第46話 世界最高峰のダンサーが来ました
「お兄ちゃん……行ってくる……」
「おう、気をつけてな~」
翌朝、今日は土曜日。
休日だ。
あかねは友だちと遊びに行くらしい。
俺は悲しそうな表情のあかねを玄関で見送っている。
あかねは「断りきれなかった」とか言っているが、そもそも友だちに誘われるだけかなり贅沢な立場にいるという事を理解して欲しい。
今日遊ぶ中に男友だちはいないか5回くらい聞いちゃってごめんね。
「お兄ちゃんは今日、バンドの練習もお休みなんでしょ?」
「あぁ、家でダラダラ過ごすつもりだ。自宅警備は任せろ」
「うぅ……私も家にいたかった」
あかねはそんな事を言って本気で悲しんでいる。
昔っからこいつ家が大好きなんだよな。
だいたい、居間で曲作りしてる俺の隣で漫画読んでるだけなんだが……滅茶苦茶幸せそうな表情で。
学校からも絶対にまっすぐに帰ってきて、俺よりも先に家にいるくらいだ。
だからほぼ毎日、俺を出迎えにくることになる。
リア充の素質は全て持ち合わせているのに、俺の引きこもり体質が遺伝してしまっているようでなんだか申し訳ない。
(よし。あかねも行ったし、しおりんたちの練習でも考えるかぁ。……それにしても、ダンスのトレーナーはどうするか……)
そんな事を考えた瞬間、家のインターホンが鳴った。
こんな朝早くに誰だ?
そして、その訪問者は俺が鍵をかけ忘れた玄関の扉を勝手に開く。
「自宅警備は任せろ!」とかキリッとした表情であかねに言っておきながらこのざまである。
そこにはサングラスをかけた筋肉質な黒髪の青年が立っていた。
彼はサングラスを指で上げると爽やかに微笑んで綺麗な白い歯を見せる。
「よう兄弟! ダンスを教えに来たぜ!」
そして背後からテレビのエンタメニュースの音が聞こえた。
"――日本が誇る世界的人気パフォーマー、"L.ドラゴン"、通称エルドラが率いるグループ『G.G.ドラゴン』のアメリカツアーは明後日が最終日です"