第43話 涙の理由(わけ)
「れ、れ、練習の調子はどうですか……?」
蓮見は俺の背中に隠れてしおりんたちの様子を伺った。
まだしおりん達には緊張してしまうみたいだ。
同級生なのに敬語になっちゃってるよ。
「すっごくいいよ! 基礎的な事は全部マスターしちゃったみたい!」
メンバーで一番元気なあかりんがピースをしながら弾けるような笑顔で言うと、しっかり者のみほりんがため息を吐いた。
「あかりはすぐ調子に乗るんだから……」
「で、でも! はすみんがくれた本のおかげで本当に私たち踊りにミスが無くなってきたんだよ! 練習のメニューも組めるようになったし!」
それを聞いて、蓮見は嬉しそうに笑う。
「よかった……少しだけでも役に立って――」
蓮見がそう呟く途中で、言葉を止めた。
綺麗な長い前髪の隙間から覗く宝石のような瞳は驚いたように見開いている。
――その視線の先にはダンススタジオの机の上に無造作に置かれた蓮見の本。
どれもこれもがボロボロにされていた。
蓮見の目から大粒の涙が流れる。
「は、蓮見っ!?」
一瞬焦ったが、俺も机の上に置かれた本をよく見た。
――そして、ホッと胸を撫で下ろす。
「朝宮さん。あの本は?」
俺はボロボロにされた本を指差して、蓮見の様子に狼狽えているしおりんたちにあえて質問した。
しおりんとみほりんは申し訳ないような表情で答える。
「う、うん。私たち……蓮見さんからもらった本を練習が終わった後にみんなの家にそれぞれ持ち帰って読む事にしたの」
「大事そうな場所はマーカーを引いて、付箋を貼って、交換したらお互いにどこが大切だと思うか、どこがまだできていないかを共有できるから」
あかりんが瞳に涙を浮かべる。
「ご、ごめん!もっと大切に使うべきだったよね! 一生懸命読んでたらいつの間にかこんなことになっちゃって。私の扱い方が悪かったんだと思う――」
「あかりのせいじゃないよ! 私もいっぱい線を引いたし、どこにでも持ち歩いてたから……」
「ううん、これはリーダーである私の責任。はすみん……せっかくの本をボロボロにしちゃって本当にごめんなさい」
しおりんたちは蓮見に深々と頭を下げる。
そんなしおりんたちに、俺は首を横に振った。
「――違うよ、蓮見は嬉しいんだ。1週間前に自分が渡した教本をそんなになるまで読み込んでくれて……そうだろ?」
俺がそう言ってハンカチを渡すと、蓮見はそれを受け取って涙を拭きながら頷いた。
「うん。ご、ごめんね。私、変だから……こんな事くらいで感動しちゃって」
「蓮見、お前が変なのは認めるがその涙は別に変じゃない。一生懸命選んだ本だったんだろ? それになんか、俺も感動したし……」
「それじゃ、変かどうか分からないじゃん……だって凛月も変なんだから……」
蓮見はそう言ってハンカチで目元を拭いながら笑った。
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