休み明けの準備
9月中旬。夏休み明けのテストが終わった俺達は、月末に控えた文化祭のために急ピッチで準備を進めていた。
「はじめ、これは…?」
「あー…去年着た衣装か…」
「私達は今年もこれやる?去年、結構人気だったし…」
「あたしはやってもいいと思うけど…」
部室の掃除も兼ね、クラスの出し物で使えるものがないか探していた俺達3人は、去年文化祭のミニライブで使った衣装を前に一度その手を止めていた。
「2人の衣装はほら、まだ女性が着るものだからわかるけどさ…」
「あー…」
「たしかに。いっちゃんの衣装はメイド服だったもんね」
「流石にあれはもう着たくない…」
俺があの衣装を着たくないのには理由がある。2人は知らないと思うが俺はあの後、何故か数名の男子に告白されたという謎の事態に見舞われ、しまいにはそのまま襲われかけるというトラウマを植え付けられているからだ。まぁその時は何故か近くにいた仲村が助けてくれたんだけど…あれはマジで怖かった…
「えー!また着ようよ!あたし、またいっちゃんのあの姿見たいし!」
「それは私も同感」
「いや、マジで勘弁してくれ…」
「なんでさ!」
「じゃあ私達の前だけでいいから、ダメ…?」
「ぅ…」
逃さないとばかりに俺に抱きつく春。色々当たってて柔らかいし。
…ってか上目遣いは反則です霞さん。そんなんされたら断れなくなるじゃないですか…だって俺、男の子だし。
霞は最近…いや、今までもそうだった気がするけど、特に俺の断れないようなところを的確についてくるようになった。
あの一件以降より距離が縮まったとは思っていたが…最近は特に、だ。
「わかった、わかったから2人してそんなににじり寄らないでくれ…」
「…?なんでさ?」
「いや、ちょっと目のやり場とか色々、な?今度3人だけのときに着てあげるからさ」
俺の言葉に2人は(一応?)納得したのか、それ以上に近づくことなく素直に引いていった。
ちょっと物寂しい気もするが…俺は邪な感情を振り払うように首を振ると、残っていた作業を再開した。
ーーー
『五十嵐、そっちの準備はどう?』
「あー…ウチのクラスは喫茶店をやるらしい」
昼休み、電話越しに聞く由良の声を前に俺は着々と準備の進んでいるクラスを眺めながらそう呟いた。
『らしいって…じゃあ五十嵐は参加しないってこと?』
「どうなんだろ…俺もその辺のシフトがどうなってるかまだ知らんし、正直な話喫茶店と言っても具体的に何やるのか把握してない」
『だめだめじゃん…』
「いいんだよ別に。俺は裏方で道具とか用意したりするのがいいと思ってるから」
『あの渡部って人がそうするとは思えないけど…まぁいいや。じゃあ当日は私も行くから。案内よろしくね!』
「はいはい…わかったよ」
俺の言葉を聞き終えると同時に通話を切る由良。
昼休みも残り僅かになり、俺が作業に戻ろうと振り返ると、目の前にら不気味なくらいに満遍な笑みを浮かべた霞の姿があった。
「か、霞…いたのか…」
「うん。後でゆっくり話は聞いてあげるからね」
霞がそう言うと、俺はまるで浮気のバレた彼氏のようにズルズルと霞に連行されていった。
…やっぱ2人の食事中に抜けるのはまずかったかなぁ…
ーーー
文化祭前日。
俺が教室の隅でシフトの確認をしていると、不意に堀江妹が何か言いたげにこちらへとやってきた。
「あの、一さん」
「ん?どした?」
「えっと…明日って誰かと回る予定とかありますか?」
「明日?」
俺の返しに頷く堀江妹。
なんか聞き方的に一緒に回りたいのかとか勘違いしそうになったが…流石に俺でもそんなことないくらいわかる。うん。
…まぁいずれにせよ、明日は空いてないんだが。
「明日は霞と春、明後日は幼馴染と回る約束してるからなぁ…」
「そう、ですか…」
「えっと、何?シフトのこととか?」
「まぁ、そうなんですけど…」
歯切れの悪い言い方。
俺はさっきまで眺めていたシフト表を再び広げると、確認するように堀江妹に視線を向けた。
「交代とかだったら別にいいよ。ただ、2人と約束した時間だけはとっておいてくれれば」
「あ、いえ!そうじゃなくて…その…」
そうやって申し訳無さそうに耳打ちをした堀江妹の言葉に、俺は一瞬言葉を失うと、それ以上考えることを放棄した。




