第45話 "あいつ"に頼もう
俺の口出しを聞いて、しおりんは期待に満ちた瞳で俺を見つめる。
「よ、よかったら、今後も私たちに凛月からアドバイスもらえないかな!? 練習の映像を渡すから!」
「れ、練習の映像を!? もらっていいの!?」
思わぬプレミアムグッズの獲得に俺は胸を震わせる。
自分がオタクすぎて引く。
「うん! 凛月は凄く信頼してるから大丈夫だよ!」
「あ、悪用はしないでね! 私も凛月君を信じてるから!」
あかりんとみほりんも許可をくれた。
なにげに呼び方も全員一段階ずつ好感度が上がっている。
どうやら、さっきの俺のイキリボーカル指導が彼女たちには本当に好意的に映っていたみたいだ。
「わ、分かった! 俺もできるだけ朝宮さんたちに協力するよ!」
動画にまんまと釣られた俺はしおりんたちに約束をする。
いや、これはアドバイスの為で決して俺が見て楽しむためじゃないからね!
その後の練習も見学し、ところどころ歌についてアドバイスをする。
蓮見は俺の意外な能力に驚きつつもなんだかボーッとしたような表情で顔を赤くしながら俺を見ていた。
歌う時の口と喉をどう使っているかをよく見ようとしてしおりんに近づくと、蓮見は急に慌てたように休憩を提案した。
――危なかった、レッスンに夢中になってたけど女の子の口元をじっくり見るってなかなかアウトだよな。
蓮見は俺が気持ち悪がられる前に制止してくれたんだろう。
「れ、練習の邪魔をしてごめんね……。ほ、ほら! 無理はダメだからっ!」
「蓮見、ありがとな……」
気を遣える蓮見は言葉を濁してくれる。
その後、なにやら反省するようなため息を吐いていたが……。
――そして帰る頃には約束通り、練習動画をお土産として手に入れたのだった。
◇ ◇ ◇
その夜。
俺は部屋で一人考えていた。
歌は俺が教えればとりあえずは大丈夫だろう。
それにしても、ダンスのトレーナーか。
う~ん、俺と交流のあるダンスが上手い奴って言ったら"あいつ"くらいしかいないが……。
頼んでみるか。
俺はシオンの携帯を取り出す。
そして、メールを打ち始めた。
"ダンスを教えて欲しいんだが、頼めるか?"
送信……返事はこない。
アイツも有名人だし忙しいんだろう。
直接教えに来るのは絶対に無理だが、せめて、しおりんたちの動画だけでも見てもらって、アドバイスが欲しかったんだが……
まぁ、朝起きたら返事が返ってきてるかもしれないしな。
そんな期待を胸に俺は布団に入った。