第34話 俺もサインが欲しかった
俺たちは階段を降りて地下室へ。
ペルソニアのメンバーが練習で使うバンド用のスタジオにはドラム、ピアノ、ギターやベースなどが綺麗にしまわれている。
その隣に一応設けられていたダンススタジオの扉を開いた。
メンバーの一人、セレナがなんかノリで注文して作った部屋だ。
床は滑らかな木材、足に負荷がかかりにくいクッション性の高い素材を使用しているらしい。
まぁ、俺たちはダンスなんてしないからこの部屋はほとんど使った事ないんだけどね。
しおりんたちはそんなダンススタジオを見て目を輝かせていた。
「すっごーい! 鏡も床もピカピカ、しかも凄く広い!」
「スピーカーも大きいね! 音質も凄くよさそう!」
「ここにも大きなモニターがある! 映像を見ながらいっぱい練習できるね!」
そう言ってキラキラした瞳で元気いっぱいなあかりんが部屋中を駆け回る。
やべぇな、今俺の目の前で推しが駆け回ってるんだが。
そんな様子を見ながら、俺もひとまず蓮見から預かっているカバンを小机の上に置いた。
「リツキ、よく頑張ったな。肩は疲れてないか? 女の子のカバンを持ってあげるなんて、凄く男らしくてキュンとしたぞ」
「いや琳加……こんなの普通のことだからな?」
ただカバンを持っただけで琳加のこの過保護っぷりである。
スーパーでお母さんの買い物袋を持ってあげて褒められている小学生の気分だ。
今まで対等な友達がいなかったせいもあるだろうが、琳加は自分が気を使うと気にもさせないくせに人の気遣いには敏感だ。
そして、そもそも女装の件のせいで俺のことをか弱い生物として見ている。
これ以上舐められてしまわないように俺も男らしいところを見せて挽回しなくては……!
「――ところで、蓮見が背負って来てたこのカバンには何が入ってるんだ?」
「うん、私も何かできないかと思って……こんなに凄いスタジオを見た後だと出すのも恥ずかしいんだけど……」
そう言って、蓮見はカバンからダンスや歌の教本を取り出していった。
それを見て、しおりんたちは瞳を輝かせる。
「こ、これ私たちの為に選んでくれたの!?」
「映像ディスクもついてる! これならあのモニターを見ながら勉強できるね!」
「ありがとう! あっ、お金はちゃんと払うからね!」
3人に詰め寄られて恥ずかしそうに顔をカバンで隠しながら蓮見は小さな声で反応する。
「お、お金より握手がいいな……そ、そっちのほうが嬉しいから」
蓮見はオタクとして100点満点の回答をした。
「「蓮見さん、可愛い……!」」
しおりんたち3人はそんな健気でいじらしい蓮見を見て声を合わせる。
琳加も恥ずかしそうにする蓮見を見て口元がだらしなく緩んでいた。
全力で返礼することを決めたのだろう、しおりんたちは蓮見にハグをしてサインをあげて、お金もちゃんと支払っていた。
「えへへ……またサインもらっちゃった。最近幸せなことばっかり……」
蓮見はサインを抱えて嬉しそうにしている。
いや、マジで可愛いなこいつ。
あと、しおりん達のサイン俺も欲しいな……。
シオンのサインと交換じゃダメかな……。





