サプライズ・ニューイヤー
「…め…じめ…」
「…ん…ぅ…」
1月1日の朝。
部屋の空気が冷え切る中、布団にくるまっていた俺は、何者かに身体を揺さぶられると、眠たいを擦りながらそっと天井へと視線を向けた。
「…ん?」
じわじわとはっきりしてきた俺の意識。
誰がいるのかと思って上を見ても、見知った天井が目に映るだけ…
もしやと思って左を見ると、逆光とともにこちらを見つめる由良の顔が目に入った。
「…ゆら?」
「うん。誕生日おめでと、はじめ」
「あ、おう…ありがと」
「もうみんな起きてるから、早めに着替えちゃってね」
「りょーかい…っと」
今にもスキップでもしだしそうな、上機嫌な様子で部屋を出ていく由良。
布団から這い出た俺は、縮まっていた手足を思いっきり伸ばすと、ボサボサの髪のままそっと自室を後にした。
ーーー
昼過ぎ、例年の通り俺の誕生会を終えた俺達が例のごとく人生ゲームの準備をしていると、不意にピンポンとインターフォンが鳴った。
「…誰か来たな」
「亮ちゃんの友達かな?」
「リョーにはそんな約束してる暇も友達もいないよ」
「…とりあえず、ちょっと私が出てくるよ」
「助かるわ由良」
そう言って流れるように立ち上がり、玄関へと向かう由良。
亮…我が弟ながらそんな真顔で悲しくなること言わんでくれ…
…にしても、誰だ?
四六時中2人でいる明と椿ちゃんなわけ無いし、俺も誰かと約束した覚えはないぞ?
俺がそんなふうに考えていたのも束の間、対応の終わったらしい由良が玄関から戻ってくると、それに続くようにいくつかの足音が聞こえてきた。
「はじめー!明けましておめでとう!」
「いっちゃんあけおめー!」
「おー…誰かと思えば霞と春か。明けましておめでとう」
満面の笑みを浮かべながら、元気に挨拶する2人。
去年も一緒にいた由良はともかく、2人が元旦である今日遊びに来るのは完全に予想外だったわ…
手を洗い、さも当然のようにゲームに加わる2人を前に、俺は謎の安心感を覚えると身体の向きをそっともとに戻した。
ーーー
「…じゃあ次、私の番ね」
由良の番が終わり、霞のそんな台詞と共にカラカラと音を立てながら回ったルーレットは、先程と同様に『10』の位置でピタリと止まった。
「若林さん、今日運良すぎじゃない…?」
「えー…なんかそれやだなぁ…」
「なんでさ」
「だって、それじゃここで今年の運めっちゃ使ってる感じするじゃない…」
「あー…確かに…」
霞のその言葉に、上を見ながらわかったように頷く春。
でもまぁ、確かにそんなんで運使い果たしてたら最悪だわな…
霞は、「いち、にぃー、さん…」と小さく呟きながら自らのコマを進めると、9マス進んだところでそれを止めた。
「結婚…?」
何処か驚いた様子でポツリと呟いた霞。
どうやら『結婚マス』に止まったらしい。
「…なんで結婚はストップなの…?」
しばらくの間、マスに書いてある文字とにらめっこをしていた霞は、俺達の顔を見渡しながらそう言うと、不思議そうに首を傾げた。
「これって独身とか事実婚とかじゃダメなの?」
「いや、若林さん…?これってそういうゲームだからね…?」
「でもほら、最近はそういう人も多いし…」
「はいはい、つべこべ言わずにさっさと進めて進めて。別にリアルじゃないからそういうのは気にしなくていいの。ね?」
平行線になりかけた霞と春の会話に割って入った由良。
霞はしぶしぶといった様子で俺のコマからピンを引き抜くと──
「っておい、待て待て待て!」
「ん…?何?はじめ」
「いや、ソレは俺の分身みたいなやつだから!?」
「うん、だから入れたんだけど…」
「だからって…いやいや、こっちの余ってるピンを─」
「はいはい、五十嵐がその余ったやつ使えばいいでしょ」
「いや…まぁ、そうか…」
何処か怒気を孕んだ声を上げながら、俺にそういう由良。
霞が初心者とはいえ、あの言い回しだとまるで俺と─
「いっちゃん?何考えてるの?」
「あっ、いや、なんでもない」
そう言いながら何故か怖いくらいに笑顔を向けてくる春を前に、俺は反射的にそんな声を出すと、そっと視線を自分のコマへと戻した。




