第38話 見えないところで戦いは始まる
「みんな! 本当にありがとう!」
「いっぱい練習して、2ヶ月後の単独ライブは絶対に成功させるから!」
「私たちの帰り道はこっちだから、また学校でね~!」
そう言って3人は俺たちと握手をして、手を振りながら別れを告げた。
やべぇよ……あかりんとみほりんとまで握手しちゃったよ……。
帰り道は車に轢かれても文句は言えないな。
車といえばそうだ、蓮見も俺と同じで気配が薄いんだから車道から離さないと。
そう思っていたら俺よりも早く、琳加が蓮見に話しかけた。
「ほら、蓮見。私が車道側を歩くから蓮見は歩道側を歩いてくれ」
「り、琳加さん……ありがとうございます」
相変わらずのイケメンっぷりだ。
でもこの辺は道が細いから、俺もすぐ後ろからついて行って琳加を背後から見守る。
ス、ストーカーじゃないよ!?
◇◇◇
「――そういえば須田君はどうやって琳加さんとお友だちになったの?」
3人での帰り道の途中、談笑している最中に蓮見はそんなことを聞いてきた。
琳加は大きくため息を吐いて首を振る。
「蓮見、私とリツキは友だちなんてもんじゃないぞ。私がリツキに抱いている気持ちは"深い"――」
「琳加っ!」
俺は琳加の腕を引き寄せた。
直後、車が猛スピードで通過する。
「――ったく、こんな細い道であんなにスピード出すなよ」
「は、はわわわわ!?」
「わ、悪い! つい強く引っ張っちまった」
俺は琳加を抱き寄せる形になってしまい、錯乱状態になっている琳加を慌てて解放した。
それにしても――やっぱり友だちじゃなかったんですね。
後半はなんか“不快”とか言われたし、本当にごめんなさい。
「リ、リツキ……ありがとう。命の恩人だ……」
「いや、俺が引っ張んなくても多分大丈夫だったな。すまん、腕は痛くなかったか?」
「だ、大丈夫だ……心臓のバクバクが収まらんが……」
「驚かせちまったか。ごめんな、乱暴に引っ張ったりして」
「な、なんならもっと乱暴なことをしてくれてもいいんだぞ!」
「だから、わざとじゃないってば!」
そんな会話をして顔を赤くする琳加の様子を蓮見はじっくりと見つめていた。
「そ、そっか……私以外にも須田君の人間性に気がついちゃった人がいるんだね」
そんなことをボソリと言って蓮見は残念そうにため息を吐く。
ごめんなさい……ため息が出ちゃうくらい残念な人間性で。
「こ、これはもう手段を選んでる場合じゃないや……私が使える手段を何でも利用して、ズルいことをしてでも須田君を落とさないと……琳加さんには敵わない……!」
蓮見は何かを早口でぶつぶつと呟きながら強く拳を握る。
「リツキの腕に抱かれて……うへへへ」
琳加も両手を自分の頬に添えて、だらしない表情で一人何か呟いている。
完全に2人は別々の世界だ。
「あの、2人とも気をつけて歩いてね……?」
俺の声は届いていないようだった。
俺と話すくらいなら独り言呟いている方がマシってことですかね……。
何かよく分からないが、俺は2人に心を軽く傷つけられたまま家に帰った。





