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足して2つの高校生活  作者: 赤槻春来
6月.初!部活対抗リレー!
6/51

中間試験を終えて


 ときは6月。

 じめじめと湿った空気が漂い、また今日も部屋干しか…なんて憂鬱な気分に浸っていると、あっという間に第1週に控えていた高校生活初の中間テストは終わりを告げた。みんなが教室から去っていく中、俺は机に突っ伏していた。

「おーいはじめ!今日のテストどうだった?」

 俺は鬱陶しい声にむくりと顔を上げると満遍の笑みを浮かべた吉田が俺の顔を覗き込んでいた。

「…吉田。俺は疲れてるんだ。今日くらいそっとしてくれ」

「我はまずまずといった感じだったぞ!」

 吉田は俺の言うことを聞いていないのか胸を張ってそう言った。

 というかまずまずなのかよ…

 胸張る要素どこにもないんだけど…

「何がまずまずだ。俺は疲れてるって言ったろ」

「そんな!我は教えたというのに!」

 いや知らん。お前が勝手に自爆したんだろが。

 俺はそんな平常運転の吉田にため息をつくと自分の鞄に手をかけようとした。

「あれ?俺の鞄は?」

 俺が伸ばした手は鞄のあった場所の空気をスカッとすり抜けるだけだった。

 いや、マジでどこ?

「はじめ。一緒に帰ろ」

「いや、今は俺の鞄を探さな…」

 俺が顔を上げると楽しそうに笑みを浮かべながら俺の鞄を持つ若林がいた。

 ん?俺の鞄?

「お前が持ってたのかよ!?」

「さぁ!早く!帰ろ!」

 思わず叫んだ俺に若林はなんの反応も示さず俺の手を握ると俺はそのまま教室の外に連行された。

 一瞬視界に映った井上は残念そうな…悔しそうな顔をしてたから声をかけようかとも思ったけど…この状態じゃ流石に無理か…


 

 バスに乗った俺はとくに何をするわけでもなくただひたすらぼーっと外を眺めていた。

「そういえばはじめ。テストはどんな感じだった?」

 隣に座っていた若林は自分のテストの問題用紙と睨めっこをしながらそんなことを口にした。

「まぁ…普通じゃね?俺は昨日までの1週間色々あって全く勉強してないからな…まぁ悪い点じゃないとは思うけど」

 昨日まで俺はろくに勉強もせずひたすら早乙女先輩の部屋に置いてあったランニングマシンで汗を流していた。おかげで全身筋肉痛だけど。動機なんて些細なもので体育祭に強制参加が言い渡されてから落ちた筋肉を取り戻そうと思っただけだし。

 元々高校入ってから勉強なんてしたことないし。

 俺はそんなどーでもいいことを考えていると後ろの席から鬱陶しい声が聞こえてきた。

「なんだよはじめぇ〜我が聞いたときは答えてくれなかったくせに若林さんにはいうのかよぉ〜」

「吉田、ウザい。あとウザい」

「中二病ウザい。バスの中だってこと考えようよ」

「2人とも酷い!?」

 俺が言った言葉に続けたのか若林も突き放すようにそう言うとバスはいつのまにか終点についていた。



 バスを降りた俺は吉田と別れると駐輪場へ足運んだ。

「…で、なんで若林もついてくんの?」

 俺は足を止めると俺の横にぴったりとついてくる若林に声をかけた。

 前にもあったなこんなこと…

「いやぁ…ちょっと昨日親と喧嘩してさ…今日は帰りたくないなーって」

 いやぁ親と喧嘩して…って子供かよ!まぁ若林が親とどんな喧嘩をしたのか知らないけど。

 俺はそんな若林を家に帰るように説得することにした。

「家出は良くないと思うぞ。まぁお前の親に会ったことなんてないからどんなかはわからんが…きっと心配するから帰りなよ」

 我ながらまともなことを言った気がする…

 いつもはこんなこと言わないからなぁ…

「そう言うと思ってお母さんには友達の家に泊まってくるって言っておいたから」

 コイツ…用意周到かよ!

 …ん?友達の家?

「ちょっとまって…その友達って俺のこと?」

「そうだけど?」

 若林は何がおかしいのかと言うように首を傾げてきた。

 くっそ…可愛いじゃねぇか…

「俺男なんだけど?お前のお母さんは女友達だと思ってると思うんだけど?」

「大丈夫大丈夫。お母さんは『今度その子を家に連れてくるんだったらいいよ』って言ってたし」

 うーん…この場合どう反応したらいいのだろう…

 俺はそんな思考を一瞬で放棄すると鞄からスマホを取り出した。

 えっと文は…『今日友人が泊まりにきます』っと…

 実際俺には俺と若林が友人なのかということすらわからないが…ノータイムでOKと帰ってきた母親のメッセージを見て、俺は冷蔵庫の中足りるかな…なんてそんなことを考えていた。



 家に帰ると案の定というか…

「おかえりなさい義兄おにいさん!空き部屋掃除しておきましたからどうぞ!」

「うん、ありがと椿ちゃん。…で?俺は何処で寝ればいいの?」

「空き部屋だけど?彼女さんと一緒に寝るんじゃないの?」

「アッハイ」

 なんとなく事情は察した…というか一つしか思い浮かばない。

 おそらく母さんは家に来るのが若林だって気付いてたんだろうな…

「私ははじめと同じ部屋で寝ればいいのね?」

「そうですよ義姉おねえさん!」

 なんだかんだで順応の早い2人を横目に俺は買い足した食材を片手に台所に向かうのだった。



 手を洗い食材を洗い料理を開始する。いつもやっている作業ではあるが今回は少し疲れた…いつも通りしっぽりとヤってる明と椿ちゃんは俺の部屋にいるし…今日は珍しく親父も母さんも飲み会無しで家で夕食を取るという。おまけに亮に料理を教えながら作るというハイスケジュールだった。疲れたのはテスト後だからというのが一番大きな要因だと思うけど。

 若林はあまり家事はしないのか大人しくテレビを見ていたが。

 無事7人分の料理を作り終えるとちょうど親2人が帰ってきた。

 ちなみに今日の献立は先週消費できなかったジャガイモと今日特売だった牛肉を使った肉じゃがをメインに和風テイストの料理を並べてみた。

 亮が包丁を持つ姿が危なっかしくて神経を尖らせていたのは内緒だ。

「はっはっはっ!まさかはじめが彼女を連れてくるなんてな!」

「ちょっとお父さん…ごめんなさいね?騒がしい親で」

 食事を始めたころには親父はグデングデンに酔っていた。というかもう酒飲んだのかよ…

 慌ててフォローを入れる母さんに俺が引きつった笑みを浮かべていると、その様子を見ていた若林は心底楽しそうだった。

「いやぁ…えらいべっぴんさんじゃねぇか!早くはじめの嫁にこねぇかなぁ?」

「はじめ!義父おとうさん公認だって!やったね!」

「何がやったねだ若林…だいたいお前とは付き合ってもないだろ…」

 静かに夕食を食べる亮と相変わらず食べさせあってる弟夫婦を横目に、俺はいつもよりはやく皿の上の料理を平らげてしまった。



「うん…なんで一つ?」

 皿洗いを済ませ、風呂に入った俺は椿ちゃんが言っていた部屋の扉を開けた。その和室の中央に敷かれた布団一式を見てそんな声を漏らしてしまった。

 幸い若林はいま風呂にいるし…今から新しい布団を敷けばなんとかなるのだろうか?

 俺はそんな淡い希望を抱きながら押入れを開けるとそこには布団どころか何も入ってなかった。

「んん?なんで?衣替えしたときに冬用の布団とか入れたハズなんだけど??なんでないの?」

「…はじめ、何してるの?」

 俺が驚愕…というか混乱状態で固まっていると、いつのまにか風呂をあがっていた若林が部屋に入ってきた。

 …俺のジャージを身に纏っているせいか風呂上がりだからなのかはわからないが…ほんのり顔を赤らめた若林はそう…なんというか…エロい。うん。とくにサイズ(主に胸あたり)が合わなくてヘソが見えてたりとかエロすぎる…

 若林は俺の視線に気付いたのかこちらにジト目を向けてくるが、何故かそれも可愛らしく見えた。

「はじめ。私のこと見るのはいいけどそんなにガン見されるとちょっと…」

「あ、ああ…すまん。なんかめっちゃエロかったから…」

 テンパりすぎて余計なことを言った気もしなくはないが…俺が慌てて目を逸らすと、若林は一つしかない布団に潜り込んだ。

「ほら、はじめ。もう寝よ?」

 明らかに1人分のスペースを開けて招くように言う若林に俺がしばらくフリーズしていると、若林は何を思ったのか俺の手を掴み布団に引きずり込もうとしてきた。

「…って!ちょっと待て若林。何故俺を布団に入れようとする!?俺はソファーで寝るから!」

「なんでよ!一緒に寝ようよ!あの椿ちゃん?だっけ?あのもその為に布団を用意したんでしょ?それにソファーは義父さんが寝てるし」

 早口でまくし立てる若林は俺を逃すまいと俺の右手をぐいぐいと引っ張ってくる。

 俺はしかなく抵抗をやめると若林のほうに向き直った。

「あのさ…俺、男。お前、女。OK?」

 俺がそう言うと若林はキョトンとした様子でこちらを見みた。

「それがどうしたの?」

「あーもうっ!お前男女が一つの布団で寝るってどういう意味かわかってんの?万が一間違いが起こったらどうすんのさ!」

 まぁそんなこと起こさない自信はあるけど。

 若林は俺の言葉に口をゆるめるとおかしそうに笑い出した。

「大丈夫でしょ?だってはじめだし。それに私は別に襲われてもいいし…むしろそっちの方がいいというかなんというか…」

 若林が途中から何を言っているのかは相変わらず聞き取れなかったが…顔を赤らめて俺のほうをチラチラ見てくる若林に何故か言い返さなければいけない感じがしたので言い返しておくことにした。

「いやそんなことしないからね!」

「じゃあ一緒に寝ても大丈夫だよね!」

 失敗しくったァー!

 おのれ若林め…ここまで俺の考えを読んでいたとはッ!しかしこれ以上言い訳も思いつかなくなった俺は、抵抗する間も無く若林のいる布団に引きずり込まれた。

 いい匂いがするなぁ〜柔らかい感触がするn…じゃねぇ!でも不思議と抵抗する気が起きないのは何故だろう…

「おやすみはじめ」

「お、おやすみ…」

 俺はそのまま若林に拘束され一夜を明かすこととなった。



 翌朝…というか昼頃。俺は布団から起き上がるとあたりを見回した。

 若林はもう帰ったのか布団にいたような気配はないし…心なしか身体もだるい。

 テスト明けに休校という私立高校の特権?かどうかはわからないが久々にゆっくり休もうかなぁ…

 というかこの布団新品みたいにシミとかないんだけど…気のせいかな?

 俺は布団から出るとコキコキとなる背中を伸ばすと部屋を出ようと扉に手をかけた。

「おはよう御座います義兄さん!もう昼ですよ!昨日はお楽しみでしたね!」

「お、おう…おはよう椿ちゃん…ん?いや、お楽しみってなんだよ!そんなことしてないからな!というかそれはこっちの台詞だから!」

 俺が扉に手をかけた瞬間、扉は勢いよく開かれるとエプロン姿の椿ちゃんが元気よく挨拶をしてきた。

「あはは…冗談ですよ。それより朝食は今はないので昼食まで待っててくれますか?」

「いやそれはいいんだけど…椿ちゃん、学校は?」

「あー…熱が出たって言って休みました☆って痛い!なんで叩くんですか!」

「なんでじゃねぇよ!仮病使って休んでんじゃねぇよ!こんな元気な病人いねぇよ!」

 舌を出して可愛く笑ってみせる椿ちゃんに俺はため息をつくと、ふと起きた時から疑問に思ったことを尋ねてみた。

「そういえば若林は?もう帰ったのか?」

「あー…」

 椿ちゃんは微妙な顔をするとリビングへ続く扉を指差した。

「義姉さんなんか朝からお腹痛いって…ソファーで寝転がってますよ」

「お腹?…昨日の夕食変なの入れた覚えは無いんだが…ジャガイモか?でもちゃんと芽はとっしたし…俺もお腹壊してないし…」

「鈍ちんの義兄さんは気付かないと思いますけどね…義姉さんも大変だなぁ…」

 俺が真剣に考えていると椿ちゃんはブツブツ何か言っていたがこれが小さかったため聞こえなかった。

 まぁ原因解明なんてあとからでもできることだ。今は若林に直接会って様子の確認…と、いつまでうちに泊まるか聞いておかねばなるまい。

 俺はありがとうの意味も込めて椿ちゃんの頭をワシワシと撫でるとリビングへ向かって足を動かした。



 若林はリビングのソファーでお腹を抑えながら蹲っていた。

「おはよう若林。大丈夫か?なんかお腹痛いんだってな」

「おはようはじめ。初めてだったし思ったより痛かったからびっくりしてるけど…」

 初めて?思ったより?じゃあ腹痛の原因はわかってるってことなのか?

 まぁ俺には若林の考えてることはわからんし何より生理痛だって可能性も否定できないからな…なんかとてつもなく痛いって前に誰かに教えてもらった記憶…誰だっけ?

「今日学校無くてよかったな。どうする?今日帰るか?」

 俺はそう提案をしながら窓の外を見た。久々の晴れなのだ。洗濯物は干されているしおそらく椿ちゃんがやってくれたんだろうけど。シーツが干されているのが少々気になったがそんなことは些細なことだ。

 若林はもう大丈夫なのかゆっくり立ち上がろうとした。

「とりあえず今日は泊まる。お母さんには伝えてあるし今お腹痛いし…」

 やっぱ泊まるか…まぁ椿ちゃんも最近はずっと泊まり込みだし、6人分も7人分も対して変わらんからいいんだけど。

 というか親御さんに連絡済みかよ…用意周到だなぁ…

「ん、了解。若林は今日ここで安静にしてろ。この天気だから生憎だが…」

「大丈夫大丈夫。それより今日はテスト明けの課題…一緒に終わらせない?」

 若林はまるで最初からそのつもりだったのか少し恥ずかしそうにそう言うとバランスを崩したのか俺に寄りかかってきた。

「言わんこっちゃない…もう少しここで休んでろ。課題とか持ってきてやるから」

「ありがと」

 若林の腹痛の原因こそわからないが…家事は椿ちゃんがやると言っていたので…俺は1日中、若林と学校の課題を潰していった。



 翌日。

 俺は6人分の弁当を作り終えるとまだ寝こけている若林と弟達を起こしにいった。

「おい、起きろ若林。学校だぞ〜。朝食できてるぞ〜」

「…ん…あと5分…」

 あと5分って冬じゃないんだけど…昨日は俺が寝ててわからなかったけど若林の寝顔って超可愛い。うん、可愛い。

 身体を揺さぶってもなかなか起きない若林に俺はため息をつくと、文句の一つも言ってやろうかと思った。

「起きないなら俺1人で学校行くからな。遅刻しても知らn…」

「起きた!起きたから!1人で行くなんて言わないでぇッ!」

 おお…すごい食いつきようだ…

 捨てられた子犬みたいに俺にすがる若林はいつもと違って子どもっぽく見えた。

「おはよう若林」

 俺が挨拶をすると若林は一瞬、キョトンとした様子で固まったがすぐに万遍の笑みを浮かべた。

「おはようはじめ!それと…昨日今日のことは内緒だからね?」

 ウインクしながら元気に挨拶する若林。その綺麗な笑顔に照れ臭くなって目を逸らした俺だった。



 テスト返却の日というのは特別でいつもよりひと教科の時間が短く科目数が多い。普段なら4限の時間だが、今日はこれで6教科目というギュウギュウに詰め込まれたスケジュールである。返却日も2日とか3日間にすればいいのに…わざわざ9教科一気に返す必要って…

「次、にのまえ

 そんなことを考えているうちに教科担任ハゲジジイに呼ばれた俺は、テストを受けとるとそのまま席についた。

 さて…化学の点数はっと…

「は?マジで?」

 99点…だと…!?一体どこを間違えたんだ?

 ろくに勉強はしなかったがあんな簡単な問題間違える可能性は極めて低いし…

「どうしたんだ?にのまえ。そんな必死な顔して」

 俺が模範解答と睨めっこをしていると前の席に座っていた仲村がニコニコと笑いながら声をかけてきた。

「なんでそんな笑顔なんだよ…そんなに良い点数でもとったのか?」

「いや違うよ。にのまえがそんな顔するのは珍しいと思ってね」

「あーはいはい」

 俺は仲村を適当にあしらうと模範解答と俺の解答の違う場所を見つけた。これか!…ん?これ模範解答の計算間違ってね?

「仲村、お前の解答見せてくれ」

「え?まぁいいけど」

 仲村は一瞬驚いた様子だったがすぐにもとのニコニコした顔に戻ると俺に解答用紙を渡してくれた。

 …コイツも同じ答えで間違ってんのか…

「よし、あの教科担任ハゲジジイに報告してやる」

「あ、うん」

 俺は席を立つと模範解答と解答用紙を持ってはげじじいのもとへ足を向けた。

 というか仲村のやつ89点か…訂正されたら9割になるのね。




 放課後、俺は久しぶりに部室に入ろうとノブに手をかけると何故か鍵はかかっておらずすんなりと扉は開いた。

「あ、いっちゃん!ねぇねぇテストどうだった?」

 開口一番はこれか…まぁ予想はしてたけど。というか鍵が開いてる地点で井上がいることまで予想できた。

「はしゃぐな。それと俺の点数より吉田の点数を聞いた方が面白いことになるぞ」

 化学で訂正って言われた時の吉田は百面相だったからな…

「え、どゆこと?まさか吉田君0点だったとか?いや、それとも100点?」

「あー…0点はともかく100点はあるかもな」

「え」

 実際吉田は理系科目以外は天才だったりする。中学時代は文系1位だったしなぁ…

 俺がそんなこと考えていると噂をすればなんとやら…部室の扉が勢いよく開かれると吉田本人が何やらかっこいいポーズをとって入ってきた。

「フフフ…待たせたなぁ相棒。竜人であるこの我が来たからにはもう安s…」

「中二病邪魔。さっさと入ってくんない?はじめの隣行けないんだけど」

「アッハイ」

 うん、知ってた。

 若林は吉田がその場から退くと当然のように俺の隣に来た。…あの、若林サン?くっつきすぎじゃないかしら?反対にいる井上がどす黒い瞳でこっちを見てくるんですが…

「…チッ…」

「おい井上、お前今舌打ちしたよな」

「いや?してないよ?いっちゃん」

 案の定というかいつものことというか…この2人掃除のある日だと毎回こうなるんだよなぁな…

「え、えと…若林。テストはどうだったんだ?」

 何故かとてつもなく重い空気だったので話題を戻そうと俺が口を開くと先程までの空気は一瞬にして消え去った。

「私?私はね…9教科合計800点超えたんだ!学年2位なんだからね!」

「800点…!?そんな…あたしは400点もいかなかったのに…」

 若林は腰に手を当てて自慢げにそう言うと、井上は半分放心状態で固まってしまった。

 というか井上…点数大丈夫なのか?まぁ9教科全部赤点回避したら270点だし大丈夫だとは思うけど…ん?学年2位?

「若林、順位なんて出てたのか?」

「何を言っておるのだにのまえ!終礼で配られた個人宛の手紙に書いたあったではないか!」

 は?マジで?

 無駄にテンションの高い吉田に言われて俺は鞄の中にしまってあったプリントを取り出した。

「見せて見せてー」

「あ、ああ…」

 若林は無邪気な声でそう言うと俺の背中に寄りかかるようにプリントを覗き込んだ。

 ヤバいヤバい…当たってるんですが若林サン?しかもいい匂い…昨日は同じシャンプーを使ってたハズなんだけどなぁ…

「学年1位…?はじめ!すごいじゃん!820点って相当だよ!」

「いや…普通じゃないの?化学とか生物に至っては超簡単だったし…世界史と日本史以外は10分も要らなくね?」

「「え」」

 あれー?まずった?俺なんか変なこと言ったかな?なんで女性陣はヤバいもの見たみたいな反応してんの?てか井上はいつのまに再起動したんだ…

「え?なんかおかしい?」

「いやいやいや…おかしいも何も10分って…」

 井上は状態でも言っているのかというように手をひらひらさせると吉田が苦笑しながら口を開いた。

「まぁまぁ…はじめは中学の時からこうだから…」

「おい吉田。それはフォローしてくれてるのか?なんか言い方にトゲがあるような気がするんだが…」

「気のせいじゃない?」

 こういうときイケメンってウザいなって思う。いやマジで。もう慣れてるんだけどね。

 なんか途中から俺のことばっか言ってる気がするしなんかこれ以上続けたら面倒くさそうなので、俺は矛先を吉田に向けることにした。

 いや…さっきの仕返しじゃないよ?本当だよ?

「それで?そういうお前はどうだったんだ吉田」

「我は学年3位だぞ!うん…学年3位なんだけど…」

 まぁ中学時代から吉田は頭よかったしな…なんでこの学校にいるのか不思議なくらいに。

 というかなんで最後の方自信ねぇんだよ!なんかシュンとしてて気持ち悪いわ!

「吉田君も学校トップクラス!?あれー?あたしなんか場違い感がすごいんだけど…」

「安心しろ井上。どうせ吉田は再試験が待ってるから…」

「おいはじめ!?なんで知ってんの!?」

 落ち込み始めた井上に俺が声をかけるとその言葉に反応したのか吉田が食いついてきた…いつものことだけど。

 若林は途中から喋らないなと思ったら俺の背中に寄りかかったまま自分の世界に入ってるんだけど…

 突っかかってきた吉田が面倒なので俺は一言、言い返すことにした。

「中学時代散々見たからわかるわそれくらい…というかそろそろ渡部あたりが『追試だッ!』とか言いながらくるんj…」

「おい!吉田ッ!追試だッ!今すぐ教員室に来いッ!」

「うわ!ちょっと先生!?我はまだ話すことが…」

「うるせぇ吉田!あ、にのまえ達はもう帰ってもいいぞ。明日からは体育祭の練習でもしててくれ!」

 俺の言葉を言い終えるまでもなく突然叫びながら部屋に入ってきた渡部は吉田を連行すると嵐のように外へ出て行ってしまった…

 案の定吉田は再試験だったけど。

「えっと…じゃあもう帰る?私達居てもどうせやること無いんだし」

「そ、そうだね…さぁ!いっちゃんも帰ろ!」

 2人は苦笑いをしながらそう言うとそれぞれ鞄を持った…ってあれ?井上サン?何故俺の鞄を持っているの?若林サン?笑顔で俺の腕を掴まないで?

「え?なんで俺拘束されてんの?ちょっと2人とも?両腕掴まないで!?痛い!痛いから!特に周りの視線が!ねぇ!無言で歩かないでぇ…ッ!」

 部室を出た俺は2人に引きずられながら門をくぐると2人は機嫌良さそうに鼻歌を歌いながらバス停まで歩いていった…




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