第48話 最強の振り付け
俺はエルドラを居間へと通して、しおりんたちの練習動画が入っているUSBメモリをテレビモニターに差し込んだ。
しおりんたちのダンスの動画を見てもらいながら、俺は訊ねる。
「……どうだ?」
エルドラは顎に手を当てて、興味深そうに見ていた。
「うん、凄く丁寧だな! 一つ一つの動作を確認しながら踊ってる。この子たち、まだあまり踊りを始めてから長くないみたいだし、このやり方で一つずつこなしていけば絶対に上手くなるぜ!」
「今まではあまり揃わなかったんだ。教本を読んで、それに付いているDVDを参考にして勉強したらしい」
俺はしおりんたちのダンス経歴を大雑把に紹介する。
「なるほど! 最初に実践から入って、改めて基礎を確認した感じだな! ふむふむ、見たところ参考にした教本も優秀だな」
「そんなことまで分かるのか……?」
「あぁ、彼女たちは本を読み込んでかなり素直に従って踊っているからな。世の中にはエセ教本や質の悪い本も溢れかえっているんだが、これは当たりだ」
流石は蓮見だ。
きっと口コミや評判を一生懸命リサーチして、間違いがない本をしおりん達に渡したんだろう。
あいつの見えない努力が評価されていると思うと、関係のない俺まで嬉しくなる。
エルドラのこんな言葉を聞いたらあいつはまた泣いちゃいそうだな……泣かすけど。
「よし、兄弟! この子たち一人一人の名前を教えてくれ」
「左からあかりん、しおりん、みほりんだ。ちなみに本番の単独ライブは1ヶ月半後くらいなんだが、できるだけよくしてあげたい。振り付けも新しくしたいらしい」
自分で言いながら少し無茶かと思ったがエルドラは自分の分厚い胸板を叩いて笑った。
「分かった! 俺が彼女たちのレベルに合わせて最新の流行りも取り入れたクールでキュートなとっておきの振り付けを教えてやるぜ! そんなに難しくはないから、すぐに覚えられるだろう! 兄弟、庭を借りるぞ、俺が動画で教えてやる」
そう言って、エルドラは一通り曲に合わせた振り付けの教材一式を俺と協力して作成していった。
俺ん家の庭で撮影した動画では、エルドラだと分からないように顔はキャップとスカーフで隠している。
鍛え上げられた肉体も相まって完全に外国人ギャングだ。
だけどまぁ、正体がバレるほうがやばいからね。
エルドラの素顔は歌舞伎役者みたいな厳ついイケメンだ、日本だとギャルの人気が凄い。
学校ではシオンの人気が圧倒的だけど、喧嘩をするようなオラついた人たちの間ではひそかに強い漢たちの憧れのような存在になっている。
ちなみに、エルドラはカポエラもやっているので喧嘩をしても実際めちゃくちゃ強い。
多分、ダンスじゃなくて格闘技でも問題なく成功できてると思う。
◇◇◇
「……完成したな。俺は動画撮ってただけだけど」
「あぁ、お疲れさん!」
レクチャーの動画を撮り終わった直後――。
変装したエルドラが俺と遊びに行こうと玄関を出たところでスーツ姿の男が待ち構えていた。
そして、俺を連れて逃げようとするエルドラを捕まえる。
どうやらマネージャーらしい……やっぱり勝手に来たのかよ。
最後に俺と別れのハグだけすると、首根っこを摑まれてエルドラは連れて行かれた。
(まぁ、明後日がライブならそりゃそうだよな……。しかも、日本のライブとは規模が違う)
完全にエルドラを捕まえられるという理由で雇われているのだろう。
マネージャーはエルドラよりもさらに屈強そうな外国人だった。
というか、格闘技の大会で昔見たことある気がする。
エルドラ相手にはやっぱりそのレベルじゃないとダメなのか……。





