きゃんぷ
あれから2日。特に誰と話すわけでもなく(吉田は必要以上に絡んできたが)なんとかキャンプとやらの当日になってしまった。
「おはよう一!今日からキャンプだぞ!クラスの親睦を深めるのが狙いらしい…」
学校に着いた瞬間、一番うざいやつに絡まれた…
「はいはいそーですか。どうせ俺には関係ないけどな」
吉田を適当にあしらっていると渡部が教卓の前に立った。
「お前ら荷物はちゃんと持ってきたか?今ならまだ間に合うかもしれないから再度確認するように!」
なんで担任であるあんたが一番焦ってるんだよ…
俺の荷物は亮が用意してくれたし大丈夫だな。あいつこういうことは忘れたことないから安心だわ。
「あ、やっべ…せんせー!パスモ忘れた」
「えっマジで…どうしよ…あ、交通費いらないから大丈夫だぞ!」
吉田お前忘れ物して堂々とできるとか流石だな…渡部はなんで持っていくもの把握してないんだよ…仮にも担任だろ…
俺がそんなことを考えている間にクラスの面々は荷物の確認等を終えたらしく渡部がみんなを廊下に並ばせていた。
「おい一!我らもはやく並ぶぞ」
「ん」
俺は吉田の後に続いて列に並んだ。
バスの席は昨日の話し合い(俺はもちろん参加したいない)で決まっているらしく吉田の隣だった…まぁ初対面(違います)のやつらよりはまだマシだろ。
「吉田。俺寝るから足柄インターに着くまで起こすなよ」
「えっちょっとはじめぇ俺をひとりにしないでよぉ」
「気持ち悪いからベタベタすんな!離れろ」
吉田がめんどい…いつものことだけど。適当なところで寝よ。
結局俺はバスの中で一睡もできなかった。
学習ガイダンスとやらを済ませ、ホテルに着いた俺達はそれぞれの部屋に荷物を置くと夕食をとった。
部屋割りは主席番号順で男女比が男18女20のうちのクラス(4組)は一部屋6人となっていて吉田とは別の部屋だった。(ただ、先生の目を盗んでは入り浸っていた)
室長が無能な奴だからって何もしないから最終的に俺が全部やるってのはどうなんですかね…
「あー…みんな聞こえてるか?この後の予定を説明するぞ…」
食事中、学年主任の伊藤(下の名前は忘れた)が今後の予定について説明をしていたがやたらと長かったから途中から聞き流しているといつのまにか全部食べ終えてた…(出された料理は冷めていてあんまり美味しくなかった…)
「ーで、ーがーなんだよ」
「へー…ーなんだね!」
食事を終え、風呂の時間になると俺はみんなに素肌を見られないよう端の方で体を洗っていた。
「はじめ。この後自己紹介らしいんだけど…俺はなんて言えばいいかな」
吉田がいきなり話しかけてきた。コイツ…いつになく弱気だな…
「どうした急に…いつもは『我は竜人!姫様をさがしているのだ!』とか言ってるくせに…」
コイツはいつもみんなが見てるのに中二病全開だったのに…なんでこういうときは弱気なんだぁ?理解できねぇ!
「ほら、あれはノリというか…自己紹介はみんなの視線とか全部自分のほうに注目するってわかってやるやつだから…ね?」
「ね?じゃねぇよ!なんで同意を求めるんだよ!早乙女先輩ならもっといい言い方できるんだろうけどあいにく俺は先輩じゃないんでね。そういうアドバイスは期待すんな。自分でなんとかしろよ。お前はどうせ最後の方はなんだし」
俺は泡を流すと浴槽のほうへ歩き出した。
「ちょっとほんとに助けてよぉ〜はじめぇ〜」
相変わらずうざいな吉田は。変な声出すんじゃねえよ…せっかくみんなの視覚から外れてたのに注目されたじゃねぇか…
風呂をあがりジャージに着替えると俺達はホテルのエントランスに集まっていた。これから吉田の言ってた例の地獄がやってくるらしい。
あ、髪結ぶの忘れてた…
俺がそんなことを考えているといつのまにかみんなの前に立っていた渡部が話し出していた。
「えー…これからみんなには自己紹介をしてもらおうと思う。1分程度でいいからその場で立って名前と趣味や入りたい部活とかを言ってくれ。じゃあ出席番号順にいくぞ」
渡部が話し終えると1人の男子生徒が立ち上がった。たぶんコイツが1番なんだろうけど…俺は興味ないから番号だけ聞いておこう。
「出席番号8番。井上春です。陸上部に入る予定です。よろしくお願いします」
「出席番号17番、仲村翔だ。俺の高校生活の目標は彼氏を作ってイチャイチャすることだ!よろしく!」
やたらと暑苦しい自己紹介の人が何人かいたが自己紹介というゴミイベント自体は順調に進み、俺の番が来た。
「出席番号22番…一一」
俺はそれだけ言うとそのまま元の体勢に戻った。
早乙女先輩いわく自己紹介のときに根暗なイメージを植え付けることによってみんなから距離を置くことができるらしい…
周りと関わりたくない俺としてはこれが正解かな。早乙女先輩!教えてくれてありがとうございます!
俺がそんなことを一人で考えているとどうやら吉田の番が来たらしい…
吉田は立ち上がると何故か俺のほうへ視線を向けてきた。そういうのいいからさっさと自己紹介しろや。
「し、出席番号37番!吉田快兎だ!1年間よろしくだ!」
吉田は途中から中二病モードにチェンジしたのか数字を言うあたりからやたらとテンションが高かった…
まぁそれが功を制したというべきか一部の女子からは歓声のような声が上がっていたが。
「出席番号40番。若林霞」
物静かな最後の一人が自己紹介を終えると渡部が注目と言うように手を叩いた。
「これで自己紹介は以上だ。明日はレクリエーション?的なものがあるから夜更かしすんなよ?あと、部屋でスマホは使わないように。では、解散!」
渡部が号令をかけるとクラスのやつらはぞろぞろと割り当てられた部屋へと戻っていった。
「一!我らも戻ろうではないか!」
「部屋違うけどな」
俺は渡部に会釈をすると部屋に戻ろうとした。
渡部は1人の金髪の女子生徒と話をしていた。
「悪い吉田。先に戻れ。用事を思い出した」
「む…了解した」
まぁ用事といっても渡部に呼ばれてただけなんだけど。
「お、一来たか」
俺が渡部のところへ行くと渡部は「ナイスタイミング!」とでも言いそうな顔をした。
渡部と一緒にいた女子生徒…確か若林だったか?最後に自己紹介してた人だ。若林は俺のほうを見ると驚いたような顔をしていた。
「用事ってなんですか。俺部屋に行っていいですか?」
開始一言で帰宅(仮)を提案する俺に渡部は一瞬固まるとすぐにまた話しだした。
「今は話が残ってるから終わったらな。それと話ってのはこの子のことなんだけど…」
渡部がそう言うと若林が俺から目をそらした。
「さっき自己紹介したから名前くらいはわかるだろ。単刀直入に言うとお前らには明日、一緒に行動してもらいたい」
「「は?」」
渡部のその一言に俺と若林の声が重なった。というか若林はさっさと雰囲気変わって渡部を睨みつけてるし…
「いや、ちゃんとした理由はあるんだよ…だから2人とも聞いてくれないかな?」
理由?この無愛想な金髪美少女と行動を共にするとか意味不明だわ。どんな理由だよ…
俺がそんなこと考えていると若林は呆れたように息を吐いた。
「まぁ理由ってのを聞いてあげるわ」
何コイツ超上から目線なんだけど…俺が絶対関わらないハズだった相手だ…いやマジで。
「ああ…理由、理由ね。それは2人が似たような人間だってことだよ。まぁとにかくよろしく!」
渡部は煮え切らない答えを出すと逃げるように去っていった。
えっ…マジ?この状態で若林と2人きり?俺も早く逃げなければ…!
俺は密かにそんな使命感に燃えていると若林が声をかけてきた。
「あんた…確か一とか言ったわよね…私にはあんたが似たような人間には思えないんだけど?」
「そこに関しては俺も同感だ。渡部が何を考えているのかは知らないが…なんか明日は共に行動しなければならないらしい」
自分で言ってて思ったけどこれやっぱ理不尽だわ。
「そうね…渡部がああ言うってことは何かあるんでしょうし…あんたがどんな人か知るためにも明日一緒にいるくらいは許してあげるわ」
「お、おう…」
この女…なんか超上から目線だし意味不明だけど明日は一緒に行動しないといけないらしい…というかあれだけ言っといて断らないのかよ!勢いで返事をしてしまったが本音は絶対ゴメンだね!
結局、俺は明日のレクリエーションとやらに参加するとき若林と行動することとなった。
「どうした一、そんな疲れた顔をして」
俺が部屋に戻ると冴えない表情をした坊主頭の少年が話しかけてきた。コイツは確か…仲村だったか?どんなやつだか知らないが俺はこれからも話しかけたりされたくないからとりあえず憎まれ口を叩くことにした。
「俺に話しかけてくるとはあんたも変わってるな。入学早々長い髪を三つ編みにしてる変態に何の用だ?」
というか私立高校なのにこんなに規則ゆるくていいのか?
「自分で自分のことを変態って言う人は初めてだよ。さっき自己紹介したけど俺は仲村翔。これから一年よろしくな一」
仲村は俺の言葉を綺麗にかわすと仏のような笑みでそう言った。あ、仏のように見えたのは坊主頭がライトで照らされてただけか。
俺は反射的に出された手をはたき落とすと明日に備えて(いろんな意味で)早く寝ることにした。まぁ他の面子はもう寝てるんだけど。
キャンプ2日目。
俺達は朝食をとるとクラスごとにレクリエーションをする集合場所に集まっていた。朝食は冷めていてあまり美味しいとは思えなかったが。
レクリエーションは男女混合でやるらしく始まった直後、俺は昨日渡部に言われたとおりに部屋の隅に座っている若林のほうへ向かった。
「おはよう」
「お、おはよう」
普通に挨拶されたからビビった…若林はつまらなそうにクラスのやつらを眺めていた。
「ずいぶんとつまらなそうだな。あの中に入らないのか?」
若林は俺の言葉が気に食わなかったのか一瞬俺のほうを睨むとすぐに視線を戻した。
「別に…私は人と馴れ合ったりすることがあまりないから」
「そうか…」
そうやってみんなを見る若林は心なしか寂しそうにも見えた。
俺はクラスの女子に埋もれている吉田を見つけて思わず苦笑してしまった。
昼時。
レクリエーションは一通り終わったらしく昼食待ちといった様子で新しくできたグループに分かれていた。
俺と若林は結局最後までレクリエーションには参加せず遠巻きに空を眺めていた。
「はじめ」
「ん?」
若林が不意に呟いた。
落ち着け俺…勘違いするな…『はじめ』という言葉はたくさんある…これで俺の名前呼んだと考えるのは自意識過剰すぎる…!
「あんた、なに無視してんの」
俺がそんな自問自答していると若林が機嫌悪そうに俺の肩を叩いてきた。どうやらあれは俺の名前を呼んだらしい…
「いや、俺のことじゃないかと」
「馬鹿なのあんた…はじめって名前の人はあんたしかいないじゃない」
へーそうなんだ…じゃねぇ!いきなりファーストネーム呼びとか流石にひびるわ!
「で、どうしたんだ?」
俺は自分の焦りを悟られないようできるだけフラットに…クールに返した。(そのつもり)
「いや…昨日の夜は髪おろしてたけど今日も三つ編みなんだねって」
「なんだよ。男なのに長い髪を三つ編みにしててキモいのか言いたいわけ?」
「いや…あんた顔立ちが女っぽいからか普通に似合っててキモい」
えぇ…結局キモいって言われるのかよ。
まぁ顔立ちが女っぽいのは知ってるし始めてやったときに鏡見て『似合ってるじゃん!』って自分でも思っちゃったけどさ…
「結局キモいことに変わりはないんだな…で、言いたかったのはそれだけか?」
「いや…私、こういう空気ってなんか心地いいからさ…なんていうかありがと」
若林は思ったことを全て言葉にしてしまう癖があるのか随分とストレートに言ってくる。
若林はそれだけ言うと出来上がった昼食のカレーを取りに食堂へと向かっていった。
「一よ!我と食堂へ行こうではないか!」
「吉田…お前は少し静かにしろ。あとお前のキャラよくわかんねぇよ」
いつのまにか女子軍団を抜けてきた吉田が大声でそう言うと俺は逃げるように食堂へ向かった。
「ちょっと!待ってよはじめぇ!」
昼食のカレーは暖かく美味しかった。
昼食を済ませみんながバスに乗り込んでいる中、俺は再び渡部に呼び出されていた。
「どうしたんですか?また俺を呼び出して」
「いや、今日若林と一緒にいてもらって何かわかったこととかあれば聞こうかなと思って…あの子は昔の俺によく似てるからな…担任としてもなんとか手を差し伸べてあげたいんだ」
渡部は明後日の方向を見ながらそう言うと俺のほうへ向き直った。
これは…答えなきゃいけないパターンだな…
「いいですよ。俺は見ただけなんで先生の方が知ってるとは思いますけどね。若林はオッドアイなんじゃないですか?」
あくまでこれは予想だ。実際若林がどうなのかは知らないし昨日の渡部の言葉と合わせて勝手に導き出した答えだ。本人のプライバシーとかもあるしね。
渡部は俺の答えが意外だったのかその場で固まっていたがすぐに笑うような表情を作った。
「よくわかったね。まさかそこから当ててくるとは俺も思わなかったよ」
笑いながら言う渡部は俺を心底苛つかせる…渡部はそんな俺の言いたいことがわかっているのか言葉を続けた。
「人を問題…要は遊びみたいにするなって顔だね。一に頼んでおいてよかったよ」
渡部がそう言うと物陰から若林が出てきた。
「最初から聞いてたよ。これは私が先生に頼んだことだからね。やっぱりはじめはわかったんだ」
どうやら今回の呼び出しは若林主導だったらしい。俺が渡部のほうを見ると渡部はそうだよと言うように頷いた。
「で、若林はなにをしたいんだ?俺にオッドアイってことを知られてなんともないとかそういうんじゃないだろ?」
「別に…なにもしないわ。というより私はなんでそれがわかったのか聞きたいけど」
今の若林は午前と違ってどこか楽しそうだった。
「いや、黒いカラーコンタクトしてるからな。俺も小学生の頃はつけてたからそれぐらいはわかる。あとは…昨日の渡部が言ってたことから導き出しただけだ」
俺がそう言うと若林ははてなといった様子で首をかしげた。
「確かにカラーコンタクトなのはあってるけど…なんで先生が出てくるの?先生は私達が似た者同士としか言ってなかったはずだけど…」
若林は俺がオッドアイなのは気づいてないのか?完全に俺の妄想からの答えだからあんまり説得力ないはずなんだけど。
「若林…こっち見ろ」
俺は若林なら知っていても問題ないと思い、前髪をかきあげると隠れていた右目が見えるようにした。
「えっ…」
「俺の右目もこんなだから別に俺はなんとも思わないし先生が言ってた似た者同士ってこういうことなんじゃないか?それに若林の場合は相手との適切な距離を取ることが苦手なんじゃないか?だからあんな口調になって…」
俺が話していると若林は驚いた様子で固まっていたがそのまま渡部のほうへ目をやると渡部は意味ありげに笑っていた。
「一…お前はほんとによく観察しているな。今日の二人の様子を見る限り俺には誰かと仲良くするってよりは2人きりのほうが楽しそうに見えたんだが…実際どうなんだ?このクラスに馴染めそうか?」
俺にはなぜ渡部がここまで若林を気遣うのかわからないが…渡部のが考えなしに動いているようには思えない。
「まぁ…悪くはなかったわ」
俺がそんなことを考えている間に若林は答えた。まぁ俺も案外心地いいと思ったのは同感だ。
「じゃあこれからは若林のこと一に任せようかな。俺はお前らなら楽しく学校生活を送れそうな気がするからな。よろしく頼むぞ!一!」
若林はなぜかそれに賛同らしく首を縦に振っていた。
こうして俺は半ば強制的にこれからも若林と行動を共にすることとなった。
渡部の話が終わり俺達はバスに乗ると吉田は待ちくたびれたらしくスマホをいじっていたが俺が隣に座った瞬間、何かに取り憑かれたようにものすごい勢いで話しかけてきた。
「はじめ!誰だあの美人!?いつの間に仲良くなったんだ!?俺にも紹介してくれよぉ〜」
帰りのバスの中、俺はそんな吉田を無視しながらひとり考えていた。
「はぁ…」
俺はこれから一年間、渡部に振り回される予感がしてたまらなかった…
一途な愛を永遠に。(挨拶)
どうも、赤槻春来です!
『足して2つの高校生活』どうでしたか?(質問)〔きゃんぷ〕は平仮名で正解です。片仮名じゃありません。
主人公の一は体の色素が薄いところがあって右目だけ赤い…前髪で隠しているところがまたいいですよね。
今回のメインは若林霞さん!一に続いて色々と詰め込んだ感はありますが…メインヒロイン枠は彼女で決定ですね!(提案)
二人のこれからを書くのが楽しみです。
面白いと思ったら今後も読んでくれると嬉しいです。感想やアドバイスなどありましたら感想やツイッターなどに書き込んでくれると幸いです。
次の更新はまだ後になると思いますが楽しみに待っててくれると嬉しいです!
それではまた(後書き部分で)お会いしましょう!