水面下の戦い
「──2…3…えっと、『エベレストに登頂した。賞金として1000万貰う』だって。亮ちゃん、お願いします」
「はいはーい。1000万ね」
人生ゲームも順調に進み、いよいよ後半に差し掛かる中、由良のそんな声に銀行役の亮が1000万と書かれた紙を1枚手渡した。
ちなみに、現時点で先頭にいるのは霞で、それに続くように明と椿ちゃんペア→由良→俺→春といった順になっている。まぁ、所持金だけで見ると由良がぶっちぎりの1番だが。
「次、はじめの番だよ」
「あれ?お前らもうやったの?」
「私達は一回休みですよ義兄さん」
「あ、そっか…悪い、ぼーっとしてたわ」
俺は、明と椿ちゃんにそう言い返すと、そっとルーレットへと手を伸ばした。
狙うのは『8』…由良の止まったマスに行けば、所持金的に2番までもち上がれる…!
回り始めたルーレットは、しばらくの間その勢いを保つと、徐々にゆっくりと勢いを落として──
「あああぁぁぁっ!なんでだよ!」
『8』を通り越して『10』でピタリと止まった。
「ま、まぁまぁ…落ち着いていっちゃん、ね?」
「う、うん…ほら、『9』とか『7』だったら約束手形行きだったし、ある意味よかったんじゃない?」
「いや、でもなぁ…」
霞の言葉に反論しようとして、俺はそっとその口を閉じた。
…まぁ確かに、明と椿ちゃんペアみたく、約束手形3枚+一回休みよりはマシか。
俺は止まったマスに書いてあった50万を亮に渡すと、そっと視線を春へと向けた。…にしても、フリーターに50万も相当でかいよな…
ーーー
「はい、あたし1抜けー!」
「嘘!?こんなに早いなんてきっとインチキよ!」
「うるさいうるさーい!若林さんは黙ってくださーい!」
あれから数分。
いつの間にか順番は入れ代わり、気付けば霞は最後尾に、そして春が1番であがっていた。
…相変わらず所持金は由良が1番だが、明椿ちゃんペアは順調に約束手形を増やしていた。
「はいはい、二人共そこまでよ。約束、忘れたの?」
「ぅ…」
「それは…」
由良のその一言に、言葉を詰まらせる霞と春。
約束とやらは知らないが、どうやら彼女達には何か裏ルールみたいなものがあるらしい。
正直なところ、俺自身、その内容が割と気になっていたりする。…詳細は後で由良にさり気なく聞いてみるか。
お互いに落ち着いたのか、春と霞は乗り出していた身体をそっと元の位置に戻すと、再びゲームを再開した。
「えっと…1着はルーレットで一つ数字を決めるんだっけ?」
「あぁ…その数を出した人は1着である春に指定額渡すって感じだな」
「オッケー…じゃあ、いくよー…」
春の掛け声と共に、カラカラと音を立てながら、回り始めたルーレット。
みんなが見守る中、徐々に勢いを弱めたそれは、『1』のを指してピタリと止まった。
「んじゃ、次以後『1』を出したら春に10万だな」
「1着の特権だね!」
俺の声に便乗しながら、ない胸を張っていそう言う春。
明と椿ちゃんが「こうやって貧乏人から金をむしり取るのか…」と呟いていたが…まぁ、ゲームだし後でなんかフォローしとくか。
「『10』ね…これで、なんとか挽回できれば…!」
俺がそんなことを考えていると、ルーレットを回し終えたのか、霞がそう呟きながら自分のコマを動かしていた。
…霞はまた『10』を出したのか。そういや、10マス先の場所って確か…
「えっと…『双子の女の子が産まれた。祝儀としてみんなから50万ずつ貰う』だって」
「これで5人目6人目って…若林さん、めっちゃ子供産むじゃん…」
「それじゃあ、旦那様には頑張って貰わないとね?」
「いや、なんで俺!?俺が頑張る案件なのコレ!?」
由良に返した霞の言葉に、反射的に叫んでしまった俺。
…いや、自意識過剰かもしれんが、最近はなんとなくその発言が意図してることがわかってきた気がする…まぁ、間違っていたら相当恥ずかしい勘違い野郎だが。
俺のそんな妄想を他所に、春と由良の2人は、まるで貼り付けたような満面の笑みを浮かべると、先程までとは違い、何処か勝ち誇った表情の霞に祝儀を渡していた。明と椿ちゃんは…まぁ、また亮に約束手形をお願いしていたが。
「それじゃあ…次、はじめ」
「お、んじゃいきますかね…」
仕切る亮のその台詞に、霞の次である俺はルーレットに手をかけると、勢いよくそれを回してみせた。
「『6』か…」
「あ、いっちゃん2抜けー!」
「2着かぁ…まぁ、あとは集計待ちだな。まだ結果は分からんよ」
ーーー
あれから数分後。ゲームは進み、最後尾であった霞がゴールすると、亮の手によって全員の集計が行われた。(普段家計簿とかに触れてる分、めちゃくちゃ早い)
…まぁ、実際のところ誰が1位になるのかは目に見えているんだが。
「では、結果発表します」
改まった口調でそう言う亮に、ゴクリと息を呑む俺達。
亮は、どこから取り出したのかホワイトボードをテーブルの上に立ち上げると、そこに順位を書き込んでいった。
「えっ…嘘…」
「こんなの絶対勝てないじゃん…」
ボードを見て、絶望したように呟く霞と春。
2人のその視線の先には、俺達と総金額が二桁も違う由良の名前が書かれていた。
…まぁ、最初はみんなこんな反応するわな。
由良は元々両親の影響もあって金銭的なものにはめっぽう強いからな…去年もそうだったが、こういうゲームも毎回圧勝だし。
「それじゃあ2人共、今回は私の勝ちだから、ね?約束通り邪魔とかしちゃダメだよ?」
「こんなの認められないわ!不正よ!ふ・せ・い!」
「今回ばかりは井上さんに同意よ!こんなのノーカンだわ!」
「えー?そんなふうに約束破っちゃうんだ…?」
「ぅ…でも!」
「こんな結果になるのわかってたってことでしょ!やっぱりノーカンよ!ノーカン!」
挑発したような由良の台詞に対し、口々にそう言う2人。
…まぁ、喧嘩する程仲がいいって言うし、最初に比べれば霞も春も由良も、同じテーブルを囲めるくらい仲良くなったんだな。
俺は、そんな3人からそっと視線を逸らすと、まだ立ち直れていない2人を慰める為に、そっと立ち上がった。
一途な愛を永遠に。(挨拶)
皆さんこんにちは、赤槻春来です。
今回は1月…というよりは、はじめの誕生日編、いかがだったでしょうか?(とはいえ、誕生日らしいことは全部端折ってますが)
一と関わっていく上で、いつの間にか変わってたヒロイン達の関係が少しでも伝わればいいなと思ってます。
さて、いよいよ次は2月編(2回目)!
名目上は本物語の最終章となります。
バレンタインを始めとしたイベントがある中、これから一達、陸上部(仮)がどうなっていくのか、ほんの少しでも楽しみにしていただければ幸いです。




