第42話 偶然なんです信じてください
しおりんとあかりん、みほりんは嬉しそうに差し入れのアイスキャンディーの袋を開けた。
「はふぅ~、火照った身体に染み渡る~!」
「おいしい~!」
「冷たくて生き返るね~!」
みんな、細長いアイスキャンディーを咥えて舌で舐め始める。
――あっ、これは絵面がマズいかも……。
一瞬そんな馬鹿なことを考えたら蓮見が顔を赤くして俺に囁いた。
「さ、流石は凛月……。これを見るためにアイスキャンディーを選んだんだね。えっと、私も一生懸命アイスを舐めるから、よかったら見ててね……?」
「ちっ! 違うぞ蓮見! これはマジで偶然だ! 別に下心は無いから!」
俺が慌てて否定をすると、その声はしおりん達にも聞こえてしまった。
せっかく蓮見がこそこそと小声で囁いてくれてたのに馬鹿過ぎる。
しおりん達3人はお互いがアイスを舐める様子を見て、顔を赤くする。
(あっ、これもう出禁だわ。というかもう一生口聞いてもらえなさそう……)
しおりんは顔を赤くしたまま「ゴホンッ!」と咳払いをした。
そして、引きつった笑みを浮かべる。
「り、凛月君……大丈夫、別にそんな邪な考えはないって信じてるから!」
しおりんがそう言うと、あかりんも同意して斜め上へと視線を逸しながら口を開く。
「そ、そうだよ凛月君! わ、私は一体何のことを言ってるのか分からないなぁ~!」
よかった、許された……。
――あれ?
最近みんな呼び捨てにしてくれてたのに、なんか『君』付けになってる。
「す、須藤君……アイスありがとう。……でも身体が冷えちゃったみたい。冷凍庫に入れておいて、後で食べるね」
みほりんに至っては苗字呼びに戻った上にアイスを袋に戻してしまった。
あっ、これ全然許されてないわ。
めちゃくちゃ疑われて、距離置かれてるわ。
しおりんたちは美少女アイドルだからそういう目で見てくるファンも少なからずいるんだろう。
もちろん、真剣にアイドル活動をしている彼女たちにとって最も抵抗感のある相手のはずだ。
俺もそういう人間の一人として見られてしまったのかもしれない……。
見た目的にもそんな感じだし……。
――いや、しおりん達は見た目で人を決め付けたりはしない!
今はまだ"疑惑"で済んでいると信じたい。
ここからちゃんとしおりん達の信頼を勝ち取っていけば問題ないはずだ!
「凛月も男の子だもんね……」
「蓮見、頼む。せめてお前だけは俺の事を信じてくれ……」
蓮見ですら俺が下心から意図的にアイスキャンディーを差し入れしたと考えてしまっていた。
というか、蓮見に関してはエロ本を本屋で探してしまった事を知られているんだから自業自得か……。
蓮見にとっても数少ない友達だし、本をいっぱい買うお客さんだから仕方なく俺とは仲良くしてくれている。
だけど、本当はこんな変態となんか関わりたくないんだろうなぁ……。
――出禁はさせられずに済んだものの、変態としての疑念を彼女たちに与えてしまったのだった……。
※出禁うんぬんは凛月が勝手に思っているだけで、しおりん達はそんな気はありません。





