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足して2つの高校生活  作者: 赤槻春来
5月.やりたい部活があるとは限らない
4/51

連休



 5月4日。世間ではゴールデンウィークなんて言われている休日である。

 入学してから早1ヶ月…あのなんとかキャンプ以来、成り行きながら俺と若林は学校での行動を共にしていた。

 リア充どもは彼氏なり彼女なり作って遊んでいるんだろうが…俺は布団の中でゴロゴロしていた。

 あ、そういえば明日菖蒲買っとかなきゃな。

「はじめ!お小遣いもらった?」

「いや?まだだけど…明達がいない日くらい休ませてよ…」

 亮はそう言いながら俺の布団に潜り込んできた。

「はじめあったかい…これは眠くなるねぇ…」

「お前年寄りみたいな言い方になってるぞ…それで?お小遣いをもらうことになんでそんな慌ててたんだ?」

 俺がそう聞くと亮は「あ」と思い出したように口を開いた。

「父さんがお小遣いって用意してたお金がさ、リョーが500円ではじめが1000円…明が7000円だって言ってたよ」

「は?俺が1000円で明が7000?ふざけんなあのクソ親父…ちょっとしばいてくる」

 俺は布団から這い出ると部屋を出た。



「親父ッ!なんだよ7000円って!ふざけんなよ!」

「おうはじめ。急にどうしたんだ?」

 何を言っているのかわからないといった様子で俺を見る親父。久々に顔を合わせたけど相変わらずムカつく顔をしてやがる…

「とぼけてんじゃねぇよ!亮が言ってたぞ俺が1000円で明が7000円?明の小遣い減らして俺と亮のもっと寄越せ!」

「はぁ?何言ってんだはじめ?彼女いるやつにはあれくらい必要だろ?」

 何その超理論…家事も何もしないでもらうだけもらうとか対価に合わねぇ…

「あんたいつも家にいないくせに…俺と亮で家計回してるってのにそれはないだろ!」

「しらねぇよそんなこと!言っておくが金額上がる話だ無しだ。はじめ」

 コイツ…意地でもあげないつもりだ…よし、ちょっと葉っぱかけてやろ。前に母さんの部屋で玩具おもちゃ(意味深)を見つけたからありえない話じゃないだろ。

「へー…じゃあ親父が飲み会とか言ってそーゆー店に行ってるって母さんに言ってやろ」

「は!?はじめお前なんで知って…あ」

 うわぁ…図星かよ…我が父ながら気持ち悪いと思う。

「よし、じゃあ今から母さんに連絡…」

「待ってくれはじめッ!待ってください!7000円に上げるから!亮の小遣い上げるから!」

 うわぁ…ちょろい…土下座して父親としての尊厳もクソもないわ…

「えぇ…明の小遣いについて下げる気はないのね?じゃあ母さんに連絡…」

「待って!下げるから!カードの写メとか送らないでッ!」

 カード?そんなものあるのか…今度大掃除のとき探してみよ。

 俺は親父からお小遣い(ちゃんと7000円と亮の値上げ分2000円)を受け取ると亮の部屋へ戻った。



「はじめ。布団干しておいたよ」

「ありがと…はいこれ、亮のお小遣いね。親父からぶん取ってきた」

 俺は亮に2000円を渡すと普段着に着替えた。

「そういえば昨日メアリーがこっちに来たみたいだよ」

「メアリーが?なんでまた急に…」

「きっと幸助こうすけ兄の家にいるよ」

「ん、了解。あとで行ってくるわ」



 俺は『早乙女』と書かれた表札の前に立つとインターフォンを押した。

『はーい』

 ブザーのような呼び出し音の後に可愛らしい少女の声が聞こえてきた。

「はじめです」

『あ、お兄さん!入って入って』

 俺は扉を開けると早乙女邸の中へと入った。

「お兄さん!久しぶり!」

「おう、久しぶりメアリー。おっきくなったな」

 玄関を抜けると10歳くらいの少女ーメアリーが金色の長い髪を揺らしながら俺に抱きついてきた。

「久しぶりはじめ。高校入学おめでとう」

「あ、お久しぶりです。ヘンリーおじさん」

 金髪のかっこいいおじさんは俺に小さく頭を下げてきた。このおじさん、実は大地主でとても大金持ちなのだ。家主のいなくなったこの家を買い取るなど規格外の人物である。

「ここが綺麗なのはやはり君のおかげかい?」

「まぁ…たまに掃除しにきてるので」

 俺がそう言うとおじさんは「やっぱりな!」と笑っていた。

「で、なんで急に…こんな時期に来たんです?」

 俺がそう聞くとおじさんは少し戸惑ったような仕草をした。

「あ、いや…話したくないとかそういうんだったら別にいいです。無理に聞くことじゃありませんし」

「あー…そう言ってくれると助かるよ。まぁしばらくここに滞在する予定だからメアリーの相手をしてくれると助かる」

 おじさんと話している途中、俺の腕がグイグイと引っ張られた。

「お兄さん!遊んで!」

「あーちょっと待ってて。おじさんと話が終わったらね」

「いーやーだー!あーそーぶーのー!」

 俺がおじさんのほうを見るとウインクをしてきた。遊んでやれってことなんだろ…多分。

 ああいう仕草はイケメンじゃないと通用しないな…



ーーー



 連休が終わり通常登校が始まった。

 俺は自転車を止めるとバス停へと向かって歩いていた。

「おはようはじめ」

 聞き慣れた控えめな声に俺は振り返った。

「おはよう若林。今日も早いな…俺は30分くらいはやくつくようにしてるのに」

「どうせ学校で一緒にいるんだし全然問題ないでしょ?」

 若林は自らの口元に人差し指を当てると可愛らしくウインクをした。

 なんかヘンリーおじさんとそっくりなんだよなコイツ…

「ウインクとか可愛いと思ってんの?正直痛い人にしか見えないから俺以外の前ではやめとけ」

「えっ…ちょっとそれどういう意味!?ねぇはじめ…って置いて行かないでっ」

 若林がなんか騒いでいたが俺は鞄を持ち直すとバス停のほうへと急いだ。



「はじめぇ〜ねぇはじめぇ〜」

 昼休み。俺はいつものように吉田と若林と昼食を食べていると吉田が鬱陶しいくらいに話しかけてきた。

「なんだよさっきから…鬱陶しいからちょっと黙ってくんない?」

「はじめ酷い!?ねぇ酷いよね?…若林さんからもなんか言ってあげてよぉ…」

 吉田はお願いするような仕草で若林を見るが当の若林は呆れたような顔をしていた。

「吉田君。ちょっと黙って。しつこい男は嫌われるよ」

「ちょっ…若林さんまで俺にのあたり強くない!?」

 それはお前のせいだよ吉田…

 吉田はあからさまに肩を落とすと空になった弁当箱を片付け始めた。

「そういえばはじめ、あんた部活とかどうするの?」

 俺が残った昼食を口に突っ込んでいると不意に若林がそんなことを言い出した。

 部活…部活ねぇ…

「今のところ入る予定はないかな。はやく帰んないといけないし」

「あー…はじめは亮ちゃん達にご飯作んなきゃいけないもんね」

 吉田が余計なことを口走ると案の定若林はピクリと反応した。

「ねぇはじめ…亮ちゃんって誰?はじめの彼女かなにか…?」

 ちょっと若林サン?目が怖いよ…というかなんでこんなに食い下がるんだ?

「いや違うよ…弟だから…って近い近い!若林もうちょい離れて」

「そう…じゃあはじめに彼女がいるとかそういうことじゃないのね…よかった…」

 若林が後半なにを言っているのかは聞き取れなかったが見た感じ俺に彼女がいないのに安堵してるんだろ。きっと自分より先にリア充になるのが許せないんだろな…

「そういう若林はどこか部活に入るのか?あー…でもお前にはちょっと厳しいか」

 若林は人と関わるの苦手だもんね。

「私は別に…はじめが入らないなら…」

「えっ?若林さんも入らないの?」

 どうやら若林も入らないようだ。俺には若林が何言ってるのか聞こえなかったけど…俺耳鼻科行ったほうがいいのかな…

 俺はそんなことを考えながら教室を見渡した。

「仲村君!野球部入ってくれ!」

「いや、ぜひサッカー部に!」

「バスケ部だよな?な?」

 教室の中央では仲村を中心に激しい部活勧誘があるようだ。なぜか仲村は男子に人気があるらしい…



「起立!礼!」

『さようなら!』

 終礼が終わり、俺が荷物をまとめているとさっきまで教卓にいた渡部が俺のほうへ歩いてきた。

にのまえ、ちょっといいか?」

「いやです。ではさようなら」

 案の定俺に話しかけてきたので即答してみた。

「ちょっと待ってぃ!開口一番に断るんじゃねぇ!」

「ぐぇ…」

 出口に向かって歩こうとしたら後ろ襟掴まれた…首がしまって変な声出ちゃったじゃねぇか…

「どうしたのはじめ?」

「どうかしたのかにのまえ

 若林と吉田が俺を呼びにきたのかこちらに来ると渡部が何やら不敵な笑みを浮かべていた…

「ちょうどいい。吉田、若林も少し協力してくれ」

 案の定というか…2人は渡部の言葉が理解できずに疑問符を浮かべていた。



 俺達は渡部に案内され部室棟の一角にあるいかにも整理されてない部屋の前にきた。

「ここは…?」

「陸上部の部室だよ。去年部員がいないから廃止されたらしい」

 若林の質問に渡部はそう言うと部室の鍵を開けた。

 ギィ…という鈍い音とともにゆっくりと扉が開くと大量のほこりが宙を舞った。

「…ちょっとなにこれ…」

「ゲホッ…ゲホッ…きたなッ!どんだけ放置されてたんだよコレ…」

 若林と吉田は咳をしながら渡部のほうを睨んだ。…にしてもホントに汚ねぇなコレ…

 当の渡部はいつのまにかマスクしてたし。

「…で?先生。まさかとは思うがどの部活の顧問でもないからって他の先生に掃除押し付けられて…それで俺達に陸上部に入ってもらってこの部屋を掃除しろとかそういうんじゃないだろうな…?」

「えっとその…あはは…さすがにのまえ!飲み込みが早いな!」

 渡部は俺から視線をそらすと開き直ったようにそう言った。

 いやいやいや…これが図星って相当ヤバいと思うけど…

「お言葉ですが先生。私はお断りします」

「我はにのまえがやるならやるぞ!」

 若林と吉田はそう言うと俺のほうを見てきた。

 …断れってことかな?

「じゃあ俺もお断りし…」

「あ、にのまえ。お前は強制な」

「は?」

 いやいや…マジで?ふざけんじゃねぇよ!強制って何?傲慢なの?ねぇ?

「強制…」

「そう。ちなみにもう入部届も提出済みだ☆」

 渡部テメェ…何してくれとるんだァァァァ!可愛らしく言ってもキモいだけだわ!

 俺は肩を落とすとゆっくりと顔を上げた。

「ちなみに俺の意思は…?」

「ない!」

「即答!?」

 呆気からんといった様子でそう言う渡部に俺は一周回って呆れていると若林が俺の肩に手を置いてきた。

「はじめが入るなら私も…」

 若林…お前なんていいやつなんだ…なんで顔を赤くしてるのかは知らないけど。

 渡部はそんな若林の様子を見て予想通りといった感じの悪い笑みを見せていた。

にのまえ!我もやるからな!」

「あ、お前はいいや」

「酷い!?はじめ酷い!?」

 吉田がいつも通りの反応をすると渡部は苦笑いをした。

「まぁ人数足りてないから同好会扱いなんだけどな…とりあえず陸上部(カッコカリ)ってことで」

 同好会なら部費とかでないし…参加も自由だから問題ないか。

「分かりましたよ…そのかわりこの部屋を私物化しても問題ないですよね?俺『強制』だし」

 皮肉を込めて渡部にそう言ってやると渡部は了解と言いながらその場を後にした。

「よし、2人とも!今から掃除…手伝ってもらうからな!」

 俺がそう言うと吉田は露骨に嫌そうな顔をした。

「我は掃除などしたことがない!よってここは何もしない!」

「ばっかお前…今この部屋掃除しないと使おうにも使えないぞ!若林を見習え!」

 さすが若林…もう掃除を始めてらっしゃる…

 俺は吉田をゴミ捨て担当にすると、若林と2人で部屋を掃除した。



「…綺麗になったな…」

「うん…」 

 掃除開始からおよそ1時間。俺達は綺麗になった部室を見渡すと満足気に微笑んだ。

明日あすからここは我らの拠点となるのだ!はっはっは…!」

 吉田の相変わらずのテンションに俺が苦笑すると若林が困ったような顔で目元を押さえていた。

「どうしたんだ?若林」

「いや…ちょっとコンタクト外れちゃって…」

 若林が手をどけると左目のコンタクトが外れたらしく黄色い瞳がこちらをのぞいていた。

「…若林。この際オッドアイだってことバラしちゃえば?」

 俺は無意識にそんなことを口走ってしまった。

 若林は少しの間固まっていたが小さく頷くと右目のコンタクトも外した。

 緑色に輝く瞳は彼女の容態と合わさってとても美しかった。

「どう…変…かな?」

「いや…そんなことはないよ。アニメや漫画なんかじゃない…俺と同じような人がいることに対する安堵のほうが勝ってるかも。…今まで若林がコンタクト外したとこ見たことなかったから…凄く、綺麗で…いいと思う」

 俺は自分でもなにを言っているのかはもうわからない。

 だけどきっと…思ったことを伝えようとして恥ずかしいことを口走った気がする。

 若林は顔を赤く染めるとこちらの様子に気付いた吉田が近づいてきた。

「2人してなにやって…あ、若林さんのその目!」

「えっと…」

 吉田は若林の顔を覗き込むとなにやらかっこいいポーズをとった。

「そうか…貴様も邪眼を解放したというのか…!」

 吉田はそう言うと「我も解放しなくては!」とブツブツ呟いていた。

「な?大丈夫だろ。こうやって周りの人も受け入れてくれるさ」

 俺は若林にそう言うと若林は再び顔を赤く染めながらニッと笑ってみせた。

「うん…ありがとはじめ。なんか…安心した」

「そ、そうか…」

 気恥ずかしくなった俺はついそこから目をそらしてしまった。

 

 俺には若林がなにに対して礼をしたのか…なにに対して安心したのかはわからない。

 それでも、彼女は自分の殻を外すことができたのではないかと…俺は思う。



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