第47話 今、ここにいちゃいけない人
今まさに背後のテレビから朝のエンタメニュースのトピックで紹介されている世界的人気パフォーマーを前にして俺は驚愕する。
「エ、エルドラっ!? どうして日本にいるんだよ!?」
「そりゃ、ついに兄弟がダンスに興味を持ってくれたんだ。あのメールを見た瞬間にすぐジェット機をチャーターしてアメリカを飛び立ったのさ」
とんでもないことをサラリと言い出すエルドラに俺は開いた口が塞がらなくなる。
「お前、アメリカツアーの途中だろ!?」
「あぁ、だからダンスを教えたら急いで帰るとするよ」
「動画とかで教えてくれればよかったじゃんか! 俺は来てもらうつもりなんて――」
「バカ野郎、寂しいこと言うなよ兄弟。少しの間でもこうやって会いたかったんじゃねぇか」
『G.G.ドラゴン』、日本の国内外で活躍するパフォーマンス集団だ。
歌も踊りもお手の物、現在はアメリカツアーの真っ最中。
そんなグループのリーダー、エルドラが俺の目の前で笑っていた。
俺は昔、彼とライブで共演したことがキッカケでたまに連絡を取り合っている。
彼は日本人とアメリカ人の子どもな事もあって、自分でグループを作る前から両国で活動しているパフォーマンスグループに属していた。
今ではお互いに人気アーティストだ。
「はぁ……ちゃんと説明しなかった俺も悪いが……踊りを教えて欲しいのは俺じゃなくて、とある駆け出しの女性アイドルグループなんだ」
俺がため息を吐いてそう説明すると、エルドラは笑う。
「おぉ、なんだ! 兄弟はアイドルプロデュースにまで手を出したのか?」
「まぁなりゆきでな。てっ、手は出してないぞ!?」
「あっはっはっ! 兄弟ならむしろアイドルのほうが手を出して欲しいくらいだろ!」
そんな事を言ってエルドラが大笑いした。
えっ、何それ怖い……アメリカンジョーク?
「任せろ! 昔、俺が悩んでる時に助けてくれたのはお前だ。その経験が今の俺の原動力になってるんだ。そんな兄弟の頼みなら俺は喜んで協力するぜ」
エルドラの言葉に俺は首をかしげる。
「あぁ、昔ご飯を奢ったんだっけか。あんまり覚えてないけど……」
「おいおい酷いぜ、俺はその時にかけてくれた言葉がキッカケで独立したっていうのによ~。こうして、今の俺があるのは兄弟のおかげだぜ?」
「い、いちいち大げさだなぁ」
「……大げさなもんか。あのままだったら、俺はダンスが嫌いになって潰れてた。お前に救われたんだよ……本当に……」
急に真剣な声でそう言うと、エルドラはまた大笑いして俺の肩を叩いた。
えぇ……、情緒が怖いんですけど。





