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第6話 琳加はデートに誘いたい

 

「ご、ごご、ごめん! 本当にごめんなっ!」


 人気のない階段下。

 琳加(りんか)が俺に必死に頭を下げている。

 眼鏡を奪われトイレから出た後。

 俺はすぐ彼女に下駄箱で捕まったのだ。そのまま階段下に直行というわけである。


 琳加は「用事がある」と言ってすぐにあのグループを抜けて俺にメガネを返しにきたらしい。

 明日にでも返して貰えればよかったんだが。


「明日でも良かったのに」


 脅されているわけではないので、俺は普通に話せた。

 もうほぼ確定で彼女も悪い人ではない。

 胸の大きさは凶悪だが。


「お前をこの眼鏡無しで歩かせるのは……その、危険だから。あ、あんなに、、か、カッコいいと……」


 後半はなんだか声が小さくて聞こえないが……。

 俺の視力が本気で悪いと思っているのだろう。

 確かに、視界が悪いまま帰路につくのは危険だ。

 俺の視力はむしろ良い方だが。


「ごめん、まさかあそこまでやらされる事になるとは思わなかったんだ」

日陰(ひかげ)さん……やっぱり」

「同級生だろ、呼び捨てでいいよ。多分、お察しの通りだ」

日陰(ひかげ)……本当はやりたくなかったんだな」

「私の名前は琳加(りんか)だ。そうだ、本当は吉春君にも興味はない。勝手に『琳加さんならお似合いです!』って言われて周囲に応援され始めたんだ」


 そういう事か、琳加は本当は気が小さいのだろう。


「琳加、お前も友達作りに苦労してたんだな」

「リンって呼んでくれ。期待に応えているうちに、友達をなくすのが怖くなって引き返せなくなって……」

「リン……。やっぱり琳加の方が呼びやすい」

「う~ん、いや、琳加でも大満足だ! 私はリツキって呼んで良い?」

「別に鬼太郎でもガリ勉でも良いよ。妖怪はやめて」


 なんか琳加はすごくお互いの呼び方にこだわっている。

 俺の下の名前を変に甘ったるい声で呼びたいらしい。

 よく分からないが、彼女が満足そうに頷いているので良しとした。


「その、今回迷惑をかけたから、お詫びがしたくて」

「気にしなくていい。いじめられるのは初めてじゃないからな」

「そっか……初めては私じゃないのか」

「なんでちょっと残念そうなんですかねぇ」

「とにかく! お詫びをしたいの! そこで、これ!」


 琳加は映画のチケットを二枚取り出した。

 何でそんな物を持ってるんだ……?


「それって……」

「そう、話題の映画『スクランブル・エッジ』の試写会チケット! 一緒に観に行こ!」

「場所は、渋谷の映画館……」

「リツキも知ってるでしょ!? 主題歌はペルソニアが歌ってるの! そのせいで普通は全然取れないんだから!」

「アー、ソウナンダ」

「運良く当たっちゃったんだよね!」


 あまりにも知りすぎている映画。

 そして、渋谷の試写会にはサプライズがある。

 シオンこと俺が上映前に現れる事になっているのだ。

 だから残念ながら一緒に行くのは無理だ。


「せっかく手に入れたなら俺なんかじゃなくてあの取り巻き達を誘った方が良いんじゃ?」

「そんなの、『琳加さん、吉春君を誘いましょう! 自分たちはそれを見守ります!』とか言われちゃうよ」

「……つまり、誘う人が居なかったと」

「ちょ、ちょっと! 私が友達少ないみたいに言うなよ!」

「チケットはいつか誰かを誘えるように持ち歩いてたんだな……」

「まぁ、今回は()()()()相手が見つからなくてな」


 胸を張って、強がるように琳加は言ってみせた。

 こいつ……実はボッチか?


 何となく分かってきた。

 琳加は『番長としての自分の仮面』しか持っていない。

 仮面の下の、気が弱くて根が真面目なこいつを知ってる奴がいないんだ。

 だから、映画を誘う相手すらいない。


 ――とはいえ、俺もさすがに無理だ断るしかない。



「あ~、琳加。残念ながら、その日はな――」



 俺が言いかけた瞬間、琳加は絶望的な表情をした。

 ――悪いクセだった。

 できるだけ、人を笑顔にしたいと思ってしまう歌手であるシオンの。

 彼女を仮面(ペルソナ)ではない、本当の笑顔にさせたい。

 そう思ってしまった。


「渋谷の映画館の隣のカフェでダラダラする予定が入ってるんだ」

「な、何だよそれっ! そこまで来てるなら一緒に観ても良いじゃん! ってか暇じゃん!」


 琳加は俺の冗談に気が付き、心の底から安堵したような表情をみせた。

 本当に嬉しそうだ、まぁ場所は一緒だしどうにかなるか。

 


 こうしてまた俺は面倒事を抱え込んだ。


 当日は上手くやれるのだろうか。



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