兄弟
「おい明、早く起きろ」
「…ん…?おはようはじめ…」
「おはようじゃねぇよ!お前今何時だと思ってんだ!?」
俺の言葉におぼろげな瞳で時計を見る明。
焦った様子で飛び起きるその姿を前に、俺は呆れて目をそらすと、閉じられていたカーテンを思いっきり開けてみせた。
11月22日。いつものように朝食を作り終えた俺は、布団の中で気持ちよさそうに寝ていた明をたたき起こすと、そっとその部屋を後にした。
「ちょっとはじめ!なんで起こしてくれなかったのさ!」
「何回も起こしに行ったよ。いい加減自分で起きれるようにしろ」
後ろから聞こえる明の唸るような声。
俺は吐き捨てるようにそう言うと、大きく溜息を吐いた。
ーーー
「全く…日曜日とはいえ起きるの遅すぎるぞ明…」
「…だって、最近冷えてきたし、布団から出たくないんだもん…」
「お前なぁ…はぁ…」
朝食をつまみながらもっともらしい理由を述べる明。
確かに最近冷えてきたが…だからといって毎回俺に起こされるのはどうかと思うよ。マジで。
俺は食べ終えた他の皿を回収すると、そっと台所にある水につけた。
「明」
「…ん?何?」
「そういやお前、今日がなんの日かわかってるよな?」
「えっ?ただの日曜日じゃないの…?」
台所から声をかけた俺の言葉に、キョトンとした様子でそう答える明。
あれぇ…?まさか家族や彼女の誕生日を覚えてないってのかコイツは?
俺は洗っていた皿を水切棚の上に立てかけると、そっと濡れたその手を拭いた。
「お前、マジでそれ言ってる?」
「マジでって…それ以外なくない?」
「今日11月22日だぞ?」
「だからただの日曜b…あっ…」
そんな自分の言葉を前に、思い出したように顔を真っ青にする明。
いや、マジで忘れてたのかよ…
「はじめ!どうしよう!?俺何も用意してないよ!?」
「今更俺に言うなよお前…せめて彼女の誕生日くらい覚えてやれよ」
もちろん弟や親の誕生日も忘れてもらっちゃ困るけど、明だしな…
「一応、今日は亮と椿ちゃんにちょっとした買い物頼んでるからさ、そう思ってるなら俺達が誕生会の準備をしてる間に2人のプレゼントでも買ってこい」
「はじめ…!」
目をキラキラさせる明を前に、俺は再び溜息を吐くと、まだ結ばれていない髪をガシガシと掻きむしった。
ほんと、世話の焼ける弟だ…
ーーー
「やっほ!五十嵐!」
「おう…悪いな、荷物預かっててもらって」
「いいのいいの!気にしないで!」
昼過ぎ、俺達が昼食を食べ終えた頃、不意に家の前に大きな車が停まると、中からいくつかの荷物を抱えた由良が降りてきた。
…修学旅行のあの一件以降、一応仲を取り戻した俺と由良は再びこうして頻繁に会うようになった。…まぁ、まだちょっと気まずい雰囲気になったりはするが、どことなく前よりは距離が近づいた気がする。
「…?どうしたの?そんなに私の顔を見て…もしかして何か付いてる?」
「あ、いや…なんでもないよ、うん。ちょっと考え事をしててさ…」
そう言って不思議そうに首を傾げる由良。
…言葉の意味を見るにどうやら俺は由良をずっと見つめていたらしい。
しばらくの沈黙の後、俺と由良は車の中に積み込まれていた俺達の用意したプレゼントを家の中へと運び込んだ。
「ふぅ…これで全部かなぁ…」
「お疲れ、由良。意外と量があったな」
「ふふっ…ありがと」
一通り作業が終わり、俺が座り込む由良に声をかけながら飲み物を渡すと、由良は微笑みながらそれを受け取った。
眼鏡越しでもわかる、心からのその笑顔。一体いつぶりだろうか、この笑顔を見なくなってから。
ふと頭に過ぎったその考えを前に、俺はそれを振り払うように首を振ると、落ち着けるように深呼吸をした。
「五十嵐…?」
「…いや、なんでもない。ちょっとこの前のこと思い出しただけだ」
「…なにもないなら、いいんだけど。何かあったら言ってね」
「…おう」
ーーー
「はじめ、これはこんな感じでいい?」
「あー…いいんじゃないか?邪魔にならなそうだし」
「じゃあ他もこんな感じでやっとくね」
「おう」
午後3時過ぎ、あの後やって来た霞と春の手を借り、俺達は部屋の飾り付けをしていた。
窓際の装飾を行う霞の声に、俺は一通りその様子を見てからそう答えると、調理していた手を再び動かした。
「いっちゃん、こっち終わったよ」
「じゃあ次は水入れた鍋にブロッコリー以外入れてしばらく煮込んどいてくれるか?煮立ったらブロッコリーも入れるって感じで」
「おっけー!あ、コンソメのもとは先に入れとく?」
「そうだな。危うく忘れるところだった」
「んじゃ開けちゃうね」
「おう」
そう言ってコンソメのもとを開ける春。
俺の隣で調理をしていた春は、妙に手慣れた手付きで野菜を切り終えると、言ったとおりに鍋を火にかけ始めた。
「ちょっと五十嵐」
「ん?」
6時前、一通り夕食の支度が終わった俺がリビングでテレビゲームをしている霞と春を横目に料理を並べていると、不意にさっきまで霞と一緒に飾り付けをしていた由良が声をかけてきた。
「なんかあの2人と距離近くない…?」
「いや、そんなことはないと思うけど…」
「嘘、だって五十嵐、あれからたまに私のことは上の空ってときがあるんだもん!」
「いやそれは…」
「さっきまでだってそう!何よあんな新婚みたいに並んで料理しちゃってさ…!」
「そ、それは…」
「五十嵐は隠してるつもりなんだろうけど…私に対する態度が違うの、バレバレだからね?」
「ぅ…」
グサリと刺さる由良の言葉。
仲を戻したとはいえ、まだわだかまりが完全になくなったわけではないからな…俺としてはむしろ、由良が前と同じように接していられるのが不思議なまである。
言葉に詰まる俺を前に、由良はやっぱりといった様子で腕を組んでいると、不意に俺の背後から抱きついてきた。
「ゆ、由良…?」
「私、待ってるからね。はじめが前みたいに…前以上に近づいてくれるのを」
「な…!?」
耳元で囁くようにそう言うと、そっと俺から身体を離した由良。
リビングから霞と春の叫ぶような声が聞こえた気がしたが、俺はクスクスと笑う由良を前に動くことができなかった。
ーーー
午後7時過ぎ、帰宅した母さんが席につくのと同時に亮と椿ちゃんの誕生会を始めていた俺達。
今日の主役である2人は去年よりも人数が多かったことに若干ビックリしていたが、母さんや由良が参加していることに喜んでくれてるようで何よりだ。
ちなみに、親父は出張で北海道にいる為、今年も参加できていない。
「義兄さん、義兄さん」
「ん?どした?」
一通り食事がなくなり、みんなが一息つき始める中、俺が食べ終えた皿を運んでいると、不意に椿ちゃんが俺の肩を叩いた。
「今日、明はわたしの誕生日を覚えてたんですか?」
「あー…」
椿ちゃんの言葉に思わずそんな声を漏らした俺。
椿ちゃんは目をそらしたそんな俺の反応で察したのか、呆れたように小さく溜息を吐くと、無邪気にリビングで亮とゲームしている明をちらりと見た。
「まぁ、なんとなく予想はできてたんですけどね…」
「…そうだな」
同情する俺を横に、今夜は覚悟してねと、ボソリとそう言った椿ちゃん。
俺はそっと視線を手元へと移すと、たまっている皿を洗い始めた。
夕食の片付けを終え、俺が昼に焼いておいたケーキをテーブルに並べていると、丁度プレゼントを配り始めるのか春と由良が俺の部屋から大小様々ないくつかの箱を運んできていた。
「はいはーい!ちゅーもーく!」
「2人には私達から誕生日プレゼントがあるからね!ケーキを食べる前に配っちゃうよ」
そんな2人の声に釣られるように、ゲームしていた手を止めて箱の前へとやって来た亮と椿ちゃん。
霞、春、由良の3人はそれぞれ自分の買ったプレゼントを渡すと、俺の方へとその視線を向けてきた。
「ほら、いっちゃんも」
「一緒に買ってきたでしょ?」
「あ、そういうことか。…ちょっと待ってね」
どうやらこのタイミングで俺から直接渡せということらしい。
…まぁいつ渡しても変わらないし、今でもいいか。
俺は残った4つの包装されたプレゼントの中から2つを手に取ると、期待に満ちた瞳でこちらを見つめる2人にそれを手渡した。
「2人共、誕生日おめでとう。…あんまり高いものじゃないけど、これ、プレゼント」
キラキラとした瞳のまま、それを受け取る亮と椿ちゃん。
2人は包装紙を開け、中に入っていたプレゼントを手に取りだすと、普段見せないような楽しそうな表情をした。
…どうやら俺達のプレゼントは2人に気に入ってもらえたようだ。
俺はそんな2人の反応を前にそっと胸を撫で下ろすと、再び皿を並べ始めた。
一途な愛を永遠に。
皆さんこんにちは、赤槻春来です。
11月編、いかがでしたか?
私的には前回の11月編と同様、あんまり内容が濃く無かった気がしますが…私は一兄弟について少し、また掘り下げられたのでよかったかななんて思ってます。
さて、次回は12月編(2回目)。2年のクリスマスは一体何が起きるのか…?残すところ後3章、最後まで見てくだされば幸いです。
感想や意見、アドバイスなどありましたら感想欄やツイッターのほうに書き込んでくれると幸いです。
またのんびりと更新していく予定なので気長に待っていただければ幸いです。
それでは皆さん、またどこかであいましょう。




