良き友
「はじめ」
「一緒に帰ろ?」
「お、おう…って、今すぐ?」
「うん!」
「もちろん!」
11月中旬。
俺がいつものように部室で時間を潰していると、不意にそんな提案をしてきた霞と春。
俺は慌てて時計を確認すると、丁度16時を指すところだった。
「なぁ、ちょっと早くないか?…完全下校時刻まではまだ少しあるけど…」
「いいのいいの!」
「買い物して帰るだけだから!」
「買い物…?冬の支度か何かか…?」
俺の言葉に違う違うといった様子で首を振る2人。俺はその意図を測りかねると、お手上げと言うように手を上げた。
「えー!いっちゃんわかんないの?」
「いや、わかってたら答えてるからね?…で、結局なんなんだ?」
「はじめ、忘れたの?11月22日」
「22日…あっ!」
そうだよ、22日は亮と椿ちゃんの誕生日じゃん!いや、忘れていたわけではないけども!
霞に言われ、思わず思い出したように声を上げた俺。…にしても2人共弟達の誕生日を覚えててくれたのか。亮と椿ちゃんの兄として嬉しく思うぞ…
霞はしばらくそんな俺の反応を楽しむようにこちらを見ると、不意にゴソゴソと鞄の中から何やらリストのように書き込まれた紙を取り出した。
「そう、今年ははじめの弟達に誕生日プレゼントを用意しようと思ってね!最近流行りのものをちょっとリストアップしてきたの!」
「リストアップって…あの2人にはあんまり参考にならない気が…」
「そんなことないよいっちゃん!2人だって普段頑張ってるいっちゃんの為に我慢してるだけかもしれないし!」
「それは…」
無い、とは言い切れなかった。
…確かに亮にしろ椿ちゃんにしろ、いつも家事を手伝ってくれてるし、友達と遊んだりしてる姿をあまり見たことがない。まぁ、呼んだりしてこないからわからないだけかもしれないが。
俺はしばらく考えるように頭を押さえると、胸ポケットからそっとスマホを取り出した。
ーーー
「あ、今日卵の特売だ…」
「あ!ちょっとはじめ!どこ行くのよ!?」
「あ、いや…ちょっと卵を…」
「いっちゃん!そんなの後でいいから!早くこっちくる!」
学校から近くにあるデパートにて、2人に連行されるように食品コーナーを通り過ぎた俺は、上の階にある普段はこない玩具売り場にやってきていた。
「卵…」
「後で一緒に並んであげるから!とにかく今はプレゼントよプレゼント!ね?」
「そうだよいっちゃん!こういうのは勢いが大事なんだよ!」
「あ、うん…」
俺の手を引き、ぐいぐいと店の奥へと進んでいく霞と春。いや、勢いってなんだよ…
ちなみに、部室を出る前に早く帰る云々を連絡したらノータイムで『兄さんのことは任せてください!』と返信してきた響ちゃん。一体何を任されたんだ…?
「──じめ!はじめ!」
「えっ?あ、何?」
「何?じゃないよ!」
「いっちゃんが選んでくれなきゃ意味ないじゃん!」
「いや、なんで俺が選ぶんだよ…お前らが亮と椿ちゃんに渡すプレゼントだろ?」
「…だからだよ」
「…は?」
聞き返すような俺の言葉に、ボソリと呟いた霞。
雑音に紛れたその声は聞き取りづらくて、俺は思わずそんな声が漏れてしまった。
「いやさ、いっちゃんは2人のお兄ちゃんでしょ?だから好みとか似てるかなって思って」
「いやいやいや…確かに兄だけどさ、亮が俺の好みと一致するとは限らないし、椿ちゃんに関してはそもそも義理だからね?血が繋がってる訳じゃないんだよ?」
「それでも、だよ!」
早口でまくし立てる俺に、春は間髪入れずにそう答えると、それを肯定するように隣で霞が頷いた。
…まぁ、ここまで真剣に反応されたんじゃここで断るというのも無粋だろう。2人もきっと考えた上での行動なはずなのだ。…ここで俺が変に抵抗して亮や椿ちゃんが悲しむのも筋違いだしな。
俺は色々突っ込みたかったことを頭の隅に追いやると、2人の好意を受け取るように顔を上げた。
「…わかった。俺もちょっと考えてみるよ」
俺の言葉に表情を明るくする霞と春。
俺だけでなく、弟や妹のことも考えてくれるそんな2人を目に、俺は良い人達と出会ったなと改めて思った。




