父へ…
8月中旬。お盆である今日、俺は母さんに渡された地図を元に実の父親─五十嵐終の墓へとやってきていた。
五十嵐家と書かれた墓石はこまめに掃除されていたのか、苔の一つも付いていなかった。
「はじめ、これが義父さんのお墓?」
「そうらしいな…母さんの言葉が嘘でなければ、この中に父さんと叔母さんが入っているらしい」
一緒に着いてきた霞は俺の言葉を聞くと、持っていた水で墓石を洗い流していた。正直、俺よりも用意がいいかもしれん。
一通り洗い終え、生えていた雑草を引き抜いた俺達は、持ってきた線香に火をつけると、その両手を合わせた。
…父さん。お久しぶり、なのかな?小さい頃に亡くなった父さんの記憶はほとんどないけど、それでも俺をこの世に生み出してくれてありがとう。
そんな俺ももう高校生になりました。今は愉快な仲間達に囲まれて楽しくやってます。
今日は、父さんにどうしても会わせたい人がいて、代表で霞に来てもらったんだ。本当はもう1人、連れてきたかったんだけど…行方不明になってて合わせられないんだ。でもきっと、すぐ会えると思ってるけど。
…呪われた五十嵐の一族?そんなものに惑わされないくらい幸せになれるよう、どうかこれからも見守ってほしい。
「はじめ」
「ん…」
霞の声にゆっくりと顔を上げる俺。
いつのまにか流れていた涙は、父さんに対する感謝と…きっとどこかで会いたいと思った気持ちなのかもしれない。
一歩後ろに下がった俺は、変わるように手を合わせている霞を横目に、そっとその涙を拭った。
ーーー
「はじめ、私でよかったの?」
「えっ何が?」
「いや、今日のお墓参りだよ。ほら、こういうのって家族とかと来るんじゃないの?」
借りていた道具を返し、帰路へと着いていた俺達。俺が母さんに終わった連絡をしていると、不意に霞がそんな声を掛けてきた。
「あー…まぁ、そうなんだろうな。普通は」
「…?」
「そもそも俺はここにくるのは初めてだし、自分の実父なんて最近まで知らなかったからな。ちょっと、特殊なのかもしれない」
「そう…」
こんな言葉は建前だ。本当はもっと別の理由があって霞を連れてきたんだが…何故か適当に誤魔化してしまった自分がいた。
「なんか、さ」
「ん?」
「家族以外の人と来るってさ、不謹慎かもしれないけど…結婚報告してるみたいだなって」
「…たしかにな」
「私達、付き合ってすらないのにね」
少し俯きながらそう言う霞。
霞の言う通り、俺達は付き合っているわけでもないし婚約をしたわけでもないが…それでも、俺は霞を連れてきたかった。
きっと、理由なんて探せばいくらでも見つかる。でもそれも多分全部建前で、いつのまにか霞のことを考えてるくらいには、自分の中では大きな存在になっていることだけは嘘じゃないだろう。少なくとも、早乙女先輩がいなくなった分の穴を埋める以上の。
「….少なくとも俺は、霞が付いてきてくれてよかったと思ってるよ」
「えっ…」
「いや、なんでもない」
「もう!何よそれ!」
ボソッと俺の口から出た言葉は、自分でも驚くほど腑に落ちていて、頬を膨らませる霞を前に俺は思わず口元を緩めていた。




