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足して2つの高校生活  作者: 赤槻春来
6月.初!部活対抗リレー!
7/51

体育祭!


 定期試験を終え制服も夏用のものに変わる頃、俺達陸上部(カッコカリ)の4人はいつものように部室に集まっていた。

「お前ら…俺が言いたいこと分かるか?」

 俺達よりも先に部室にいた渡部は、どこから用意したのかわからないランプを乗せた長机の上で手を組むと深刻そうな表情でこちらを向いてきた。

 …このポーズって最近やってた刑事ドラマのやつじゃ…

「いきなりですね先生…まぁなんとなく理由はわかるんですが」

 追試は吉田だけだし思い当たるのは一つしかない。

 俺の後ろで外から部室内の様子を伺っていた若林と井上は不思議そうな表情で頭にクエスチョンマークを浮かべていたが。

「そうだにのまえッ!体育祭だッ!俺試験前に言ったな?部活対抗リレーやるって…それにここは仮にも陸上部、なんで練習しないんだ⁉︎」

 ゼェゼェと息を切らしながら言う渡部。絶対叫ぶ必要なかっただろ…

 若林と井上はようやく意図を理解したのか、渡部が膝をかけていたランプを片付け始めた。

「我がそんなものに時間を割いていた訳ないだろう!」

「あーはいはい…吉田はテスト勉強忙しかったんだもんね。追試だけど」

「む、むぅ…」

 唐突に声を上げた吉田に、俺はつい反射的に言い返すと、吉田は珍妙な声をあげながら少し寂しそうな表情をした。

「うぉっほん!んん…」

 俺の意識が吉田に向いていると渡部がわざとらしい咳払い(のようなもの)をすると部室全体が静まり返った。

「それで本題なんだが…」

「あ、はぁ…」

 ようやく本題か…というか本題はまだだったのか…俺なんか変な声出ちゃったし…

「で、先生。本題ってなんですか?」

 若林は渡部を急かすようにそう言うと部屋の端に追いやられていた椅子に座ってつまらなそうに腕を組んでいた。

 あ、なんだ椅子全部ここにあるじゃん。俺も座ろ。

「いや、あのね?さっきも言ったようにここ一応陸上部って名前あるしね?体育祭の部活対抗リレーで優勝してほしいなぁーなんて」

 渡部は少し申し訳なさそうに言っているつもりなのだろうが…その表情からは焦りのようなものも見て取れた。

「はぁ…要は先輩の先生方に馬鹿にされて見返してやろうと思った訳ですね」

「そうそう…さすがにのまえ!…って!なんでそこまでわかんの!?」

 ガタッと席から立ち上がる渡部に井上だけがなんのことだか理解できずにクエスチョンマークを頭に浮かべていた。

「ねぇいっちゃん。どういうことなの?」

「あー…先生は俺らにリレーで勝って上の人を見返してやりたいんだと。そんで、練習しろ!って言いにきたんだよ」

「あ、なるほど」

 オイ井上、本当に理解してるのか?表情はまだ曇ったままなんだが…

「まぁそういう訳だから!明日から練習な!」

「あ、ちょっと先生!?」

 渡部はそう言い残すと吉田の声に耳を傾けず、早足に部室を出ていった。

 というかこれ最後のほうとか完全に丸投げだよな…



 翌日。

 終礼を終え、俺はいつものように部室に向かおうと教室を出ようとすると、待ち伏せでもしているのか扉の前に仁王立ちをしている井上にその行手は阻まれた。

「おい、井上。なんでこんなとこで立ってんだ。他の人の邪魔になるぞ」

 俺がそう言うと、井上は顔を赤らめて俯いてしまった。

「だって…こうしないといっちゃんと一緒に部室行けn…」

「あ、そうか!お前風邪ひいてんのか!だから顔が赤いんな…よし、ちょっと待ってろ。保健室連れてってやるから」

 病人は意味不明なことをする人が多いからな…(明参照)

「ち、違うって!いっちゃん、あたし風邪なんてひいてないから!」

「そんなわけないだろ。こんなに顔真っ赤なんだから」

 俺は体温を測ろうと自分の額を井上の額に当てた。

 …ふむ。平熱だな。

「よかった…なんだ熱があるわけじゃないな…っておい、大丈夫か!?」

「ぁ…ぁぅ…」

 俺が井上から顔を離すと井上はまるで湯気が出るみたいに真っ赤にしながら俯いてしまった。

 あれ?俺また何か間違えた?

 心なしか教室内からの視線が痛いんだが…あ!こことはの前じゃん!これは邪魔だったかな…

「おい井上、ここだと邪魔になるから部室行くぞ」

「え?部室?…いっちゃん、あたし初めてだから優しくしてね?」

 初めて?どういうことだ?…まぁ後で考えればいい話だろ。

 俺は井上の右手を取ると2人分の鞄を背負って教室を後にした。



 部室についた俺は持っていた荷物を下ろすと井上から手を離そうとした。が、井上はまるで離さないといったように俺の左手を握るとさりげなく指を絡めてきた。

「ちょっと井上?あの、手離してくんない?俺このままだと服脱げないんだけど…」

「あ、そうか。そうだよねごめんね」

 お、案外簡単に離してくれた。

 井上は相変わらず顔を赤くしながら流れるような動作で部室の鍵を閉めた。

 着替えるときのために閉めてくれたのか…いいやつだなぁ井上。

 俺は制服を脱ごうと手をかけると井上が少し俯き気味に声をかけてきた。

「ねぇいっちゃん。ほんとにここでするの?」

「は?何言ってんだ今更。これから練習するってのに着替えないわけにはいかないだろ」

「そ、そうだよね…着替え…着替え!?」

 なんだ?井上のやつ急に大声をだして。俺がいつも女子が教室を出る前に着替え始めるのと同じことだろ。

 でもこう反応されると不安になるんだよなぁ…

 俺は一応、井上に聞いてみることにした。

「どうしたんだ?俺なんか変なこと言ったか?」

「い、いやなんでもないなんでもない!…まぁいっちゃんのことだから予想はしてたけどさ…」

 後半は聞き取れなかったが井上は少々不満気な様子だった。

「なんだよ井上。練習するぞって渡部が言った時お前が一番はしゃいでただろうが」

「はぁ…それとこれとは話が別なんだよいっちゃん…」

 井上は呆れたような…しかしガッカリしたような表情でため息をついた。

 まぁ井上が何を考えているかなんて俺がわかるはずもないし…俺は制服を脱ぐと自分の鞄から着替えを取り出した。

「いっちゃんって背中真っ白だね。いつも髪で隠れててわかんなかったけど」

「なんだ井上。これはもともとだ。俺も最近気付いたんだがな」

 俺が着替え終えると、急に部室の扉がドンドンと叩かれた。

「開けてはじめ!そこの井上メスに何かされてないよね!大丈夫だよね!今私が助けに行くからね!」

「…チッ」

 若林か…なんでこんなに取り乱してるの?俺が疑問に満ちた視線を井上に送ると、いつのまにか着替え終えていた井上は黙って扉の鍵を開けた。

「はー…はー…はじめ大丈夫!?」

「落ち着け若林。俺は何もしてないしされてない。ただここで着替えてただけだ」

 俺は若林の肩に手を置いて落ち着かせようとすると、若林は何を思ったのかさっきまで俺が着ていた制服を口元に当てると大きく息を吸い出した。

 あ、制服しまうの忘れてた…っておい!

「ちょっと若林!?何してんの!?」

「スー…ハー…大丈夫だよはじめ。これはただの深呼吸。そう、深呼吸」

 何か引っかかったが、若林がそう言うならそうなんだろう。俺は考えることを放棄すると、部室を後にした。



 6月下旬。待ちに待った(?)体育祭の当日。校内はいつもにまして騒がしく、実行委員や有志の人たちが行ったり来たりしている様子が見て取れる。

 教室は今日一日使っても使わなくてもいいと渡部が言っていたのを思い出した俺は、一緒に登校した若林とともに陸上部(カッコカリ)の部室へと足を運んだ。

「ねぇはじめ。本当に今日走らなきゃいけないの?」

 若林は未だ納得してないのか、部室に入るとそう言った。

「渡部のことだし多分強制だろうな…というか勝手にエントリーしてるほうが悪いんだけど」

「それもそうだね…」

 若林が走りたくないのはおそらく俺達4人の中で自分が1番遅いって理解してるからだろうな…

 練習はしっかりこなしていたし俺からみてもそんなに遅いとは思わなかったが、コイツよく井上と張り合ってるからな。きっとそのせいだろう。まぁ胸部に関しては若林の圧勝なわけで…多分それが原因で遅いんだと思うけど…こんなこと死んでも絶対口にできないな…

 若林はそんな俺の視線に気づいたのか俺の瞳を覗き込むようにこちらを向いた。

「なに?そんなに気になる?」

「あ、いや…すまん」

 俺は気を紛らわすように体操着を手に取ると制服を脱ぎ始めた。



 開会式が終わると並んでいた生徒達は各々の持ち場や招集場所へと向かっていった。

 若林は運動するからという理由でポニテだったんだが…萌え死ぬかと思ったわ…

 俺は先程配られたプログラム…に書き込まれてた出場者の名前を見つめながらクラスの持ち場に戻ろうとする吉田の腕を掴んで取り押さえた。

「おい吉田、なんで100m走のところに俺がエントリーされてるんだ。俺今まで知らなかったぞ…」

「いやぁ…クラスで出場競技を決めるときはじめは寝てたじゃん?その時に渡部が勝手に決めてたよ」

 あのクソ教師…まぁ寝てた俺も悪いんだけどね?なんか無性にイラついた俺は吉田で発散することにした。 

「すまん吉田」

「いってぇ!おいにのまえ!何故我の脛を蹴る!?」

「なんとなくだ、気にすんな。あとその喋り方超キモい。マジでキモい」

「酷い!?」

 俺は吉田からのがれるようにその場を離れるとクラスの場所…ではなく救護室に向かった。



「先生、勝手に決めないでくださいよ…」

 救護室につくと渡部は養護の先生の手伝いをしているのか、その手にやかんを持ちながら水道と行ったり来たりしていた。というかなぜやかん?

 渡部は俺の声に気付くと持っていたやかんをその場に置き、こちらに向かってきた。

「どうしたにのまえ?なんだ、100m走では不満か?」

「いやいや…『不満か?』じゃないですよ…勝手に決めておいて何を言ってるんですか…」

 俺は首をブンブンと振りながらそう言うと、渡部はなにがおかしいのか口元を緩めた。

「いやぁにのまえはこの学年で1番足速いしクラスに候補がいなかったから…」

「だからってこれは…」

「ま、そーゆーことだから!頑張ってね☆」

 渡部はそう言い残すと再びやかんを持ってどこかへ行ってしまった…

「マジか…」



 午前中に行われる競技はこれといったハプニングもなく終わっていった。

 午前最後の競技は渡部が勝手にエントリーしてた100m走である。俺は重い足を引きずりながら列に並ぶと前の組にいる仲村がニコニコしながらこちらに振り返った。

「なんだ仲村…何故俺を見る」

「理由なんてないよ。それよりも俺とにのまえってよく近くにいるなと思ってね。なんか運命感じないかい?」

「感じない。というかなんでそうなるんだ…男同士運命感じるってなんか気持ち悪いわ…」

「ふふ…それでこそ俺のにのまえだ」

 もちろん世の中にはそういう人もいるってことは知っているし、それが悪いと言っているわけではない。まぁネタみたいにされてることもあるらしいし…ただ、仲村が言うとこう…なんというか自分の踏み入れちゃいけない領域に引き摺り込まれそうで怖いのだ。

 仲村と俺がそんなくだらない会話をしているといつのまにか始まっていた競技はいよいよ仲村の番となっていた。

 まぁクラス対抗の競技だし、不本意ではあるが応援くらいはしておくか。

「仲村、頑張れよ」

「ありがとうにのまえ。君に一位の旗を持っていってあげるよ」

「いらないっての」

 仲村はそう言いながらスタート位置につくと観客席…主にうちのクラスから野太い声援が響いてきた…うるさい。

 なんで仲村はこんなに男子に人気なのかは知らないが、明らかに異常と呼べるような応援を前に俺は絶句していた…


 仲村は当然のように一位の旗を勝ち取ると満遍の笑みを浮かべながら俺のほうを向いた。その瞬間にクラスの男子からの視線が鋭くなった気もするが…自意識過剰だな。

 組はまわって俺達の番になった。俺はスタート位置につくと、軽く慣らすように飛ぶとすぅ…と息を吐いた。

 早乙女先輩は大会のときにこうするのがルーティンらしい…俺は見様見真似でやってるだけなんだけど。緊張も程よく溶けるから俺にとって効果があるのは確かだ。

 クラスのほうからは若林が珍しく大きな声で声援を送ってくれた。井上と吉田もそれに負けじと応援をよこしてくれて…俺はどこか気恥ずかしい気持ちになった。こいつらのためにも勝たなきゃな…

 スタートの合図がなるのと同時に、俺は自分の右足を踏み込むと勢いよく地面を蹴った。

 


 結果から言うと…そう、余裕だった。俺の走り方はお世辞にも良いものとは言えないが、早乙女先輩が教えてくれた身体の使い方を意識したら案外楽に、速く走れるんだな。早乙女先輩!ありがとうございます!

 俺より後ろの組はいつのまにか終わっていて、俺は昼食をとりに部室へと向かっていった。

「おつかれはじめ」

「おう」

 部室に入るとまるで待ち構えていたかのように若林が弁当が弁当を持って立っていた。

「さ、早く食べましょ!」

「そうだな」

 俺が席につくと若林は上機嫌で俺の隣にぴったりとくっつくように座ってきた。ちょっと?それじゃあ食べづらいんですが?

 若林はそんな様子もなく楽しそうに昼食を食べ始めていたので、俺は使い慣れない左手で昼食をとることにした。(使ってみたら案外簡単で苦ではなかった)



 午後になり、昼食を済ませた俺達は強烈な眠気に耐えられず、クラス対抗の応援合戦をサボると部室で一眠りしていた。

 俺はスマホのアラームで目を覚ますと、何故か右半身にぴったり抱きついている若林を起こそうと、空いている左手で肩を揺さぶった。

「おい。若林、起きろ。これ以上寝たら部活対抗リレーに出られなくなるぞ」

「ん…はじめ?おはよ…う!?」

 若林は呑気に目をこするとハッとしたのか勢いよく俺の身体から手を離した。

「おはようじゃねぇよ。それよりもう行くぞ。そろそろ招集が始まるハズだ」

「あ!ちょっと待ってよはじめ!」

 俺は若林を急かすようにそう言うと叫んでいる若林の手をとって部室を出ていった。



「遅いぞはじめ!もう招集はじまってるよ!」

 俺達がクラスの応援席に戻ると、焦った表情の吉田がそう叫びながらこちらに向かって走ってきた。

「マジ?まぁ間に合うだろ…それより俺としては走順が気になるんだが…」

「あれ?教えてなかったっけ?順番は我、井上、若林様、はじめって感じだけど…」

 ん?若林『様』?いつの間にそんな呼ばれ方されてんだ若林のやつ…

 俺はアンカーか…アンカーってのは本来綱を引くときに一番後ろにいる人ってことらしい(諸説あります)が…世間でははなの2区なんて呼ばれているし俺としてはこの位置でいいのか…

「了解した…若林は知ってるんだよな?」

「知ってるよ」

「そうか」

 俺はそれだけ確認するとタオルと水筒を持って招集場所へと足を急いだ。



『それではやって参りました!毎年恒例!部活対抗リレー!司会はこのわたくし!新聞部2年の如月きさらぎゆきがお送りしたいと思います!』

 無駄にテンションの高いアナウンスとともに俺は持ち場につくと、いよいよというか…各部活の紹介が始まっていた。

『まずは第一レーン!去年県大会を優勝のバスケ部だー!』

 アナウンスが流れると『うおぉぉぉぉ!』と言ような叫び声にも似た歓声が響き渡った。

 去年県大会優勝ってそんなにウチのバスケ部って強かったのか…知らなかった。

『続いて第二レーン!何故か最近勝率の上がったサッカー部だー!』

 こちらもアナウンスと同時にとてつもない歓声に襲われた。何故か勝率が上がるって一体…

「彼らの努力した結果だよ」

 俺がそんなことを考えているといつのまにか背後に立っていた仲村がそんな声をかけてきた。

「おい、ナチュラルに俺の考えてること当たるんじゃねぇ」

「いやいや…これは愛が為せる技だよ」

「愛ってなんだよ…というかお前、なんでここにいんの?」

 仲村は気付くと俺の近くにいるから普通にビビる…気配を感じなかったんだよなぁ…

「俺はサッカー部のアンカーとしてここにいるのさ。にのまえ、一緒に頑張ろうな!」

 そうか…コイツがいるせいだな、勝率が上がったのって。コイツがいると何故か男子のテンションがめちゃ上がるし…理由はホントに謎だけど。

「あー…はいはい…頑張ろうな」

 俺が適当にそう返すとアナウンスはいつのまにか第七レーンの茶道部の紹介を終えたようで、第八レーンにいる俺達陸上部(カッコカリ)の紹介が始まろうとしていた。

『そして最後!第八レーンはッ!初参戦のぉ〜陸上部(カッコカリ)だぁー?!(仮)?!なにそれ??』

 まぁそうなるわな…アナウンスのノリツッコミにその場にいた生徒はおろか、教師陣までもが大笑いしてた…というか渡部、お前も笑ってんじゃねぇよ。

『え、えーっとそれでは出場者のみなさん、位置についてください』

 アナウンスがなると第一走者の人達はそれぞれのスタート位置についた。

 ちなみに第一レーンはバスケ部、二レーンはサッカー部、三レーンは美術部、四レーンは野球部、五レーンはダンス部、六レーンは卓球部、七レーンは茶道部って感じで並んでる。個人的にはなんで美術部と茶道部なのかが気になるんだが。バレー部やハンドボール部、テニス部でいいと思うんだけど…

 俺がそんなことを考えながら八レーンを見ると井上が緊張したつらで立っていた。ピストル担当の先生はゆっくりとピストルを空に向けると『パンッ!』という爆発音とともに選手が一斉に走り出した。

 井上は元々陸上部志望だった為、他の男子メンバーと互角かそれ以上の速さであっという間にトラックを半周(一人一周で交代)してしまった。

 練習の時もそうだけど相変わらず速い。走っている姿はとても綺麗で…俺じゃなかったら見惚れてただろう。まぁ実際、横にいる男子共(仲村以外)は目が釘付けだったんだけど。

 井上はペースを落とすことなく一周走り終えると待機していた吉田にバトンを渡した。吉田のことは…見なくていっか。アイツ速いし。

「おつかれ井上。息上がってるけど大丈夫か?」

 俺は持っていたタオルと水筒を井上に渡すと仲村がどこか悔しそうな顔をして井上を睨みつけてた。

「あ、ありがとういっちゃん」

「おう。気にすんな。走ってるときのお前、綺麗だったぞ」

「き、綺麗!?」

「ああ」

 井上は一瞬、顔を更に真っ赤にして過呼吸になっていたが、息を整えると水筒に口をつけて水を飲み始めた。

 あ、これ間接キスじゃね?まぁ井上は気にしてないようだし問題ないか。

「お前は休んどけよ。あ、そのタオルは濡らしていいからな」

「わ、わかった…」

 俺はいまだに顔が真っ赤な井上にそう言うと元の列(仲村の隣)に戻った。

『さぁいよいよ3走の出番です!一番最初にバトンを受け取ったのはッ!陸上部(カッコカリ)だァー!』

 俺が戻ると丁度吉田が若林にバトンを渡すときだった。

「若林ッ!ファイトッ!」

 俺は走り出した若林に向かってそう叫ぶと走り終えた吉田のもとへ行った。

「はじめ…なんとか一位で帰ってきたぞ…!」

 吉田はそう言うと力尽きたようにその場に倒れ込んだ。

「おい、そこだと邪魔になるぞ。そういうシチュエーションに憧れてんのは知ってるけど邪魔になるようなことはすんなよ…」

「いや、マジでもう限界…はじめ、我を運んで…」

 うわぁ面倒くせぇ…いつもにまして面倒くせぇ…もう引きずってもいいよね?

 俺は吉田の足を掴むと邪魔にならないように井上のもとまで引きずろうとした。

「えっちょっはじめ!それ無し!痛い!痛いから!わかった!自分で歩くから!」

「なんだよ。自分で歩けるならそうしろよ…」

 俺は吉田の足から手を離すと井上のほうを指差した。

「あそこで待っとけ。タオル同士水筒は…自分の使ってくれ。俺はもうすぐだから」

「えっ…なんでそんな冷めてんの!?ねぇはじめ!?」

 俺は叫んでる吉田を無視するとトラックの上に立った。

にのまえ!俺と真剣勝負だ!」

 声のするほうを見ると、トラックに立った仲村が俺のほうを見て手を振っていた。

 コイツもどんだけ構ってちゃんなんだよ…クラスでは男子から超人気だし…

 俺は軽く手を振り返すと全力でこちらに向かって走ってくる若林のほうへと視線を戻した。

 若林のやつ…体力ないのに無理しやがって…

 二レーンを走る男子は若林にそろそろ追いつきそうだった。

「若林〜!ラストファイト!」

 若林は俺の声に反応したのか一瞬笑うと、持っていたバトンを俺に渡そうと手を伸ばした。


「頑張って!はじめ!」


 そんな若林の声は、バトンを受け取った俺の背中を押すように俺の頭にこだました。

 これは…負けられないな…!

 俺は若林の声に応える代わりに全力で地面を蹴った。

 幸いにも三位以降とはだいぶ距離が離れているので、ほぼ同じタイミングでバトンを受け取った仲村との一騎討ちになりそうだ。


にのまえ、悪いけど勝たせてもらうよ」

 ラストの一直線、横並びになった仲村は不敵な笑みを浮かべながらそう言うと更に速度を上げようとした。

「悪いが…負ける気はないさッ!」

 俺は自分に言い聞かせるようにそう呟くと残って体力を使って速度を上げた。

 仲村はあの台詞を言った地点で相当息が上がっていたし、もしここで俺が負けたら…頑張って走った3人…いや、若林に顔向けできねぇ!

 俺はゴールラインを視界にとらえると一心不乱に駆け出した。


『さぁいよいよラストスパート!先頭争いはーッ!サッカー部一年の仲村君と!陸上部(カッコカリ)の一年!えっと…いちさん?だー!』

 アナウンスの声は俺達の耳に入ることはなく、俺と仲村はゴールテープを切った。



『部活対抗リレーの結果発表をします。えーっと…ビデオが壊れて判定ができないため、優勝チームは無し!?ふざけんなよ!あんないい試合見せてくれたんだ!両チーム優勝!これでいいでしょ!あと、この結果書いた先生後でたっぷりお話ししましょう?』

 慌ただしいアナウンスとともに結果発表が終わると閉会式の校長先生のありがた〜いお話し(笑)が始まった。

「悪いな…こんな結果になっちまって」

 校長先生が話をする中、俺は救護室にいる若林の横で閉会式の様子を眺めていた。

 若林はあのあと、力尽きたのかその場に倒れ込んだのを井上がここまで運んできたらしい…こういうときの井上の馬鹿力はすごいと思う。

「大丈夫よはじめ。私今、すごく満足してるんだ」

「え?」

 私は救護室のベッドから身体を起こすと俺のほうを向いて笑って見せた。

「私の声を聞いてはじめが頑張ってくれた…私にとってそれ以上に嬉しいことはないんだよ」

 そう言いながら外を見る若林は…今日頑張った誰よりも美しく…満足した様子だった。

 俺はそんな若林に見惚れていたのか…こんなイベントもありかな、なんて思ってしまった。

 一途な愛を永遠に。(挨拶)

 どうも皆さんこんにちは。赤槻あかつき春来はるきです。


 今回は第3章6月編!あっまぁーい!

 唐突のお泊りイベントに体育祭…なかなか書きたいことがまとまらなかった気もします…(謝罪)

 今回の内容いかがだったでしょうか?ラブコメ展開は恋愛経験ゼロの私には厳しかったです。(苦笑)何故か途中から修羅場になっていっちゃうし…

 次回はもう少し上手く書けるように頑張ります!


 さてさて、次の7月、8月編では夏休み突入!と言う感じで7月が前編、8月が後編と言った感じに書いていきたいと思ってます。夏休みと言えば…合宿だよね?


 意見やアドバイスなどありましたら感想やツイッターのほうに書き込んでくれると幸いです。

 リクエストなどあればYouTubeで解説動画など出すかも…

 次の投稿は遅くなりそうですが…気長に待ってもらえればなと思います。あ、ちゃんと完結するまで投稿するつもりです。はい。

 それでは皆さん、またどこかであいましょう。

 Kalí douleiá.

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