今年の部活は…
5月下旬。俺がいつものように部室の扉を開けようとノブに手をかけると、何やら中から声が聞こえてきた。
「フハハハハハハッ!食らうがいい!我が究極奥義、〈超光星砲〉ッ!」
…どうやら中には吉田がいるらしい。この必殺技名(?)もどこかで聞いたことがあるから間違いない。いや、そもそもあんなの叫んでるのは吉田くらいだけど…
俺は吉田が何やら台詞を言い終えると同時に、手をかけていた扉をガチャリと開いてみせた。
「えっ…あっ…ん!んんッ!…な、なんだ一よ。我が神聖なる空間に侵入してこようとは…一体何者だ…!」
「いや、お前の中の俺の設定はどうなってんだよ…ってかさっきのはそもそも早乙女先輩が考えたやつだろ…」
「フッ…さすが一…よく分かったな」
「いや、そのスターなんちゃらって黒歴史ノートに書いてあったの知ってるからね?てか一緒にそのページ見たからね?」
「スターなんちゃらではない!〈超光星砲〉だ!間違えるでない!」
「あー…はいはい…」
フンスと胸を張ってそう言う吉田。まぁいかにも頭の悪そうな必殺技名だし、早乙女先輩が封印したくなるのもわかる気がする。
俺がそんな吉田を前に苦笑していると、不意にコンコンと扉が叩かれた。
「はいはーい」
俺は持っていた荷物をその場に置くと、未だに何やらカッコいいポーズをとっている吉田を無視して扉を開けた。
「あ、雪先輩。お久しぶりです」
「はい、1ヶ月ぶりですね。一君」
扉の前に立っていた雪先輩はそう言うと、可愛らしくニコッと笑ってみせた。
3年になった雪先輩は受験勉強の為なのかしばらく顔を合わせていなかったが…うん、見た感じ体調を崩したとかそういうことは無さそうだ。受験勉強は鬱になりやすいって言うしな…
「それで、今日は何か用でもあるんですか?」
俺がそう聞くと、雪先輩は先程の笑顔とは一点して複雑そうな表情をした。
「いや…特に特別な用事があったわけじゃないんだけどね。ちょっと一君の顔が見たいなぁ…って。迷惑、だったかな…?」
どこか寂しそうにそう言う雪先輩。頼むから上目遣いをしないでくれ…可愛くてそれどころじゃないじゃないか!
「えっと…雪先輩?別に俺、それが迷惑だとか思ったことはありませんよ?寧ろ嬉しいですよ、そんなに思われて」
「…ぁ…ぅ…」
…そう、たとえその言葉がお世辞だったとしても、雪先輩みたいな美人(ちょっと残念なところもあるけど)に言われて嬉しくならない訳がない。
「まぁ雪先輩がどう思ってるかは知りませんが、少なくとも俺は、そう思ってます」
俺の言葉に安心したのか、一瞬雪先輩はパァっと表情を明るくすると、再び寂しそうな表情で胸の前で握っていた手をギュッ握りしめた。
「嫌じゃない…?」
「えぇ…そんなことで俺が雪先輩を嫌ったりしませんよ。寧ろ大好きですからね!」
「!…本当?」
「当たり前じゃないですか」
「…!ありがとう一君。私も大好きです!では!」
調子に乗りすぎたかな…ノリというかその場の流れでつい好きと言ってしまった…まぁ雪先輩の事普通に好きだし嘘ではないんだけどね?
雪先輩は顔を真っ赤にしてそう叫ぶと、嵐のようにその場を去っていった。
…お世辞とはいえ、女性に大好きと言われるのは嬉しい。早乙女先輩がATMにされてた事実を知らなければ舞い上がって勘違いするところだった…うん。
「はじめ、顔がにやけてるぞ」
「うっせえ吉田。お前こそ口調が素に戻ってるぞ」
「フッ…なんのことやら…」
ニヤニヤと笑いを浮かべる吉田に俺がそう返すと、吉田は無駄にカッコいい声を出しながら流れるような動作で右手を自身の額に当てた。
…調子のいい奴め。いや、俺もにやけてるんだろうけど。
ーーー
「あの、霞さん…?何故俺は正座をさせられてるんでしょう…」
「…わかんないの?」
「うん」
雪先輩が去ってから数分後。部室にいた俺は鬼の形相でやってきた霞のされるがままに正座をさせられると、かれこれ5分が経とうとしていた。
「自分の胸に聞いてみたら?」
「いや、マジでわかんないってば!何?霞は一体何に怒ってんだよ?」
「ぅ…うるさい!」
頑なに理由を教えてくれない霞。いや、理由を教えてくれなきゃ謝るにも謝れないんだが…
「あれか?俺が先週連絡なしに1人で登校したからか?あれはもう謝っ…」
「違うよはじめ」
「えっと…じゃあ…」
「本当にわかんないの?」
「分かってたらこんな聞き返さないよ!?」
いつまでも平行線。この5分間ずっとこれの繰り返しである。…いや、もう思い当たる理由は全部言ったし正直もうお手上げなんだが…
俺がそんなことを考えていると、不意に部室の扉がガチャリと開かれた。
「ごめん!数学の提出物出してたら遅れて…」
「…ッ!井上さん…」
「春…!」
部室に入ってきた春は、しばらく扉の前で立ったまま固まると、ようやく状況が飲み込みはじめたのか小さく溜息をついた。
「なんでいっちゃんが正座してんの?」
「いや、その理由がわかってたら苦労してないぞ春…」
「…?どゆこと?」
俺はここ数分の経緯(正確には吉田のスターなんちゃらの辺りから)を春に説明すると、最初こそ真剣に聞いていた春だが、途中から呆れたような表情に変わっていった。(その間、霞が何も言わずにこっちをずっと見ていたが)
「…と、言う訳なんだけど」
「…はぁ…これはどっちもどっちかなぁ…悪いけどあたしも同じ立場なら似たようなことしてたかもね。いや、正座をさせたりはしないと思うけど…」
「…?どういうことだ?」
「…教えてほしい?」
ニヤニヤと悪い笑みを浮かべる春。何か企んでそうだが…背に腹は変えられない、か。
「あぁ…!」
「それはね…嫉妬、だよ」
「嫉妬ぉ?」
俺が思わず反応すると、静かにやり取りを見ていた霞が怒ったような、恥ずかしがるような表情をした後、いつのまにか俺にピタリとくっついていた春を俺から引き剥がした。
「貴女ねぇ…ッ!」
「当たりみたいだね。…負け犬、きっとさっきすれ違った如月先輩と関係があるんでしょ?先輩、いつもにないくらい嬉しそうな表情だったし、きっとその場に居合わせたんでしょ?」
「…ッ!」
「そんな気持ちも伝えられないような今の貴女にあたしは負ける気がしないよ」
「この…ッ!」
「まぁ選ぶのはあたしじゃないしね。ね、いっちゃん?」
「おう…ん?は?何の話だ?」
「そのうちわかるよ、いっちゃん…近いうちに、ね?」
春の放ったその最後の言葉は、霞の表情を曇らせるのと同時に、これからしばらくの間俺の脳内に反響しているのであった。
「あの、そろそろはじめを解放させたほうg…」
「は?」
「ご、ごめんなさいなんでもないです」
空気になっていた吉田が俺に助け舟(?)を出そうとしてくれたのかそう言うも、霞のドスの効いた声を前に速攻で掌を返した。
どうやら俺はもうしばらく正座をしていなきゃいけないらしい。…いや、マジでしびれすぎて足の感覚がなくなってきたんだけど…
一途な愛を永遠に。
みなさんこんにちは赤槻春来ですっ!
5月編(2回目)はいかがでしょうか?
私的にはそろそろ終わりも見えてきてちょっと寂しい気もしないでもない。(どっちだ)
前半は仲村と堀江兄編!堀江兄はどこか被ってるようなキャラだしあまり登場する回数は多くないかも…(個人的にははじめちゃんの周りにこれ以上男を増やしたくないだけである)
ま、またいつか出番が来るさ。うん。仲村は…平常運転だな!
後半は…如月雪編、かな?一応。
初登場が色々あったけど、いつのまにか中二病は卒業した模様…今では対人スキルが上がった、らしい。
さてさて次回は6月編ッ!体育祭だ!イェーイ!(虚しく反響する声)
…ウチの高校は例のウイルスのせいでできなかったけど、はじめちゃん達の学校ではできるのだろうか…!(もちろんやるけど)
感想や意見、アドバイスなどありましたら感想欄やツイッターのほうに書き込んでくれると幸いです。
またのんびりと更新していく予定なので気長に待っていただければ幸いです。
それでは皆さん、またどこかであいましょう。
バイバイ!




