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足して2つの高校生活  作者: 赤槻春来
12月─2.今までと、これからと
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失踪してから

「はじめ…?」

 コチコチと秒針の音が聞こえる中、部屋に響いた霞のその声。

 しばらくの沈默の後、俺は固まっていた身体を動かすように腕を伸ばすと、ゆっくりとその視線を後ろへ向けた。

「…どした?」

 12月13日。日曜の昼過ぎから早乙女邸にいた俺は、霞の声と共にぼーっとしていたその意識を取り戻した。

「いや、はじめがいないと思ったらここにいるってお父さんが…」

「…おじさんが?なんかあったのか?」

 俺の言葉に、違うといった様子で首を振る霞。

 霞の反応がここまで歯切れが悪いのは中々珍しいな…

「…はじめ、なんか昨日から変だったからさ。なんか気分転換になるかなって思って家に行こうとしたんだけど…」

 何処か言い淀むように、そう言葉を繋いだ霞。

 …つまり、そういうことか。きっと霞は昨日空元気だった俺の変化に気付いていたということだろう。…まさか気付かれるとは思って無かったけど。

 俺は、そんな重苦しい空気を入れ換えるよう、なんの意味もなく部屋の窓を開け放つと、不意に冬の乾いた風が俺の顔をめがけて吹き込んできた。

「…悪い、なんか気を遣わせちゃったみたいだな」

「いや、別にそんなことは無いんだけどさ…何かあったの?」

 不安そうな顔で問いかける霞。

 色の違う2つの瞳は、何処か逃げ出そうとする俺の心を掴むように、俺から一切目をそらしていない。

 …いっそのこと、このまま吐き出してしまおうか。ふと頭をよぎったその考えに、俺は心の内を明かすように、ゆっくりと口を開いた。

「…今日はさ、先輩の誕生日なんだよ」

「それって…失踪してるっていう例の先輩?」

「あぁ…」

 まるで全てを知っているような口調で言葉を返す霞。…いや、きっと霞のことだし、吉田や亮あたりから聞いていたんだろう。

 俺はそんな霞から視線を逸らすと、自分の心とは正反対な快晴の空を見上げた。

「…あれから今日でちょうど2年。俺には、どうして先輩がいなくなったのかすらもわからない」

「はじめ…」

 ゆっくり流れる静寂の中、言葉の続きを待つように相槌をうつ霞。

 …そう、あれからもう2年経ったんだ。…早乙女先輩が失踪した、あの日から。

 …警察に出した捜索願も、何故か受け取って貰えなかった。

 …先輩の同級生もみんな、先輩のことを覚えていなかった。

「…俺達以外の誰も、先輩のことを知ってる人がいない」

 ポツリと漏れたその声は、まるで自分に言っているように、俺の頭を反響する。

 …もしかしたら、俺達の記憶がおかしいのか、そんなことを考えたこともある。…でも、この部屋にあるモノは全部思い出があって、その度にまた、俺の頭をぐちゃぐちゃにする。

「…俺、もうわけがわかんねぇよ」

 頬を伝う水も、もはやどうして流れているのかわからない。

 …最近は、先輩を失った喪失感も、何処かに行ってしまった。

 …まるで、そう、先輩を失った事(・・・・・・・)自体が(・・・)無かった(・・・・)かのように。

「…霞?」

 不意に、背中から抱き着くように腕を回してきた霞。

 俺がそっと振り返ると、そこには何故か俺よりもぐちゃぐちゃな顔をした霞の姿があった。

「…お前、なんで泣いて…」

「…別にいいじゃない、そんなこと。…はじめだって、泣いてるじゃん」

「…それは、そうだけど…」

 木枯らしに吹かれたその顔は、見るにも苦しくて。…でもきっと、俺のほうが酷い顔をしてる。

「…どうして、お前が泣くんだよ…」

 絞り出すような弱々しい自分の声。

 霞は、そんな言葉に応えるように、掴んだその手を握り締めると、ポツリと、その口を開いた。

「だってはじめ…すごく、辛そうだから。…私には、はじめのその辛さはわからないけど…でも、はじめがそんな顔してると、私もすごく…辛い」

「霞…」

「…だからさ、一人で抱え込まないでよ。…私も、井上さんも、如月先輩も…あとついでに中二病も。…はじめは独りじゃないんだよ」

「…」

 霞のその言葉は、何故か俺の頭の中にすっと入ってきて、気が付くと俺は、霞の身体を抱きしめ返していた。

「はじめ…?」

「…ありがとう」

「…ふふっ…どういたしまして」

 俺の声に対し、鼻声のまま笑いかけてくる霞。


 …そうだよな。周りがどうであろうと、俺や吉田は先輩のことを忘れたわけじゃない。

 …むしろ、この感覚も、この違和感もきっと、早乙女先輩が生きているということなのだろう。

 先輩が何故失踪したのかは相変わらずわからない。…でも、今俺がやれることは決まった。

 今度早乙女先輩に会った時は、全力で出迎えてやろう。その時にはきっと、先輩がいなかった間の話を手土産にして。


 俺がそう自覚した瞬間、俺の中にあった罪悪感のような何かは、霞のおかげかいつの間にか消え去っていた。

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