変わりゆく、俺達の関係性
「…あぁ、そういうことだからよろしく頼むよ。…お?すまないが少し席を外させてもらうよ」
男4人で馬鹿なことを話しながら京都の町をまわっていた俺は、旅館で夕食を取ったあと、呼ばれていた様に渡部の部屋(恐らく教員用の部屋)へとやってきていた。
俺が部屋の中へ入ると、渡部は電話をしていたのかそう言ってスマホをテーブルに置くと、俺の方へと視線を向けた。
「一、朝よりは表情が良くなったな」
「…まぁ」
「…それで、どうだったんだ?今日の1日、彼奴等と過ごして心の気分は晴れたか?」
「それは…」
渡部の出した質問はとても簡単なもので、しかしその意図をしっかりと捉えたそれに、俺はただ口を開けて固まっていた。
確かにここ数日と比べたら楽しんでいただろう。しかし、それと同時に何処か後ろめたさみたいなのも存在していて、お世辞にも晴れた、とは言い難かった。
「…その沈黙が答えってことね」
俺の態度に、察したようにそう言う渡部。
俺は何もする気になれなくて、しばらくその場に立ち尽くしていると、不意に渡部がゆっくりとその口を開いた。
「なぁ一、お前は…お前にとって、幼馴染とはどういう存在なんだ?」
「…え?」
「いや、すまん。井上から大体の事情は聞いたんだ。お前が今、何を感じてそんな顔をしてるのか、どうしてそう感じているのか…それを、できれば教えてほしい」
いつものふざけた表情ではなく、真剣に俺の目を見る渡部。
その瞳は、俺が話すまで逃さないというよりは純粋に俺のことを心配してくれていた。
「俺は…由良と俺がどんな関係だったのか、もうわからない…俺にとって由良はただの幼馴染で、それ以上でも以下でもない唯一無二の存在だと思ってた」
「…」
「…でもあの日、あんな表情をした由良の顔が、ずっと俺の頭から離れなくて…」
心にぽっかりと穴が空いてしまった。そう言葉にしようとした瞬間、俺はその言葉の代わりに自分が涙を流しているのに気付いた。
…あれ?おかしいな…俺、いつの間に泣いて…
拭っても拭っても止めどなく溢れる涙。それはきっと、今まで俺が痩せ我慢をしていた証拠のようなもので…今更になって由良という存在が自分にとってどういうものなのかを物語っていた。
「一…」
優しい声で俺の肩に手を置く渡部。
俺は崩れ落ちるようにへたり込むと、しばらくの間、静かに泣きはらした。
ーーー
「…落ち着いたか?」
渡部の声に頷く俺。
…あれからどれくらい時間が経っただろうか?
渡部は落ち着いた俺を促すようにベッドに腰を掛けさせると、コップに入っていた一杯の水を飲みほした。
「…俺はさ」
「…?」
「伊吹とは幼馴染だけど、特にそういうことはなかったし、ぶっちゃけ俺には一達がどんな気持ちでいるのかはわからない」
「…」
呟くようにそう言う渡部。
俺は、ただ何も言えずにその顔を見つめていると、渡部は「でも…」と言葉を続けた。
「俺にとって、伊吹は大切な存在だったし、それは今も変わらない。…お前がその相手をどう思ってるか、それが今1番大事なんじゃないか?」
渡部のその言葉は、何故だか心にすんなりと入ってきて…俺は自分の心の中が透かされているような感覚を覚え、そっと視線を下に向けた。
…そう、今更になって気付く。
俺にとって由良はただの幼馴染なんかじゃない。いつからか好きになってたのかもしれない、人としても、異性としても。
俺には今、好きな人がいる。でも、由良の事だってそれと同じくらい好きだし、優劣なんて付けられなくて…最低だけど、このままでいいと、ずっと離れることはないと、心の何処かで思っていたのかもしれない。
「俺は…」
…ふと、早乙女先輩が言っていた言葉を思い出した。
『大切なものは、失って初めて大切だとわかる。何かを壊したり、無くしたりするのは簡単だ。でもその修復は難しい。…でも、大切だと気付いたなら、まだ取り戻せる余地が少しでもあるなら、俺は全力でそれを取り戻そうとするし、全力でそれを守るために戦う』
当時、彼女に振られ、傷心の早乙女先輩は愚痴るようにそんなことを言っていた。
…その時は気にも留めていなかったこの言葉の意味が、今、ようやくわかった気がする。
「由良が好きだ。ずっと近い存在で、それが当たり前で心地よかった。…今更最低だけど、もう、手放したくなんてない」
不思議と頭で考えるより先に漏れていた俺の声。
しばらくの間流れる静寂。その永遠とも呼べる一瞬の時間の中、不意に渡部はおもむろに机に置いていたスマホへと手を伸ばした。
「一」
渡部に名前を呼ばれ、顔を上げる俺。
渡部が見せるスマホの画面には泣きはらした俺の顔と──
「通知中…って、は!?」
「悪い。今までの会話、全部伊吹達に聞こえてたわ」
悪びれもなくそう言う渡部。
…え?…ゑ?全部って最初から…?
狼狽する俺を前に、渡部は気にしていない様子でスマホを操作すると、不意にそのスマホから、女性の声が聞こえてきた。
『あ、あー…もしもーし?あっちゃん、聞こえてる?』
「おう、ばっちり聞こえてるよ」
電話越しに聞こえてきた声の正体は、件の八代さんだった。
渡部は八代さんの声にそう返すと、いつの間にかテレビ電話に切り替わっていた画面をこちらに向けてきた。
『ごめんね、一君。なんか騙すようなことして』
「あ、いえ…それについてはもうどうでもいいんですけど…」
画面越しに謝罪をする八代さん。
しかし、今の俺にはそんなことどうでも良くなるくらい、その画面の端のほうにチラチラと映る人影に俺は思わず目を疑っていた。
「えっと…あの、もしかしてそこに由良いますよね…?」
『あ…映っちゃってたか…ちょっと待っててね』
そう一言言うと、画面の奥へと消えていく八代さん。そして次の瞬間、不意に画面が揺れたかと思うと、物音と共に由良の姿が映り込んだ。
『鈴木さん、実はボクのクラスの生徒なんだ。最近、どうも落ち込んだ様子だったから、気になって話を聞いたら一君の事だったってわけ』
「それで、俺と伊吹で話し合ってこういう場を設けたって感じだ」
『ごめんね、一君。隠すつもりは無かったんだけどね』
スマホ越しに聞こえる八代さんさんの謝罪の言葉。
俺は一瞬何処か安心したような、でも何処か悔しいようなそんな気分に駆られると、自らの頬を叩いて視線を画面へと戻した。
『は、はじめ…』
「由良…」
画面越しに見つめ合う俺達。由良も泣きはらしいてたのか、その目元は俺にも負けないくらい充血していた。
しばらくの沈黙の後、俺はこの前の謝罪をしようと口を開けようとすると、それより少し早く、由良の声が聞こえてきた。
『はじめ、あのね…私ね──』
ーーー
「おはよう俺の一!今日はやけにすっきりした顔じゃないか!」
修学旅行2日目。あの後結局渡部の部屋で寝た俺は朝食のために顔を出すと、隣の席に座った仲村が妙にツヤツヤした様子で声をかけてきた。
「おう、おはよう仲村。てか、何度も言うけど俺はお前のものになった覚えはないぞ」
「相変わらず釣れないな一。ま、そこもいいんだけど」
一体何がいいのやら…
俺はそう呟きそうになる口をそっと紡ぐと、光の刺す窓の方へと視線を向けた。
…たしか今日と明日の自由行動は霞や春とまわるという約束をしていたはずだ。心配をかけた2人には後で謝っておかないとな…
窓越しに見えた空の景色は、昨日の分厚い雲とは打って変わって、一面の青空が広がっていた。
一途な愛を永遠に。
みなさんこんにちは、赤槻春来です。
ということで10月編、いかがでしたか?
結構久々に書いた気がするから表現がおかしかったりするかもしれない…
今回は修学旅行という行事の中、はじめと由良の二人の関係を書いたんだけど…二人は一体どんな会話をかわしたんでしょうね?
修学旅行部分がカットされたのは、私がシンプルに高校で修学旅行に行けてないからです(コロナのせいで)。その辺はご了承を…
さて、次回は11月編(2回目)。明確に変わり始めた彼らの関係は一体どこへ向かっているのか…
残すところあと4章ですが、最後まで見守ってもらえたら幸いです。
感想や意見、アドバイスなどありましたら感想欄やツイッターのほうに書き込んでくれると幸いです。
私情ですが、受験のために遅れたりする可能性があるので、ご理解いただければと。
それでは皆さん、またどこかであいましょう。
ごきげんよう。




