名がそんな俺を見てため息を吐く。
「シオン、ずっとニヤケててキモい……私に関する事以外でそんな顔見せないで……」
「いやいや、お前に関する事の出来事が少なすぎるわ。お前の事で悲しむ事はいつでもできるが……まず友だちを作れよ、そうしたら喜んでやる」
最近、琳加という友だち未満の存在を得て、しおりんたちとも絡み始めることができたので俺は積極的にマウントを取りにいった。
この毒舌ロリっ子少女め、いつも泣かされてばかりだと思うなよ!
まぁ、椎名はお昼ごはんを蓮見と一緒に食べることができている時点で俺の完封負けなんですけどね。
くそ、羨ましい……。
「私は別に……シオンがいればいい……」
「おいこら、友だち作りから逃げるな。俺だって頑張ってるんだぞ」
そんなやり取りをしていると、他のメンバーもスタジオにぞくぞくと集まってきた。
「よう! シオン、オススメされたアイドルたちの曲聞いてきたぜ!」
「あら、シーナそれ以上シオン君に近づかないでね。小学生に絡まれてシオン君が可哀想だわ」
「こんな年増女と一緒に演奏させられてるほうが可哀想」
「――わ、私まだ大学生なんだけど? 確かに大人の色気が出ちゃってるかもしれないけど」
「まぁまぁ、喧嘩しないでくださいよ。大体それでいつも練習が遅れるんじゃないですか」
みんな、挨拶をして各々楽器のチューニングを始める。
他のメンバーたちにも『シンクロにシティ』を布教しまくったので、みんな1週間後の単独ライブを楽しみにしてくれているようだ。
「――よし! じゃあ今日も気合入れて練習するか! シンクロにシティに負けないように!」
俺は上機嫌でマイクを握った。
これでしおりんたちの問題は解決。
実力も自信もついたことで、今後は胸を張って人気アイドルに向けて頑張っていくことができるだろう。
「よし、じゃあまずは俺たちの代表曲『persona』からいくぞ!」
俺がそう言うと、メンバーは何やらニヤニヤし始めた。
そして、椎名こと“シーナ”がドラムのスティックを叩いて曲の始まりのタイミングを作り出す。
「ワン、ツー、ワン、ツー、スリー」
ギターの前奏が始まる。
そして続けてピアノ、ベースが続く――ってちょっと待て!
これはシンクロにシティの代表曲『コネクト!』じゃねぇか!
ニヤついていた理由が分かった俺は怪訝な顔つきで周囲を見回すが、演奏の手を止めようとする気配はなかった……
みんな、期待するような表情で演奏を続けながら俺を見る。
くそっ、俺が女性声を出せる事を完全に楽しんでやがるな……
こういうのは恥ずかしがったらこいつらの思うつぼだ。
俺はしおりんの声を真似して、全力で踊った。
◇ ◇ ◇
「あー、はっはっ! 最高! シオン、お前って奴は本当に最高だぜ!」
「ダメ……笑いすぎてお腹痛い……!」
「おい、こんな事の為に『コネクト!』の曲が演奏できるように練習してきたのか?」
俺がため息交じりに言うと、メンバーは力強く頷いた。
「いや~、最高よ! シオン君って私たちの期待に全力で応えてくれるわよね」
「女性声のシオン……可愛かった……」
「いいものを見ましたね~。録画しておけばよかったです」
これを見たいが為だけに曲を覚えてきてしまったメンバーの謎すぎる意欲に俺は再度呆れて大きなため息を吐いた。
みんながひとしきり笑って盛り上がったところでメンバーの1人、ゼノンが言う。
「そういえば、思ったんですけどシンクロにシティのライブの日って私たちもその後リハーサルがありますよね」
「確かになぁ。リハーサルも本番のつもりでやるのが俺たちだから、遅れる訳にはいかねぇ」
「大丈夫よ、リハーサルには間に合うわ」
「そうですね、一応確認してみただけです」
「シオン君が好きなアイドルだもの。今のうちに釘を刺して――じゃなくて参考にさせてもらうわ」
楽しみにしてくれているみんなの様子に、俺もファンの一人として嬉しくなった。





